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咲妃みゆ、宝塚退団10年を前に熱望した作品にチャレンジ「音楽学校の合格発表を見た時の衝撃にも似た喜びと興奮」

  • 2026.10.17
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咲妃みゆ クランクイン! 写真:米玉利朋子(G.P. FLAG inc)

元宝塚歌劇雪組トップ娘役で、退団後は舞台、ドラマ、映画とさまざまな作品でその類まれなる演技力を発揮する咲妃みゆ。数々の演技賞に輝き、出演作の途切れない彼女が「夢が叶った!!」と語るほど熱望した舞台『スカイライト Skylight』への出演を果たす。

【写真】宝塚退団から10年近く経ってもキュートな魅力は変わらず!

◆圧倒され衝撃を受け、素晴らしさを周囲に熱弁した作品に念願の出演

本作は、イギリスの劇作家・デヴィッド・ヘアによる作品で、かつて不倫関係にあった男女とその息子、3人だけの会話劇。1995年にロンドンの国立劇場で初演されると絶賛を博し、ローレンス・オリヴィエ賞を受賞。翌年、ウェストエンドやブロードウェイにも進出。2015年にはトニー賞リバイバル作品賞を受賞するなど、時代を超えてもなお評価されている。当時のイギリスの社会情勢を背景に、登場人物たちの複雑な関係性や感情の機微、駆け引きが描かれ、さまざまな価値観や生き方が浮かび上がる普遍的な人間ドラマだ。

――出演オファーをお聞きになった時のお気持ちはいかがでしたか?

咲妃:何年か前にナショナル・シアター・ライブで拝見して、たった3人の登場人物の中で壮大な人間ドラマが繰り広げられていく、大変稀有な作品だと衝撃を受けました。

私が演じさせていただくキーラは30代の設定なのですが、作品を観て圧倒された私は、30代のうちにどうしてもこの役を演じさせていただきたい!という夢を抱いてしまい、そこからこの作品への思いがもう溜まりに溜まっていたので、出演のお話をいただいた時は夢が叶った!!という気持ちでした。宝塚音楽学校の合格発表を見た時の衝撃にも似た喜びと興奮でいっぱいになるくらい、私にとって思い入れが強い作品です。

それまで私は、この役を演じたい!という夢や目標を持たないようにしていたんです。このお仕事をさせていただいているだけで幸せなのに、この役を!という目標が生まれてしまうと、叶わない場合俳優としてしんどいなと思って。そんな考えをも覆す作品と役に出会えたことは、人生の宝物だと思っています。

――『スカイライト Skylight』への思いを周りにアピールされたり?

咲妃:マネージャーさんには、この胸の内を聞いていただきました。映画館で拝見して、1週間興奮が収まらなかったんです。そんなことは初めてだったので、「どうしてほしいとかそういうことではなくて、とにかくマネージャーの皆さんに、私の俳優としての興奮を共有させてください!」と事務所でお時間をいただいて、「こういう物語で、それで私はこういう興奮を覚えました! 以上です!」みたいな感じでお話しました(笑)。

――どんなところに魅力を感じて、それほどまでに心を鷲づかみされたのでしょうか?

咲妃:圧倒的な会話劇で、そこに凝縮された感情の波と社会的な壁に、私はうち震えました。

3人登場人物が現れますが、3人はお互いに愛し合っています。それは家族という形であったり、恋愛の形だったり、愛情が確実に存在することは誰の目にも明らかなのに、会話を繰り広げる彼らは、時にとげとげしく相手を傷つけたりもするし、痛みをいたわり合ったりもする。それが社会の縮図のようにも感じて、他人事とは思えないと感じたところが、強く惹きつけられた1つの要因だと思います。

――その感情の波というのはどういったものなのでしょう。

咲妃:あることをきっかけにキーラは彼らの元を離れて、数年後に再会するのですが、その数年の間にそれぞれ直面してきたものが様々あって。数年前の3人から時が止まっている部分もあれば、それぞれが時を進めている部分もある。止まっているものと動いているものがごちゃ混ぜになっていることで状況がより一層複雑化しているし、そんな中でお互いを想い合い求め合う気持ちは強いし。そんな感情が波となってお客様に伝わる作品だなと思います。

登場人物みんな、感情をストレートに伝えることをためらう大変不器用で人間味溢れる人々なので、応援したくなったり、歯がゆくなったり、「分かる!」と共感したり、そういったことが上演中に巻き起こる作品だと感じます。ワンシチュエーションなんですけど、きっと飽きずにご覧いただけると思いますし、そうあれるように頑張りたいです。

◆多層的で複雑だけど「それが人間だよな」とスッと共感できる作品

――キーラという女性はどんな女性ですか?

