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【桐谷健太さんインタビュー】「自分の声を聞くプロになる」50代・60代を心地よく生きるヒント

  • 2026.10.22

舞台『聖地X』で5年ぶりに舞台に立つ桐谷健太さん。3回目となる舞台作品では、これまでにないほど、演じる喜びに満ちているそうです。46歳の今、桐谷さんのマインドが緩やかに変わったきっかけと、今の楽しみ方を伺いました。

5年ぶりの舞台で手放した、“演じる正解”

舞台『酔いどれ天使』以来、約5年ぶりに舞台へと帰ってきた桐谷健太さん。オファーを受けた時の喜びと、劇作家・前川知大さんが描く世界観への魅力を生き生きとした表情で語り始めます。

「本当にありがたいなと思いましたし、PARCO劇場でやらせていただくのも初めてなので、すごく嬉しかったです。脚本は読めば読むほどおもしろくて、いろいろな発見があるんですよね。日常会話のクスッと笑えるおかしさの向こう側に、人とのつながりや『信じる力』の強さが描かれている。ちょっとゾクッとするところも含めて、観客の皆さんにしっかり届けたいと思っています」

桐谷さんが演じるのは、裕福な実家で働きもせず悠々自適に暮らす、山田輝夫という一風変わった人物。ドッペルゲンガー現象をきっかけに奇妙な世界へと巻き込まれていきますが、その役柄に対するアプローチも独特です。

「自由でマイペース、好奇心旺盛でおもしろそうなことには首を突っ込んじゃう。でも根っこには妹思いなところがあったり、人間味がすごくあるんです。言いにくいことをズバズバ言うのに、なんだかんだ周りから好かれているというニュアンスを演じるのはチャレンジングですね。決めつけすぎずに常に台本に触れて、自分のなかで『遊び』を持たせることを意識しています」

1回目や2回目の舞台出演時は緊張や怖さが先行していたといいますが、3回目となる今回は、「感謝」の思いにあふれているのだそう。その違いはどこから来るものでしょうか?

「なんでしょうね……。きっと、いろいろ経て、『当たり前』なんてないんだなとつくづく感じるようになったからだと思います。舞台に立てるありがたみや、共演者・観客の皆さんとその場だけの時間を共有できる喜びを、より深く感じられるようになりました」

「自分が自分が」から、みんなで作る喜びへ

桐谷さんは少し照れながら、デビュー当時の自分を引き合いに出しました。

「20代の頃は『とにかく目立ってやろう』とか『あいつは誰だ?と思われることが大事だ』というガツガツしたエネルギーがありました。もちろんその気持ちも大切だと思います。でも今は、『みんなでおもしろい良い作品を作っていこう』『みんなの喜びは俺らの喜びだぜ』という感覚になってきました。まろやかになったね、なんて言われることもあります(笑)」

肩の力が抜けた、という実感もあるそうです。その背景には、挫折や苦しみ、悲しみ、自分の至らなさと向き合わざるを得ない出来事もあったそう。周囲を見ずに「自分が、自分が」となっていたことにも気付いたといいます。

「生きていると、自分を見つめざるを得ない出来事ってありますよね。自分の不甲斐なさや至らなさに気付かされるような、愛ある“ビンタ”みたいな経験(笑)。あの失敗があったから、今こうできているんだなと思えることがいろいろありました」

5年前、コロナ禍で出演した舞台『醉いどれ天使』は、大きな転機に。感染対策のため、共演者と食事に行けず、家族にも会えずにホテルで過ごした日々。それでも舞台上では、役を通して人とつながり、言葉を交わし、客席からの反応を受け取ることができたのです。

「唯一、人と会えるのが舞台の上だったんです。マスクなしで話せるのも、そこだけ。みんなとつながってコミュニケーションを取る喜びがありました。同じ台本でも、観客の方も、出演者も、その日の自分も毎日違う。どの日も同じにはならないから、舞台って本当におもしろい」

舞台に立てることも、作品を届けられることも、当たり前ではない。経験を重ねたからこそ、そのありがたさは以前より深く胸に届いているようです。

未来に身構えない。「自分の声を聞くプロ」になって人生を楽しむ

かつては、エネルギッシュで、少しやんちゃな役の印象が強かった桐谷さん。世間が求めるイメージに自分を寄せようとしていた時期もあったそうです。けれど、さまざまな役を重ねるうちに、周囲から「どんな人なのかわからないから聞きたい」と言われるようになりました。その変化を、桐谷さんは心地よく受け止めています。

「昔は、求められている自分に合わせたほうがいいのかな、と思うこともありました。でも今は、その日に自分がそういたいと思う自分でいられるようになりました。すごく清々しいですね」

人生で起こることには、不思議なつながりを感じることもあると言います。ただ、すべてに答えや意味を与えようとはしません。「生きていることも謎だらけ」と笑いながら、こう続けます。

「こうあるべき、となると狭くなってきますよね。本当はもっと、めちゃくちゃ広いと思うんです。偶然と呼ぶにはできすぎていることもあるし、過去の経験が積み重なって今につながっていることもある。かといって、全部に意味づけしなくてもいいんじゃないかな、とも思う」

これから迎える50代、60代のために心がけていることを尋ねると、桐谷さんは「先のことは分からない」と率直に答えます。だからこそ大切なのは、遠い未来を予測して身構えることより、今この瞬間の自分に目を向けることなのだそうです。

「今、食べたいものを食べたらいいし、着たい服を着ればいい。人の目を気にしてしまう自分も、落ち込んでしまう自分もいていいと思うんです。無理に何かをするより、『今日、何をしたい?』と自分に聞くのがいい気がします。今やりたいことを選択していったその先のほうが、きっとおもしろくて素敵な未来になっているんじゃないかな。自分の声を聞く“プロ”になっていくプロセス自体を、楽しんでいきたいですね」

PROFILE
桐谷健太(きりたに・けんた)
1980年2月4日生まれ。2002年にドラマ『九龍で会いましょう』でデビュー。近年の主な出演作に舞台『酔いどれ天使』(’21)、『恋と革命』(’09)、映画『知らないカノジョ』(’25)、『首』(’23)、ドラマ『いつか、ヒーロー』(’25)、『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(’25)など。

桐谷健太さん出演舞台 PARCO PRODUCE 2026 『聖地X』

裕福な実家で働かずに暮らす山田輝夫のもとへ、妹・要が戻ってくる。やがて妹の夫・滋が山田家を訪ねてくるが、同じ頃、東京にも滋がいることが判明。突如現れたドッペルゲンガーをきっかけに、輝夫は不可解な現象の真相を探り始める。過去にも起きていた似た事件、そして土地に秘められた謎とは――。日常に潜む違和感から、「存在」と「記憶」を問いかけるSFコメディ。

作・演出:前川知大
出演:桐谷健太 和希そら 浜田信也
こがけん 池田 良 土本燈子 渡辺 光
村岡希美 馬渕英里何
東京公演:2026年11月5日(木)~29日(日)/PARCO劇場
大阪公演:2026年12月5日(土)~7日(月)/COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
香川公演:2026年12月19日(土)~20日(日)/シアターマド(丸亀市民会館)大ホール

撮影/白井裕介 取材・文/みよしみか

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