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中村時蔵さん、梅枝さんインタビュー|戦乱が招く家族の悲劇『盛綱陣屋』で親子三代共演

  • 2026.10.16
SUGIYAMA SETSUO

2024年6月の親子三代揃っての襲名、初舞台から2年あまり、歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」で上演中の『盛綱陣屋』で中村萬壽さん、時蔵さん、梅枝さんがいずれも重要な役で顔を揃えています。戦乱の世に敵と味方に分かれて戦うこととなった兄弟とその家族を描いた悲劇に、女方として子役として、どのような思いで臨むのでしょうか。時蔵さん(写真左)、梅枝さん(写真右)親子にお話を伺いました。

「切腹をしてみたい」理由

『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』左より、早瀬=中村時蔵、高綱一子小四郎=中村梅枝、微妙=中村萬壽 ©松竹

タイトルが示すように物語の舞台は佐々木盛綱が戦場に築いた拠点。時蔵さんが演じるのは主人公である盛綱の妻・早瀬、梅枝さんはそこで捕らわれの身となっているまだ少年の小四郎を演じます。小四郎を生け捕りにしたのは盛綱の息子であり、さらに幼い従兄弟の小三郎でした。

梅枝さんは2022年3月、6歳のときに小三郎を演じた経験があります。その折に「取材でカッコよくなれるのが楽しみと言ったことを覚えている」そうです。小三郎は父・盛綱の命を受けてある場所へと赴くのですが、兜を手に勇ましい鎧を身につけて登場します。子どもではあるけれど、姿は立派な武将。気持ちが上がるのも納得です。

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そして実際の舞台では「緊張感」を味わい、小三郎として時を過ごすうちに「小四郎も演じてみたい」と思ったと話します。理由を聞いてみました。

「舞台で切腹してみたいと思ったからです。歌舞伎のなかで切腹は特別感がある気がして……」

切腹にはそれなりの理由があり、そこにドラマが生まれます。核心をついた発言です。実際、小四郎が切腹に至るまでには登場人物それぞれのさまざまな思いが交錯し、その決断と行動が観る者の心を揺さぶる展開となっているのです。

母として武家として、戦場の女たち

『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』早瀬=中村時蔵 ©松竹

陣屋には盛綱の母・微妙と妻・早瀬も滞在していて、小四郎の母・篝火が陣屋に姿を現したことによって早瀬周辺がざわつき始めます。ここで注目したいのは裾を引いた衣裳でスッとした風情の早瀬に対して、陣笠と弓を手にした篝火の出で立ちです。篝火も演じた経験のある時蔵さんが解説してくれました。

「見た目の印象としては篝火も女性の格好ですが、あれは男のふりをしていることを表しています。舞台装置が立派なのでお屋敷のように見えるかもしれませんが、陣屋ということは最前線の戦場です。そこに女性がひとりでやって来るのですからこれは大変なことなんです」

SUGIYAMA SETSUO

時代を置き換えて考えるなら、迷彩服にヘルメット姿で、マシンガンを手にひとり敵陣へ乗り込んでいくようなもの。そう考えると状況のシビアさに臨場感が伴ってくるのではないでしょうか。我が子の身を案じるがゆえとはいえ、驚くべき行動力です。

ビジュアルからも勝敗に伴う立場の違いが反映されたふたりの女性。矢文の応酬に始まる嫁同士のやりとりには、この時代を生きた武家女房ゆえの苦悩が浮かびます。

「早瀬には母親として篝火の気持ちは痛いほどわかる。けれども、武家に仕える女性として通さねばならない道というものがあり、その忠義の心と家族的な恩愛とが色濃く描かれています」

主軸となるストーリーを進めていくのはあくまでも盛綱を始め、その主君である北條時政や敵方の和田兵衛といった三者三様の武将です。しかしながら、戦争がもたらす悲しい現実に女性や子どもたちが巻き込まれていくのは、いつの世も変わりません。

「前線で戦う男たちに比べればスケールは小さいかもしれませんが、盛綱の母である微妙を含め女性サイドの話でもあるところにひとつ、この芝居の特徴があると思います」

実の孫に死を迫る老女の大役

『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』高綱一子小四郎=中村梅枝 ©松竹

萬壽さん演じる微妙は幕開き早々に過酷な状況に立たされます。孫である小四郎に切腹を促す役割を担うことになるのです。それは武士道を重んじ、弟・高綱を思う心から盛綱が下した決断でした。依頼するほうもされるほうも辛い選択です。盛綱から微妙へ、微妙から小四郎へと切腹に向けてのシナリオは動きだし、それぞれの有り様が浮き彫りにされます。

「父は梅枝と一緒に舞台に出ることを常に楽しみにしていて、つい先日もふたりでこの芝居の稽古をしていました。その折にはかなり細かいことも言っていたようでしたから、いつもに増して気持ちが入っていると感じました」

時蔵さんの言葉からこの舞台にかける萬壽さんの思いが伝わります。日本では古くからその分野で偉大なもの3つ挙げて尊重する風習がありますが、微妙は歌舞伎において“三婆”といわれる老けの大役のひとつ。一生を通じて誰もが演じられるものではありません。小四郎もまた、子どもながら物語の中核に関わる重要な登場人物ですから、それ相応の技量が求められます。

実の孫が演じる小四郎を相手に微妙をつとめるというのは、前例はあるものの稀有なことです。さらに今回は小三郎の母である早瀬を時蔵さんが演じる、親子三代共演となりました。

「松嶋屋のおじさま(片岡仁左衛門)と八代目(尾上)菊五郎のおにいさんが盛綱をなさるこのタイミングで、たまたま役の年ごろに見合った父と息子がいて、親子三代でつとめさせていただくことになりました。ご縁に感謝しています。役というのは本当に巡り合わせですから」