咲妃:トムとエドワードによって、キーラは家庭の温もり、家族愛を知ります。血が繋がっていなくても、家族同然の愛情を注いでもらったことによって、人としての喜びを彼女は感じます。それと同時に、決して社会的には許されない愛も彼女は身をもって経験する。それが許されないということは分かっていながら。そして一番知られたくなかった人に知られてしまう。そこで彼女が突発的に取る決断もひとつの愛の形ではあるのですが、愛が故に取る様々な行動が、時に人を傷つけ、時に自分をも傷つけます。

彼女は恵まれた環境を自分の意思で離れて、あえて過酷な環境に身を置く決断をする。それって一種の償いにも繋がるものだと思うのですが、重い十字架は背負う覚悟でその後の人生を歩んでいくと決めたキーラに共感もするし、哀れにも思います。

キーラというお役、作品、それぞれの関係性を見ても本当に多層的な作品なので、すごく複雑ですけど、「それが人間だよな」というところに、最終的に着地するんですよね。

――登場人物には全面的に共感できる感じでしょうか?

咲妃:キーラに関しては共感できますね。

キーラは、自分の生き方や、曲げられない価値観のようなものが確固としてあるんです。だからこそ苦しむし、だからこそ自分の足で歩んでいける女性なのだと思います。

◆「いつかご一緒したい!」杉原邦生と待望の初タッグ

――共演の山路和弘さん、中山翔貴さん、演出の杉原邦生さんの印象はいかがですか?

咲妃:山路さんとは今回が2度目の共演になります。1度目は朗読劇で親子を演じさせていただいて、平家物語という壮絶な作品でした。朴ろ美さんが演出を手掛けられ、俳優同士が目を合わせずに芝居をするという構造でした。なので、声を頼りに、お互いの表情や情感を想像して対話するという、俳優としてもすごく学びの多い演劇でご一緒させていただきました。そんな山路さんと今回は対面でお芝居をさせていただけることが楽しみですし、山路さんがどういうふうに役を構築していかれるのか、お稽古場で学ばせていただきたいです。

中山さんは今回初めて共演させていただきますが、27歳にしてこの作品に挑戦できるというのは、羨ましい限りだなと思います。今回が2作目の舞台ご出演とのことで、俳優としての可能性に溢れた中山さんから生み出される表現に、私もハッとさせられることも多々あるでしょうし、初心に返らせていただく気持ちでご一緒したいなと思っています。

個性豊かな私たち3人をまとめてくださるのが、杉原邦生さんという多才な演出家さん。松尾スズキさんのご縁でお話をさせていただく機会があったのですが、創作を楽しむ心を常に持っていらっしゃる方だなという印象を受けました。「どうしよう…」と稽古で行き詰まったら、きっと邦生さんが風穴を開けてくださるんじゃないかなと。信頼を寄せて挑みたいと思います。

杉原さん、山路さん、中山さんとだったら大丈夫!という根拠のない自信がなぜか私の中にあります。

――「杉原さんといつかご一緒したい!」と思われていたと伺いました。

咲妃:コクーン アクターズスタジオ第1期生の卒業公演『アンサンブルデイズ-彼らにも名前がある-』の演出を手掛けられていて、その演出が腰を抜かすぐらい素晴らしかったんです。終演後初めてご挨拶させていただいたのですが、地面に頭がつく勢いで「素晴らしかったです!」と感動をお伝えしたところ、邦生さんも地面に頭がつくくらい恐縮してお辞儀をしてくださって(笑)。「素敵な方だな」と思ったのが最初の出会いでした。

――『アンサンブルデイズ』のどんなところに心惹かれましたか?

咲妃:第一に松尾さんの脚本が素晴らしかったです。加えて、自分が約15年間芸能活動を続けさせていただいてきた中で感じたことのある気持ちがもう全て舞台上で描かれていたんですね。辛かったり、悲しかったり、でもうれしかったり、いろんな感情を引き出されて、放心状態になりました。今自分がこうやって健やかに舞台に立たせていただけることをありがたくも思ったし、でも当たり前ってないんだよなということも、アンサンブルデイズの皆さんのおかげで改めて感じて、頑張ろうって思ったんです。

俳優業を続けさせていただく上で心に留め置きたい覚悟を芽生えさせてくださった舞台なので、杉原さんには勝手に感謝しています。

◆不出来な部分を認める勇気が備わり「人として生きやすくなってきている」

――ここ最近は『最後のドン・キホーテ THE LAST REMAKE of Don Quixote』『クワイエットルームにようこそ The Musical』『レッドブック〜私は私を語るひと〜』と弾けた役が続きましたが、今回演じられるキーラはどんな女性になりそうですか?

