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コーヒーで旅する日本/関東編|シアトルで見た“街の居場所”を地元・藤沢に。コーヒーとコミュニティで人をつなぐ「SAZANAMI COFFEE」

  • 2026.10.28

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも関東エリアは、伝統的な喫茶店から最先端のカフェまで、さまざまなスタイルの店が共存する、まさに日本のコーヒー文化の中心地。

東京をはじめ、関東近郊にある注目店を紹介する当連載。焙煎士や店主たちが教える“今、注目すべき”ショップをつなぐ、コーヒーリレーの旅へ。

訪れる人たちは年齢も目的もさまざま
訪れる人たちは年齢も目的もさまざま

第29回は神奈川県藤沢市にある「SAZANAMI COFFEE(サザナミ コーヒー)」。店主は会社員を経てコーヒーの道へ。アメリカ・シアトルに渡り、現地のコーヒーショップでバリスタ、そして焙煎士として経験を積んだ人物だ。帰国後、生まれ育った藤沢に開いたのは、コーヒー好きに限らず、誰もが気軽に利用できるコミュニティの場となるカフェ。大学時代から思い描いてきた“地元のコミュニティスペース”は、どのようにして形になったのか。沢田さんのコーヒー人生とともに見てみよう。

店主の沢田真洋さん
店主の沢田真洋さん

Profile|沢田真洋(さわだ・まさひろ)

神奈川県出身。大学卒業後、大手広告代理店に勤務。その後、会社を退職し、転職を前に語学留学のため、アメリカ・シアトルへ渡航する。そこで出合ったカフェ文化に魅力を感じたことが、コーヒーの世界に足を踏み入れるきっかけに。現地のコーヒーショップに勤務し、バリスタや焙煎士として経験を積む。2019年12月に帰国すると、日本のカフェでバリスタ兼豆の卸責任者としても活躍。2022年9月に地元・藤沢で「SAZANAMI COFFEE」を開業。2025年7月には、店の道向かいに焙煎所とギフトショップをオープンさせるなど店舗展開を進める。

カフェ開業の夢が現実に。シアトルで訪れた転機

シアトルで出会ったカフェ文化が、店づくりの原点
シアトルで出会ったカフェ文化が、店づくりの原点

沢田さんがカフェ開業を意識し始めたのは、大学3年生のころ。ただ、そのきっかけは意外にもコーヒーではなかった。

「地元・藤沢に老若男女が集まれるコミュニティの場所をつくりたい。最初にあったのはそんな想いだったんです。では、どんな形がいいんだろうと考えたときに、誰でも気軽に立ち寄れるのはカフェだなと。コーヒーが好きだからカフェをやりたい、というよりは、コミュニティをつくるための手段としてカフェを選んだという感じですね」

当時、すでに“波”を意味する店名とロゴまでを考えていたという沢田さん。しかし、その計画で描いていた開業時期は、なんと50歳の予定だったそう。

「人が集まる場所をつくるなら、自分自身がいろんな経験をして、コミュニケーション力も磨いておかないといけないかなと。だから30年くらい社会で経験を積んで、それから開こうという、かなりの長期計画の予定でしたね笑」

作業の合間でも人とのコミュニケーションを第一に考えるのが、彼のスタイル
作業の合間でも人とのコミュニケーションを第一に考えるのが、彼のスタイル

大学卒業後に大手広告代理店に入社。4年勤めたあと、スポーツブランド会社への転職が決まっていたが、入社前に英語とビジネスを学ぶため、1年間の予定でアメリカ・シアトルへ留学する。それが店主の後の人生の大きな転機となった。

「語学留学を目的に渡航したのですが、実はシアトルがスターバックス発祥のコーヒーの街だということを知らなくて。ずっとカフェ開業の夢を持っていたので、合間を見てはカフェ巡りをしていたんですよ。シアトルの街に根付いたカフェ文化を体感するなかで、完全にハマっていって。留学から3カ月ころには転職先の内定を辞退して、現地のコーヒーショップで働き始めました。それがコーヒー人生のはじまり」

