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「老害」にならないためには? Netflixシリーズ「俺のこと、なんか言ってた?」が紡ぐ、いまを生きる私たちへの応援歌。

  • 2026.10.28

Netflixシリーズ「俺のこと、なんか言ってた?」あらすじ
●大物二世俳優の高瀬川玄(役所広司)はロンドンのグローブ座にてシェイクスピア劇『リア王』の成功を収め、数年後、パンデミック後の日本に帰国する。が、家族やスタッフ、世間が自分のことをまったく覚えていない……?

●ワクチン接種の副反応により記憶が消滅してしまった日本人。突然、自分のことを誰も知らなくなった国内で、プライドをズタズタにされながら高瀬川はバイト生活を強いられる。

●名声に胡座をかいていたことに気づかされた高瀬川は、セリフのないエキストラから役者をはじめ、人生をリスタート。そこには数年前までの立ち位置で知ることのなかった、撮影現場の現実が待っていた……!


(文・小林久乃)

企業のセカンドキャリアセミナーの資料にしたいドラマ

映像作品を観る時に決めているのが「この制作者が何を言いたいのか」を読み解くこと。作品の解釈は視聴者に委ねられるので数式のような正解はないけれど、制作者への拝謝を込めて持論を探す。それらが以下の原稿に繋がっている。

今回はこの秋、確実に話題になるであろうNetflixシリーズ「俺のこと、なんか言ってた?」について書いていくのだが、全8話の最終話で、思わず涙が出てしまったことを先に伝えたい。もちろん本作はお涙ちょうだいの感動作ではなく、脚本家・宮藤官九郎、プロデューサー・磯山晶氏によるコメディ。落涙は脚本のテクニカルな面への感嘆と、高瀬川への応援が詰まったものだった。

では本作の要旨について考えると……「中年に捧ぐ一歩一考」が浮かんだ。演じている役所広司も日本を代表する俳優だけど、高瀬川玄も親の名跡を継いだ二代目で、俳優としての才能を持ち、金銭的な苦労は知らずに生きてきた。

離婚歴は2回、浮気は芸の肥やし、付き人へのパワハラや制作スタッフへのパワハラも上等の60代後半の俳優。おそらく彼の時間は平成前期で止まったままなのに、周囲が彼のわがままを許してしまったせいもあって裸の王様状態だった。

「俺は高瀬川玄だ!」

何度連呼したところで、負け犬の遠吠え。誰も彼のことを知らない。俳優しかできない高瀬川は、渋々と参加したエキストラで撮影現場のスタッフの疲弊、ベテラン役者の独裁ぶり、渋滞する差し入れ、高額なロケ弁、俳優同士の偽善ばかりの人間関係……と、見過ごしていた現実に直面する。その状況に都度、心で突っ込み、高瀬川がエキストラから主役級の役者へ前進していく際に、現場の状況も同時に変えようと試みる場面もあった。そう表現すると格好はいいが、ドラマ全8話ぶんも使っておじさんが四苦八苦しているドラマなのは忘れないでほしい。

高瀬川に限らず、ただ年を重ねているだけで横柄な態度をするおじさん、おばさんは社会にいる。時には「老害」とカテゴライズされて、SNSにその様子を晒されている。私自身も時折、若手スタッフとの感覚の乖離を感じるときもある。

(まずい、インチキおばさんになっていないだろうか……)と、危惧をしながら勉強を重ねて、心がけているのは「相手の意見をまず否定せず、まず受け入れる」という感覚のDX化だ。高瀬川も当初は自分以外に対して否定ばかりばかりしていたが、最終的には現在の自分の存在地を認めて性格も柔和になり、まずは相手の言い分を笑顔で聞くようになっていた。

「だって高瀬川玄じゃないもん、(エキストラの)田中卓だもん。俺にとって高瀬川玄は超えなきゃいけない存在なんです。(中略)過去の栄光にすがってどうすんのよ」

「我ながら、承認欲求モンスターで申し訳ない(笑)」

このドラマ、企業のセカンドキャリアセミナーで観せる価値がある。絶対にある。

河合優実と同じ時代に生きていて良かった

作品の訴求点とは別に、エンターテイメントとしての傑作ぶりはいくつもあった。数えていくとキリがないほどおもしろかったので、2点だけ。

まずは高瀬川の娘役・野々村エマを演じた河合優実だ。彼女がセリフに頼らず、役の人生をそのまま呼吸しているように演じる、見事な俳優であることは周知の事実。

今回はパパ活をしながらコンセプトカフェで働くフリーターで、世間知らずの女性の役。これが信じられないほどハマっていて、初見で思わず「河合優実と同じ時代に生まれて良かった……」とつぶやいた。もし彼女と半世紀ズレて生きていたら、この芝居が見られなかったと思うと……。自分の見た目にそぐわないメイクや雰囲気との距離感を河合が把握しているのか、ちょうどいい塩梅の不器用そうなギャルがそこにいた。ここは刮目する価値がある。

あとは最終話で観られる、「俺のこと、なんか言ってた?」の総括。詳細に書くとネタバレにもほどがあるので控えるが「ああ、テレビドラマにはこんな手法のまとめ方があったのか」と膝を打つエンディングがあった。これはそれぞれの視聴スタイルで、ぜひ確かめてほしい。

なんだか悔しい気もするけれど、高瀬川のこと、さんざんなんか言ってしまった。いや、書いてしまった。

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