咲妃:キーラは自分だけで戦おうとしているように私には映ります。助けを他者に求めてはいけない、求める勇気がない。そんな姿が見ていて苦しいし、励ましたくもなる。強さと儚さのどちらも共存する女性なので、演じさせていただく中で一人の人間としても何か直面するものがありそうだなと思います。

――ご自身は自分ひとりで戦わなきゃ!と思うタイプですか?

咲妃:年々SOSが出せるようになってきました。昔は、自分でなんとかしなきゃ、迷惑をかけてはいけない、できてないのは自分のせいだと自分を追い込むタイプだったんですけど、何か克服できないのならなぜ克服できないのかを考えるようになりました。自分の不出来な部分を認める勇気が備わってきたのかなと思います。昔はできないことを認めたくなかった、知られたくなかったんだと思うんですね。だから、周りの人も助けてあげたいと思っても手を伸ばしづらい状況を自ら作ってしまっていたんですけど、今は「ごめんなさい、できません」「分かりません」「こういうことに困っています」と恥ずかしがらずに言えるようになってきた。年齢を重ねたおかげかもしれないですけど、人として生きやすくなってきているなと感じます。

――それは何か特別なきっかけや出来事があったわけではなく、徐々に自分を解放できるようになった感じですか。

咲妃:昨今様々な作品に出演させていただき、全く違う出自の方と一緒に1つの作品を作るという経験を重ねていく中で、人それぞれでいいんだとか、こういう価値観もありだなとか、周りの方々のおかげで自分の許容範囲が広がってきて。自分の役だけにまっしぐらになるのではなく、作品全体を見渡すことがまず大事という意識の変化が生まれました。35歳にしてようやく学んだんですね。遅い、遅いよって自分に言いたいですけど。

――来年は宝塚退団から10周年を迎えられます。振り返るとどんな10年でしたか。

咲妃:そうだなぁ…。変化の多い10年でした。

――ずっと何かに挑戦されていたようにお見受けします。

咲妃:1人だけで挑戦し続けられたわけではないので。本当に私はご一緒する方々に助けていただいてばかりだったなと思うし、視野を広げていただけたなと心から感謝しています。10年前の自分も一生懸命生きてたな、不器用なりに信念を持ってやってたよねって、懐かしく振り返られるぐらいには大人になったかなと思います。

――この10年で一番大きく変わったなと思われる部分はどこでしょう?

咲妃:う~ん。お仕事に直結してなくてもいいですか? 運転できるようになったことです。世界が広がりましたね。10年前は車の運転なんて怖くてできなかったし、免許を取ってまだ3年くらいなんですけど、3年とは思えない距離を運転しています。

以前出演させていただいた朗読劇にあった、「車ってね、あなたが思っているよりもう少し遠くまで行けるんだよ」というセリフが印象的で、すごく心に残っていました。自分が思い描いているよりも、もっと先の広がりを車は見せてくれるんだ~と、うっすらと憧れを抱き始めました。

実際に免許を取ろうと決めたきっかけは、故郷の宮崎に帰省したときにどこに行くにも両親の手を借りてばかりはいられないという思いだったんですけど、今は両親とドライブを楽しめるようになり幸せを感じています。

――ハンドルを握ると人格が変わる人もいますが、咲妃さんはいかがですか?

咲妃:(マネージャーに向かい)どう、私? 楽しく運転してますよね?

両親も最初は恐る恐る助手席に乗っていましたが、母からは「緩急のある運転でいい」と褒められたので、安定した走りができていると思います(笑)。

――退団10周年が念願の『スカイライト Skylight』から始まりますが、これからまたどんな俳優人生を歩んでいきたいですか?

咲妃:相も変わらず挑戦を続けていきたいですし、素敵な歳の重ね方だねと思っていただけるような、年齢による変化を楽しめる俳優でありたいなと思います。

――改めまして本作に込める意気込みを教えてください。

咲妃:私の全てをかけて挑ませていただきます。暑苦しいかもしれませんが、この思いを劇場で受け止めてください。ご来場をお待ちしております。

(取材・文:田中ハルマ 写真:米玉利朋子[G.P.FLAG inc])

舞台『スカイライト Skylight』は、2027年1月20日~31日神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ、同年2月6日・7日兵庫・神戸文化ホール 中ホールにて上演。

※朴ろ美の「ろ」は「王+路」が正式表記

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