「コーヒーの品質だけで見れば、例えばオーストラリア・メルボルンの方が質が高く、シアトルは劣るかもしれない。でも、コミュニティとして街に根付いているかという見方をすれば、世界一かもしれない。コーヒーを飲むことが、日常になっているんですよね」

コーヒー以外のドリンクのほか、スイーツ系も充実。好みで選べるメニュー展開がうれしい
コーヒー以外のドリンクのほか、スイーツ系も充実。好みで選べるメニュー展開がうれしい

「シアトルは、『マイクロソフト』『Amazon』といった世界的なIT企業が集まる“第2のシリコンバレー”と呼ばれる場所。その一方で、人間味のあるカフェ文化がすごく高いレベルで共存している街なんです。デジタルな世界を知っているからこそ、みんなが人の温かさを求めてカフェに集まるんじゃないかなと。その光景が、大学時代に思い描いていた理想とぴったり重なりました。これまでのビジネスライクな会社員生活とのギャップもあって、カフェの世界に一気に引き込まれましたね」

当初は1年間の予定だったが、結局シアトルでの滞在期間は約2年半。バリスタとして1年、焙煎士として1年半、コーヒーの現場に身を置いた沢田さん。当時、まったくの未経験ながらも確かな技術と知識を得たと同時に、人々の暮らしに深く根付いたコーヒー文化を肌で感じられた貴重な期間となった。

【写真】自家焙煎の豆はシングルオリジン、ブレンドを用意。焙煎度も幅広く選べるラインナップ
【写真】自家焙煎の豆はシングルオリジン、ブレンドを用意。焙煎度も幅広く選べるラインナップ

2019年12月に帰国すると、すぐに自分の店を開くのではなく、シアトル滞在中に感銘を受けた「VERVE COFFEE ROASTERS(ヴァーヴ コーヒー ロースターズ)」でさらに経験を積むことにした沢田さん。日本にもある店舗に在籍し、バリスタや豆の卸責任者としても活躍しながら約2年勤めた。

「シアトルではコーヒーの基礎を、“VERVE”では店舗運営のノウハウを主に学びました。その2つがあったからこそ、自分のお店をはじめられたと思います。その後はポップアップ営業などをしながら準備期間を経て、2022年9月、ついに『SAZANAMI COFFEE』をオープン。当初は50歳で開くはずだったお店ですが、計画よりもずっと早く、また地元・藤沢に開業することができました」

対象は“全生物”。藤沢のカフェに広がるコミュニティーの輪

ワンオペでも全体が見渡せるようにと、あえて12席ほどの広さに留めている
ワンオペでも全体が見渡せるようにと、あえて12席ほどの広さに留めている

店に入るとまず感じるのは、その自由で温かな空気感。カウンターで店主と話し込む常連客、ふらりと立ち寄った初めての人、パソコン作業に没頭する人、そして犬を連れた人まで。訪れる人たちは実にさまざまだ。

「お店のターゲットは“全生物”、誰でもウェルカムなんです笑。犬同伴もOKだったり、空間づくりもそうですが、メニューにしても誰でも来られるようにしたいという思いから、紅茶やソフトドリンクなど幅広く用意しています。これもシアトルのカフェ文化に倣ったものです」

カウンター越しに、自然と会話が生まれていく
カウンター越しに、自然と会話が生まれていく

「たぶん日本で一番ルールがない、すごく自由なお店だと思います。ワンオーダー制も時間制限もないので、極端に言えば水だけで何時間いてもらってもいい。それでもお店が成り立っているのは、本当にありがたいことです。ただ常連さんも初めての方も、みんなが気持ちよく過ごせるように、僕の思いははっきりと伝えるようにしています。全員にフラットに接すること。そこは昔から変わらない軸ですね」

