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自然の尊さを軽やかにまとう「ディオール」 新たなロマンティシズムが花開く【2027春夏コレクション】

  • 2026.10.2
Adrien Dirand

庭園を愛したムッシュ ディオール。メゾンにとって絶え間ないインスピレーション源であり続ける“自然”は今、その精神を受け継ぐジョナサン・アンダーソンの創造力をも刺激している。今季の招待状として届けたのは、グレーのボックスに収められた2個のクルミ。中国に古くから伝わる「文玩核桃(ぶんわんかくとう)」と呼ばれる現具で、2個を片手の中で転がして遊ぶことで、長い年月をかけて表面が磨かれ、深みのある艶やかな色合いへと変化していく。それはまるで、卓越した手業を積み重ね、一着の服を完成へと導くクチュールメゾンの営みとも重なる。同時に、「ディオール」という巨大なメゾンを引き継ぎ、新たな姿を時間をかけて形づくろうとするアンダーソン自身のクリエイションを象徴しているようにも思える。

Adrien Dirand

ショー会場は、前シーズンに続いてチュイルリー庭園の八角形の池。真っ白なランウェイを霧が覆い、水面からはクスノキが立ち上がる。まるで夜明けの湖に迷い込んだかのような幻想的な風景。

Courtesy of Dior

そこへ現れたのは、池を漂う霧に溶け込んでしまいそうなほど軽やかな服たち。シルクモスリン、オーガンジー、シャンティイレースといった極薄の素材が幾重にも重なり、身体が動くたびに空気をはらむ。手作業でカットされた花びらはクロップドジャケットやミニスカートを覆い、今にも風にさらわれそうなほど繊細だ。前シーズンから続く花のようなボリューム、光を受けてきらめく光沢、短く切り詰められたシルエットも、空気をはらんで軽やかな表情を手に入れた。

Courtesy of Dior
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なかでも印象的なのが、硬質なテーラリングに“フルー”という、一見相反する服作りの融合というアプローチだ。“フルー”とはオートクチュールにおいて、柔らかく流動的な素材を用いたドレス作りを指す言葉。ピンストライプやタータン、プリンス・オブ・ウェールズ・チェックといった、本来なら重厚なテーラリングを想起させる柄を、この技術を用いて透けるほど薄い素材へと置き換えた。同シーズンのメンズコレクションにも通じるジャケットは、身体を構築的に囲い込むのではなく、風景の一部のように漂っていた。

Courtesy of Dior
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他にも、メタリックシルバーのジーンズや、首元にスカーフを巻いたようなトロンプルイユのビーズ刺しゅうが施されたシャツがメンズとウィメンズ双方に登場する一方、7月に発表したオートクチュールのアイデアもプレタポルテへと波及し、プリーツが重要な装飾として取り入れられた。メゾン全体を統括する初のクリエイティブ ディレクターとして、ラインを横断する絶え間ない対話から「ディオール」の新たな語彙を育んでいることも、アンダーソンのクリエイションの面白さだ。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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興味深いのは、アンダーソンが自然を装飾的なモチーフとしてではなく、形が生まれる原理として捉えていること。トランペットフラワーのように地面へ垂れ下がるクロップドフレア、花びらを思わせるイヤリング。パステルカラーのケーブルニットにはクリスタルがちりばめられ、白鳥をかたどったメタル製のヴァニティケースも登場した。それらが描き出すのは、どこか18世紀末から19世紀初頭のロマン主義にも通じる世界。理性や秩序よりも感情や想像力、自然の神秘に価値を見出したロマンティシズムの精神が、アシンメトリーなシルエットから装飾にも反映されている。

Courtesy of Dior
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オーガンジーのスーツは無造作に前を開け、ブラトップをのぞかせて。パジャマシャツには繊細なレイヤードスカートを合わせ、イヤリングは片耳だけに。この不完全さこそが、アンダーソンの描く現代のロマンティシズムなのだろう。フェミニンだけれど甘すぎず、エレガントだけれど完璧すぎない。そこには、一つの理想像に女性を閉じ込めない自由さがある。

Courtesy of Dior

メゾンの過去との対話も、より鮮明になった。1952年に発表された名作“ラ シガール”ドレスは、綿あめのような淡いピンクのプリーツチュールへと姿を変えた。腰から外へ張り出す特徴的なフォルムを残しながら、その視覚的な重さを取り払い、現代のカクテルドレスへと再構築している。

Courtesy of Dior

メゾンを象徴する“バー”ジャケットもコンパクトなプロポーションへと変化し、コントラストの利いた襟によって、どこか素朴なバーンジャケットを思わせる表情を手に入れた。さらにランウェイには、“ディオール ダブル”と“ディオール イニシャル”ホーボーの新作に加え、アイコニックな“サドル”バッグも再登場した。

LAUNCHMETRICS SPOTLIGHT
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文玩核桃が人の手の中で何十年もの時間をかけて磨かれ、少しずつ姿を変えていくように、アンダーソンの「ディオール」もまた、完成を急いではいない。むしろ、変化し続ける過程をクリエイションの原動力にしているようだ。就任から一年、アンダーソンの「ディオール」は枝を伸ばしながら、空高く、さらなる可能性へと枝葉を広げている。

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Hearst Owned
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