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80代男性「絶対に飲みません」薬の受け取りを拒否→玄関には“70日分”の未開封薬が…薬剤師が知った切実な理由

  • 2026.11.8
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

薬を届けに訪ねた自宅の玄関先で、80代の男性が「絶対に飲みません」と受け取りを拒みました。

靴箱の上には、未開封の14日分の薬が5袋。

ただの頑固さに見えた拒否の裏には、同居する娘さんの一言と、本人が初めて口にした切実な理由がありました。

頑なな拒否の言葉と、靴箱の上に積まれた薬。その光景は、単なる飲み忘れではないことを物語っていました。

「絶対に飲みません」の一点張りで、受け取りすら拒む男性

初冬の午後、薬をお届けするため、80代の男性のお宅を訪ねました。2か月前に退院された方で、心臓の薬が処方されており、2週間ごとに薬局から自宅へお届けしていました。

玄関を開けた男性は、私の手にある薬の袋を見るなり、首を横に振りました。

「絶対に飲みません。持って帰ってください」

杖を握る手に力が入り、顔をそむけたまま目も合わせてくれません。理由を尋ねても「飲まんと言ったら飲まん」の一点張りです。

ふと視線を落とすと、玄関の靴箱の上に薬の袋が積まれていました。数えると、14日分の袋が5つ。70日分にもなる薬が、未開封のまま放置されていたのです。

今まで届けた分は、ほとんど飲まれていなかったことになります。

同居する娘が小声でつぶやいた「夜中に何度も起きているんです」

強く勧めても逆効果だと感じ、私は言葉に詰まりました。そのとき、奥から出てきた同居の娘さんが、男性に聞こえないよう小声でつぶやきました。

「父、夜中に何度も起きているんです」

この一言が、頭に引っかかりました。単なる飲み忘れや、薬が嫌いというだけではなさそうです。

拒否の背景には、夜の何かがある。そう感じ、私は男性が座るのを待って、ゆっくりと話を聞いてみることにしました。

拒否の理由は、夜間のトイレへの不安だった

娘さんの一言を手がかりに話を聞くと、男性が長いあいだ胸にしまっていた不安が見えてきました。

玄関の上がり框に腰かけた男性に、「飲みたくない理由を、教えていただけませんか」とお尋ねしました。男性はしばらく黙っていましたが、やがて低い声で話し始めました。

「夜中にな、トイレで3回も4回も起きるんだ。この薬を飲むと、もっと近くなると聞いた。暗い廊下で転んだら、もう歩けなくなる。去年、同い年の友達がそれで寝たきりになったんだ」

男性が処方されていた薬には、尿の量を増やす成分が含まれています。男性はそれを知って、夜のトイレがさらに増えることを恐れ、薬を飲むのをやめていたのです。これが、拒否の真相でした。

「そんなことを言うのは、みっともないと思ってな」

男性はそう言って、少し照れくさそうに目をそらしました。娘さんも、「そんなことを考えていたなんて、初めて聞きました」と驚いた様子でした。

ただの頑固に見えた行動の裏にあった、切実な理由

私は、その不安をそのまま医師に伝えさせてほしいとお願いしました。

薬の種類によっては、飲む時間を朝にまとめるなどの工夫ができる場合があります。男性は「そんなことで済むなら、もっと早く言えばよかったな」と、長い息を吐きました。

靴箱の上の袋を見つめながら、「頑固な態度」に見えていたものの裏に、転ぶことへの強い恐れがあったことを思い知りました。夜のトイレは、誰にとっても人に言いにくい悩みです。

【アドバイス】飲みたくない理由は、遠慮せず医師や薬剤師に一言伝える

飲みたくない理由が、恥ずかしいことや些細なことに思えても、遠慮せず医師や薬剤師に一言伝えてください。

副作用への不安や、生活のなかで困ることを知らせてもらえれば、飲み方や薬の見直しにつながります。ご家族も、飲まない姿を「頑固だから」と決めつけず、「何が心配なの?」と尋ねてみてください。


ライター:下田篤男

京都大学薬学部総合薬学科を卒業後、調剤薬局やドラッグストアグループで薬剤師として勤務してきました。総合病院の門前店舗では管理薬剤師を務め、たくさんの患者さんと向き合う日々のなかで、「薬を渡す」だけではない、人と人との関わりの大切さを実感しています。現在は薬剤師として現場に立ちながら、医療記事の執筆・編集や薬局経営コンサルタントとしても活動中。読者の皆さまに、薬局がもっと身近で頼れる場所になるような情報をお届けしていきたいと思っています。


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