藤沢駅南口から歩いて2〜3分。街の日常に溶け込むように佇む
藤沢駅南口から歩いて2〜3分。街の日常に溶け込むように佇む

「一人で全体をコントロールできるように、満席時でもそれぞれの声が届いて、すべてが見渡せるのが、この広さ。最優先は人とのコミュニケーション。お店での作業はほぼ無意識でやっていて、常に会話をしながら、またお客様がどう過ごしたいのかをサポートできるかを考えていますね。その日によって来る人が違うので、店の雰囲気も日々違って、まったく飽きないんですよ。まるでカウンターから映画を見ているような感覚。そんな楽しさがあるので、毎日、遠足前の小学生みたいなワクワクとした気持ちなんです」

豆は約5〜6種類。ブレンド「FUJISAWA SEA BLEND」以外は、時期ごとに変わる
豆は約5〜6種類。ブレンド「FUJISAWA SEA BLEND」以外は、時期ごとに変わる

コミュニティを大切にする一方で、決して譲らないのがコーヒーのおいしさだ。

「カフェである以上、もちろんコーヒーのおいしさも大切。だから味の探求は絶対に怠りません。僕にとってコーヒーは、コミュニティをつくるための一番大事な“ツール”。コーヒーがおいしいからこそ、コミュニティが成り立つと思っています」

焙煎機は韓国製の「イージースター」。焙煎所の横には、約80人のアーティストの作品を集めたギフトショップがある
焙煎機は韓国製の「イージースター」。焙煎所の横には、約80人のアーティストの作品を集めたギフトショップがある

「実は当初、自家焙煎はしていませんでした。それはシアトルで焙煎士をやっていたからこそ、日本での焙煎は職人的で孤独な作業だとわかっていたから。コミュニケーションが軸の自分のスタイルとは合わないと思ったのが理由ですが、後々、味を追求するために必要性を感じて。焙煎機を導入したのは2025年7月から。焙煎はQグレーダー(国際コーヒー鑑定士)の資格を持つ焙煎士が行い、チームで店の味をつくっています」

焙煎機は安定感に定評のある「イージースター」4キロ釜。浅煎りから深煎りまで幅広くそろえ、どんな好みにも応えられるようにしている。なかでも浅煎りは、常に特徴の異なる約3種類を用意し、さらに選ぶ楽しみを提供している。

コミュニティとコーヒーの相乗効果。ここにしかない“濃い空間”

家でも再現しやすいようにと、あえて手頃な「ハリオV60」を使用
家でも再現しやすいようにと、あえて手頃な「ハリオV60」を使用

一人ではじめた店は、現在では焙煎士やギフトショップ「Bouquet(ブーケ)」のスタッフも加わり、今ではチームとして成長を続けている。それでも、店舗を増やすことには興味がないという沢田さん。

「このお店の雰囲気やコミュニティは、すごく属人的なもの。こういったソフト面(目に見えないもの)は、再現性がはるかに難しいので私の目の届く範囲で、密度の濃い世界をつくっていきたいんです。コミュニティとコーヒー、どちらも同じくらい大事で、お互いを高め合う関係なんですよね」

「中深煎りブレンド」(HOT550円)、「キャラメルソースのワッフル」(550円)
「中深煎りブレンド」(HOT550円)、「キャラメルソースのワッフル」(550円)

遥か先にあった夢は、会社員時代に培ったコミュニケーション能力やシアトルで積み重ねたコーヒーの技術によって、随分と早く叶った。だが、大学時代に抱いた「地元・藤沢にコミュニティをつくりたい」という思いは、少しもぶれていない。

おいしいコーヒーを介して、人と人がゆるやかにつながっていく。カウンターのなかで誰よりも楽しそうに笑う沢田さんの姿に、藤沢の海に広がる“さざなみ”のような温かさを感じた。

【「SAZANAMI COFFEE」のコーヒーデータ】

●焙煎機/EASYSTER 4キロ(半熱風式)

●抽出/ハンドドリップ(ハリオ V60)、エスプレッソマシン(マルゾッコ)

●焙煎度合い/浅〜深煎り

●テイクアウト/あり(550円〜)

●豆の販売/150グラム1700円〜

取材・文/GAKU(のららいと)

撮影/大野博之(FAKE.)

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