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完成から発売まで“2年近く”…ずっと眠っていた【国民的バンド】の名曲 アルバムに一度も入らなかった“異例”の来歴

  • 2026.10.26
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2002年8月、TOKYO FMスペイン坂スタジオで「カウントダウン ジャパン」に出演したスピッツ(C)SANKEI

出来上がった歌がそこにあるのに、届ける場所だけが決まらない。そんな宙ぶらりんな時間を抱えたまま世に出た曲がある。スピッツが2001年の秋に送り出したシングル『夢追い虫』だ。最初に録音されてから店頭に並ぶまで、じつに2年近くの歳月が流れていた。

映画やドラマの主題歌として耳にした人も多いはずの1曲だが、その「待たされた時間」を知ったうえで聴き直すと、草野マサムネの紡いだ言葉がまるで違う手触りで届いてくる。高らかに夢を掲げるのではなく、傷つきすり減りながら身の丈のまま前を向く歌。その姿は、出番を待ち続けたこの曲自身の来歴に重なっている。

スピッツ『夢追い虫』(作詞・作曲:草野正宗)ーー2001年10月11日発売

録り終えた日から始まった「本当の待ち時間」

最初の録音は1999年。バンドはまず自分たちの手でこの曲を形にした。

だが話はそこで終わらない。アルバム『ハヤブサ』の録音を終えた直後の2000年8月、彼らは元Spiral Lifeの石田小吉を迎え、この曲を録り直した。アルバム完成直後にわざわざスタジオに入り直した事実からも、バンドにとって手放せない曲だったことが伝わってくる。のちにシングルとなるのは、この2度目のテイクだ。

それでも発売の予定は立たなかった。メンバー自身も後年、タイアップの話がなければシングルとしては世に出なかったかもしれないと振り返っている。完成しているのに出す当てがない。それでも新しい相棒と研ぎ澄ませた形のまま、彼らは出番の訪れを待ち続けた。

音の相棒が移りゆく季節の継ぎ目で

石田小吉と組んで制作されたのが、アルバム『ハヤブサ』だった。2001年のシングル『遥か』もその流れの中で生まれ、『夢追い虫』もまさにその時期のただ中にあった1曲だ。だがバンドの歩みは留まらない。翌2002年のアルバム『三日月ロック』で、スピッツは亀田誠治と組むことになる。

石田と駆け抜けた季節と、亀田と歩き出す季節。『夢追い虫』は、ちょうどその「継ぎ目」に立っている。誰と音を作るかを変えていく動きは、バンドが自分たちの鳴らすべき手触りを探していた証拠だ。ひとつのスタイルに安住せず、次の扉を探して揺れ動きながら進む。その生々しい足取りが、この曲には刻まれている。

主題歌として鳴り響いても帰るアルバムがない

宙に浮いていた楽曲に出口を開いたのはタイアップだった。フジテレビ系のドラマスペシャル『プラトニック・セックス』が2001年9月に2夜にわたって放送され、10月11日にシングルが発売。10月20日には映画版が公開された。ドラマと映画、双方の主題歌を担い、この曲はついにシングルとして店頭に並んだ。

ところが、主題歌として鳴り響いたあとも、この曲には帰るべきアルバムがなかった。前年の『ハヤブサ』にも、翌年の『三日月ロック』にも収録されず、オリジナルアルバムの曲順からこぼれ落ちてしまった。

アルバムに初めて収まったのは、それまでアルバム未収録だった曲を集めた2004年3月17日のスペシャルアルバム『色色衣』。発売から実に2年半近くが過ぎていた。

完成から発売まで待たされ、世に出たあともアルバムの文脈に頼れず、1曲だけで風雨に立ち向かい続ける。その孤高の来歴こそが、アルバムという支えを必要としない、この歌のタフな生命力を証明している。

すり減りながら君と踊る小さな肯定

そうした来歴を知ってから歌詞に耳を澄ますと、草野マサムネが紡いだ言葉の切実さが胸に迫る。

歌の中で主人公は、自分を命の短い小さな虫になぞらえている。そしてタイトルに「夢」を掲げながら、歌詞の中ではそれを「ユメ」とカタカナで表記する。大上段には構えず、どこか頼りなく、小声でそっと扱う。そこに、この歌のいちばん優しく切ない矛盾がある。

虫はそのユメを追い、すり減りながら前へ進む。隣にいる「君」も特別な存在ではない。美人でもなく魔法も持たない、少し抜けたところのある相手だ。主人公が望むのは、そんな君と笑ったり泣いたりしながら、うれしい日も悲しい日も二人で踊っていたいというありふれた毎日だ。

勝ち切る歌ではない。高く舞い上がる歌でもない。小さな体のまま、削れながら進む。そのささやかな肯定に、出番を待ち続けたこの曲自身の物語が重なって聴こえてくる。

夢なんて大きく語らなくていい。笑って泣いて、ときどき二人で踊る日常があれば、それが小さな虫の背中に生える羽になる。この歌が差し出すのは、いつだって私たちの手の届く場所にある、温かな幸福の形なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。

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