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仕かけ人はプロギャンブラー、「MONAバンコク」が2029年に開館予定

  • 2026.10.22
「MONAバンコク」、建物のレンダリング。建設地は、ラーマ5世期に設けられた国際交易港の旧倉庫群を再生した、チャオプラヤー川沿いの複合施設「アジアティーク・ザ・リバーフロント」。メルボルンを拠点とするシックス・ディグリーズ・アーキテクツによる初期案では、水面に囲まれた二つの巨大な三角形の造形が目を引く。 PHOTO: COURTESY OF MONA, AWC AND SIX DEGREES ARCHITECTS

プロギャンブラーがつくった規格外の美術館が次の大勝負に出る。タスマニア島のホバートにあるMONA(Museum of Old and New Art)が、タイの大手不動産会社Asset World Corp(AWC)と組み、2029年、バンコクに「MONAバンコク」の開館を目指す。

仕かけ人のデヴィッド・ウォルシュは、筋金入りのプロギャンブラーだ。大学で数学とコンピュータ科学を学んだ彼は、配られたカードを記憶して勝率を読むカードカウンティングでブラックジャックを攻略し、のちに競馬の結果を予測するコンピュータプログラムを開発。確率と群衆心理を読み、巨額の富を築いたことで知られる。

だが、「ギャンブルは金を移動させるだけで、何も生み出さない」と考えた彼が次に選んだ賭けが美術館だった。しかも建設中に資金が尽きると、競馬の大勝で窮地を切り抜けたというのだからスケールが違う。MONAそのものが途方もない“大ばくち”だったというわけだ。

その資金を投じて2011年に開館したMONAは、オーストラリア最大の私立美術館。古今のアートを収めながら従来の美術館の作法をことごとく覆した。来館者はフェリーで川から上陸し、三畳紀の砂岩を掘り込んだ地下迷宮へ。古代のミイラと現代美術、崇高と悪趣味、そして同館を象徴する「性と死」が平然と隣り合い、壁の解説はなくアプリを頼りに自分で道筋と意味を探す。白い壁の権威も美術史の年代順も吹き飛ばす、ウォルシュいわく「既成概念を覆す大人のディズニーランド」だ。開館以来、来館者は520万人を超え、MONA発の冬の音楽祭「Dark Mofo」とともに人を呼び込み、静かな港町ホバートは世界的な文化都市へとさま変わりした。

次の舞台は、バンコクのチャオプラヤー川沿いの 「アジアティーク・ザ・リバーフロント」。初期案では、水に囲まれた二つの巨大な三角形がそびえる。対岸からは、総事業費20億バーツ(約95億円)超のケーブルカーが直結し、移動そのものが光、音、テクノロジーを融合した体験になるという。近年のバンコクではバンコク・アート・ビエンナーレをはじめ、既存の私立美術館MOCAバンコクや、昨年オープンしたディブ・バンコクなど現代美術をめぐる動きが活発化。

タスマニアで闇や性、死を掘り下げたMONAが、バンコクでは「光」を物理現象と比喩の両面から探究する。分館としての存在というよりも、タイのアーティストや文化、工芸と国際的な表現を交差させ、この街だからこそ生まれる場所をつくっていく。街全体を巻き込む巨大な文化実験。ウォルシュの次の賭けは、またも美術館の常識をひっくり返すことになるだろう。

From Harper's BAZAAR art no.6

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