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【風間ゆみえのマヨルカ旅】千年の歴史に「今」が美しく混ざりあう贅沢。3つのホテルを巡る

  • 2026.10.19

IN THE MOOD FOR A SENSE OF TIME by YUMIE KAZAMA

古いものと、新しいもののあいだ。時を重ねる、美しい場所へ。
 
強い太陽と青い海、賑わうマーケット。その先にあるマヨルカの魅力へ。今回、風間ゆみえさんが旅したのは、島が重ねてきた時間に触れる大人のヴァカンス。歴史と現代の感性が美しく交わる3つのホテルを巡ります。

Living with History

マヨルカで心に残ったのは、青い海や強い太陽だけではなかった。今回滞在した三つのホテルには、それぞれまったく違う時間が流れていた。トラムンタナ山脈の麓、芸術家たちを惹きつけてきたデイアの村に佇むLa Residencia。山と地中海に抱かれた広大な土地に建つSon Bunyola。そして、パルマ旧市街の奥深くにひっそりと現れるNobis Hotel Palma。どれも新しく建てられたホテルではない。何百年という時間を生きてきた建物を受け継ぎ、古いものを消して新しくするのではなく、その記憶を残しながら、今のホテルへと生まれ変わらせている。私は昔から、完璧に新しいものより、時間の跡が残っているものに惹かれる。擦れた石の床、古い壁に残る傷、少し歪んだ建築。そこへ現代の家具やアート、美しいファブリックが加わると、途端に今の空気が生まれる。そんな「古いものと新しいものの間」にある美しさを、今回の三つのホテルで何度も感じた。

La Residencia “アートが日常にある場所”

最初に滞在したのは、マヨルカ北西部、トラムンタナ山脈の麓にある小さな村デイアのLa Residencia, A Belmond Hotel。ホテルの中心となるのは16〜17世紀に遡る二つのマナーハウス。敷地には古いオリーブ圧搾所や、中世の塔も残されている。1984年にホテルとして開業し、現在のLa Residenciaへとその歴史をつないできた。デイアは昔から詩人や画家、音楽家たちを惹きつけてきた場所でもある。だからなのか、ここでとても印象的だったのは、歴史ある建築そのものと同じくらい、アートがホテルの日常の一部になっていることだった。館内にはデイアやホテルに縁のあるアーティストたちの作品が数多く飾られ、ギャラリーやアーティストのスタジオまである。でも、それが美術館のようにうやうやしく飾られているわけではない。絵のある部屋で朝食をとり、作品の横を通ってプールへ向かい、オリーブの木陰で山を眺める。アートも歴史も、特別なものとして遠くから鑑賞するのではなく、暮らしの中にごく自然に存在している。そこが、とても好きだった。美しいものと暮らすとは、本当はこういうことなのかもしれない。

Son Bunyola “土地そのものを受け継ぐホテル”

Son Bunyolaは、またまったく違う。トラムンタナ山脈の中、山から海まで続いていく広大な土地。現在ホテルとなっているマヨルカの伝統的な農園邸宅、フィンカは16世紀頃のもの。さらに歴史を遡れば、13世紀にはこの場所についての記録が残り、中世の四角い防衛塔も今なお存在している。その古いフィンカを長い時間をかけて修復し、2023年、ホテルとして蘇らせたのがSon Bunyola。かつてオリーブを搾っていた場所も残され、古い防衛塔は現在Tower Suiteという客室になっている。ここで私が惹かれたのは、建物だけを美しく蘇らせたのではなく、土地の記憶までホテルの一部として残していることだった。オリーブ畑があり、葡萄畑があり、果樹があり、その先には地中海がある。ホテルという建物の中に滞在しているというより、昔から続いてきたマヨルカのひとつの土地に、しばらく住まわせてもらっているような感覚。古い石壁も、木の梁も、現代的なインテリアも、ここでは自然の風景から切り離されていない。豪華なのに、どこか素朴で、人を緊張させない。「ラグジュアリー」という言葉より、「豊かさ」という言葉のほうが似合う。ここにいると、豊かさとは何かを少し考えたくなる。新しいものをたくさん手に入れることではなく、もともとそこにあるものの価値を知り、受け継ぎながら今を生きること。Son Bunyolaには、そんな豊かさがあった。

Nobis Hotel Palma “千年近い時間の上で眠る”

そして旅のもうひとつの舞台は、海や山から離れ、パルマの旧市街へ。Nobis Hotel Palmaの建物の歴史は、さらに古い。その起源は12世紀、イスラム統治時代の宮殿にまで遡るという。その後、13世紀のマヨルカ征服を経て要塞として使われ、焼失と長い廃墟の時代を経験し、やがて貴族の邸宅へ。15世紀にはゴシック様式、17世紀にはバロック様式へと姿を変えてきた。つまり、このひとつの建物の中に、ほぼ千年にわたる異なる時代が幾層にも重なっている。そして面白いのは、それを「あるひとつの時代の建築」へきれいに戻していないことだった。イスラム時代から続く中庭、アラビア文字が残る木製の天井、ゴシック、バロック。そして、その中に現代の北欧デザインが入っている。歴史を忠実に再現するのではなく、異なる時代をひとつの空間の中で共存させる。それが、とても新鮮でかっこよかった。新しいものを加えることで古いものが消えるのではなく、むしろ古いものの美しさが際立って見える。千年近い時間を重ねてきた空間に、現代の椅子がひとつ置かれている。そのコントラストに、どうしようもなく惹かれてしまう。

三つのホテルを巡りながら、だんだん分かってきた。
 
私が惹かれていたのは、単に「歴史のある建物」ではなかったのだと思う。古い石の傷も、少し傾いた壁も、その土地が生きてきた時間も、全てをなかったことにして新しくするのではなく、そこへ今という時間を重ねていくこと。
 
ファッションでも、インテリアでも、そして人そのものでも、私はきっと同じようなものに惹かれている。新しいから美しいのではなく、古いから価値があるのでもない。その人、その場所が重ねてきた時間と、今とが美しく混ざり合っていること。歳月を重ねたからこそ生まれるものを残しながら、そこに新しい感性を加えていく。時間を消さずに、次の時間へつないでいく。今回のマヨルカで出会った三つのホテルには、私がずっと好きだった美しさがあった。

スタイリスト・植物療法士 風間ゆみえさん
スタイリスト、ファッションディレクター、フランス植物療法普及医学協会認定のメディカルフィトテラピスト、ルボア フィトテラピースクール講師と多数の肩書が。本誌の連載も好評。

photograph: YUMIE KAZAMA
 
otona MUSE 2026年11月号より

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