「くびじっけん」の謎

SUGIYAMA SETSUO

物語のクライマックスは討死した高綱の首が本物であるかどうかを見極める首実検。ここは手に汗握るスリリングな展開となるのですが、そのきっかけをつくるのが小四郎なのです。インタビュー中の会話を耳にした梅枝さんから、時蔵さんに疑問が投げかけられました。

「くびじっけんって何?」

パパがやさしく答えます。

「昔は写真とか映像がなかったから、家族とか親しい人以外はヒロくん(大晴=梅枝さん本名)の顔を知らないことがけっこうあるの。だから討ち取った首が本物かどうかを、顔を知っている人に見せて確認するわけ。それが首実検」

実の弟の生首と対面するとは残酷極まりない話ですが、種明かしをしてしまうと実はこの首は偽物。ところが盛綱が首桶の蓋を開けるやいなや、小四郎は父の名を呼び自分も後を追うと言って刀を腹に突き立てるのです。そしてこれこそが、梅枝さんが特別感を抱いている場面です。

「小四郎はたいへんな役です。(梅枝さんの方を向いて)きっちりやってくださいね」

時蔵さんの言葉に梅枝さんが頷きました。

偽首と謎の行動に出た甥を前にして、盛綱は逡巡します。盛綱の真骨頂ともいうべき緊迫のシーン、1秒たりとも目が離せません。やがて弟が仕組んだ巧みな計略に気づき……。

「教えも教え覚えも覚え」、充実の舞台

取材時には無邪気に首実検の意味を尋ねていた梅枝さんですが、実際の舞台では子どもながら父・高綱の思いをしっかりと受け止め、緊迫感溢れる場面に揺るぎない姿勢で向き合っていました。盛綱が高綱と小四郎を讃えて「教えも教え、覚えも覚えし」と放つせりふがあるのですが、それが萬壽さん、梅枝さんと重なります。真っ直ぐな眼差しでじっと伯父を見つめる小四郎と盛綱の間で交わされる無言の時間に、客席は水を打ったように静まり返ります。

「やりようによっては泣こうと思えばいくらでも泣け、同情できる芝居だと思います。ですがそっちに振り切らないほうが、愛があるように見えるのではないかと思っています」

難しいと思われがちな時代物ですが、実は思い通りにはいかない現実とリンクする部分も内在し、だからこそ深みある味わいを醸し出しているのです。

時蔵さんは「役は巡りあわせ」とおっしゃっていますが、それは観客にとっても同じこと。上演中の『盛綱陣屋』は三代共演というスペシャル感を差し引いても見逃せない、充実した舞台となっています。

【コラム:子役の日常と舞台~梅枝さんの場合】

学校と舞台の両立は小さいころから舞台に立ってきた俳優さんなら誰もが直面してきた問題。上演時間や劇場の場所によっては、学校を早退したり休んだりしなければなりません。梅枝さんはそれをどのように受け止めているのでしょうか。

「いっぱい出られるなら全然大丈夫です! でも少しだけのために早退するのはちょっと……」

どうやら舞台での滞在時間によるようです。その点、小四郎は時間も芝居のしどころもたっぷり! 今月はこれまでにも増して充実した毎日を送っているのではないでしょうか。

かつて萬壽さん、時蔵さんも名のった梅枝という名前は気に入っていますかと尋ねると「けっこう。(頷いてから)けっこう」と2度繰り返しました。

これまでに演じた役で気に入っているのは、初舞台の『山姥』で演じた怪童丸後に坂田金時と『弁天娘女男白浪』の「稲瀬川勢揃い」における赤星十三郎で、理由は「花道から出られる」からだそうです。

赤星十三郎は、八代目尾上菊五郎、六代目尾上菊之助襲名披露演目として菊之助さんを始め、市川新之助さん、坂東亀三郎さん、尾上眞秀さんと共に演じた可愛らしい舞台でした。赤星がお気に入りであるポイントはもうひとつあり、「始まる前にみんなと楽屋で遊んだりとかして、めちゃめちゃ楽しかった!」からなのだそうです。

中村時蔵

SUGIYAMA SETSUO

なかむらときぞう〇1987年生まれ。初代中村萬壽の長男。91年に初お目見得の後、94年歌舞伎座にて四代目中村梅枝を襲名し初舞台。24年歌舞伎座『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿』お三輪にて六代目中村時蔵を襲名。“三姫”と称される重要な役や、『壇浦兜軍記 阿古屋』の傾城・阿古屋といった大役で高評価を得ており、娘、女房、傾城など幅広い役柄で存在感を示す正統派女方。スーパー歌舞伎『もののけ姫』のエボシ御前では幅広い層から注目された。

中村梅枝

SUGIYAMA SETSUO

なかむらばいし〇2015年生まれ。六代目中村時蔵の長男。20年に初お目見得の後、24年に歌舞伎座『山姥』の怪童丸後に坂田金時ほかで五代目中村梅枝を襲名。時代物、世話物、舞踊とさまざまなジャンルで子役として活躍中。祖父である萬壽との共演となった『恋女房染分手綱』の自然薯の三吉実は与之助など、子役のなかでも重要な役も経験し、確かな演技を見せている。

歌舞伎座「錦秋十月大歌舞伎」

2026年10月2日(金)~20日(火)
※8日(木)、14日(水)は休演
第一部 11時〜 / 第二部 14時30分〜 / 第三部 18時〜

【第一部】『鯉つかみ』『義経千本桜 川連法眼館』
【第二部】『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』『山帰強桔梗』
【第三部】『義経千本桜 渡海屋 大物浦』『屋敷娘』『近江のお兼』

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撮影=杉山節夫 画像提供=松竹 取材・文=清水まり 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

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