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米空港で保安検査員の『椅子』撤去へ、その理由とは?

  • 2026.10.3

アメリカの空港で、保安検査場の入り口に立つ職員から椅子が取り上げられた。運輸保安庁(TSA)が、搭乗券と身分証明書を確認する「トラベル・ドキュメント・チェッカー」の持ち場から、全米規模で椅子を撤去する方針を打ち出したのだ。

乗客が保安検査場で最初に顔を合わせる、あの職員たちのことだ。今後は全員が立ったまま業務にあたることになる。(フロントロウ編集部)

TSAが説明した「立たせる理由」

TSAがこの方針を認めたのは現地時間9月29日。だが労働組合側によれば、その時点で椅子はすでに大半の商業空港から姿を消していたという。

なぜ椅子を撤去するのか。TSAの広報担当者は、その狙いをこう説明している。

「この歓迎すべき変更は、職員が立って注意を保つことで、私たちのセキュリティ態勢とホスピタリティへの姿勢の両方を強化するものです。すべての職員は、国家の安全を守る重要な任務を遂行できるよう、職務に適した体力基準を満たさなければなりません」

つまり、立っているほうが警戒心を保てるうえ、乗客を迎える態度としてもプロフェッショナルに見える、という考えだ。ただし米航空メディアのSimple Flyingは、椅子をなくすことで脅威の発見率が上がるという根拠を、TSAは示していないと指摘している。

組合は「特権ではなく基本的な安全」と猛反発

これに真っ向から反発したのが、4万人以上のTSA職員を代表する労働組合「米国政府職員連盟(AFGE)」だ。米NBCによると、組合は事前に相談を受けておらず、方針について組合員を通じて知ったという。

組合は声明で「これらの椅子は、硬い床の上で一日中立ったり歩いたりしている職員にとって、人間工学上・安全上の基本的な支えです。TSAはこれを特権のように扱っていますが、そうではありません。職員に対する基本的な安全と、最低限の良識の問題です」と主張。決定に徹底的に抗議していく構えを見せている。

保安検査の職員は、ひとつの持ち場に一日中いるわけではなく、複数の業務をローテーションで担当している。現場の職員の証言として、書類チェックの担当は30分ほどで交代するのが一般的で、その短い時間が数少ない「座れる機会」だったとも報じられている。

実際、米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の調査では、職場での長時間の立ち仕事は腰痛や疲労、脚のむくみなどと一貫して関連しているとされており、こうした問題を軽減するには、立ちっぱなしや座りっぱなしを避け、姿勢を変えたり動いたりすることが推奨されている。

乗客からも「余計に不機嫌になるだけ」

この話題は利用者のあいだでも議論を呼んでいる。米New York Postによると、Facebookには「つまり、もっと疲れて、もっと不機嫌になるってことね。最高。きっと誰にとっても素敵な体験になるでしょうね」という皮肉や、「これは意味のない話。方針のための方針で、何の役にも立たない。保安検査の職員には疲れていないでいてほしい」といった声が寄せられた。

TSAにとって、今年は激動の1年だった。2月14日に始まった政府機関の一部閉鎖で職員は給与を受け取れなくなり、数百人が離職。空港の保安検査場には長い行列ができた。8月にはデヴィッド・カミンズ新長官が就任し、検査場の近代化や旅行者体験の向上を掲げたばかりだ。

アメリカの空の旅をめぐっては、ユナイテッド航空航空が機内のマナーに関する新ルールを打ち出すなど、乗客側に求められる振る舞いも変わりつつある。今回の椅子撤去は、その矛先が働く側にも向いた格好だ。次に米国の空港を訪れた際、保安検査場の入り口で迎えてくれる職員は、立ったまま身分証を確認しているはずだ。

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