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「今日中に部屋を変えてください」頑なに訴える中年女性患者→理由を聞いた看護師がハッとした“切実な理由”

  • 2026.10.31
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟では、患者さんから環境についての希望が出ることがあります。

「部屋を変えてほしい」「ここにはいられない」「もう限界です」

強い口調で訴えられると、看護師としても、何がそこまでつらいのだろうと考えます。しかし本人が最初に口にする希望と、本当に困っていることが必ずしも同じとは限りません。

今回紹介するのは、入院していた中年女性Aさんとの出来事です。

Aさんは朝から、「今日中に部屋を変えてください」と繰り返し訴えていました。

話を聞こうとしても、最初は「とにかく嫌なんです」としか話してくれません。しかし、焦らずに話を聞いていくと、Aさんが本当に困っていたことが見えてきました。

「今日中に部屋を変えてください」

朝の申し送りを終え、病棟を回っていると、Aさんがナースステーションにやってきました。

「すみません。部屋を変えてほしいんです」

「どうしましたか?」

「今の部屋では無理です。今日中に変えてください」

Aさんの表情は硬く、声にも力が入っていました。

「何かありましたか? 同室の方と何かあったのでしょうか」

「そういうことじゃないんです」

「音が気になりますか?」

「もう、ここにはいられないんです」

私は、Aさんの話を聞きながら、何が起きているのかを考えました。同室者とのトラブルがあったのか。生活音が気になるのか。それとも、病室で何か不快な出来事があったのか。

しかし、Aさんは何を尋ねても、

「とにかく嫌なんです」「部屋を変えてください」

と繰り返すばかりでした。

「すぐに部屋を変えられるかどうかは確認が必要ですが、何がつらいのか、もう少し教えてもらえますか?」

そう伝えると、Aさんは不満そうに言いました。

「理由を説明しないと、変えてもらえないんですか?」

その口調からは、切羽詰まった気持ちが伝わってきました。

私は、すぐに結論を出すのではなく、まずAさんが何に困っているのかを知る必要があると感じました。

「何が嫌なのか、自分でもうまく言えない」

その後、私はAさんが少し落ち着いて話せるタイミングを待ち、改めて声をかけました。

「さっき、部屋を変えてほしいと話していましたよね。今も同じ気持ちですか?」

「はい。できれば今日中に変えてほしいです」

「分かりました。無理に理由をまとめなくても大丈夫なので、どんなときにつらくなるのか、教えてもらえますか?」

Aさんはしばらく黙っていました。

「…夜なんです」「夜、音がすると気になってしまって」

私は、同室者の生活音が原因なのだろうかと思いました。

「同室の方の音が気になりますか?」

「音そのものが嫌というか…」

Aさんは、言葉を探すように少しずつ話しました。

「夜、物音がすると、何か悪いことが起きるんじゃないかって思ってしまうんです」

「悪いこと、というのは?」

「誰かが急に具合悪くなるんじゃないかとか、何か問題が起きるんじゃないかとか…。うまく言えないんですけど」

Aさんは、少し困ったように笑いました。

「一度気になり始めると、ずっと気になってしまって」

「眠ろうとしても、気になって眠れないんですね」

「そうです」

そこで、ようやくAさんが訴えていた「部屋を変えてほしい」という言葉の背景が見えてきました。Aさんは、同室者そのものが嫌だったわけではありません。

夜間に物音がすると、その先に何か悪いことが起きるのではないかと考え、不安が強くなっていたのです。

「何日も、ほとんど眠れていません」

さらに話を聞くと、Aさんはここ数日、十分に眠れていないことが分かりました。

「夜は、どれくらい眠れていますか?」

「ほとんど眠れていないと思います」

「途中で何度も目が覚めますか?」

「はい。物音がすると目が覚めて、そこから眠れなくなってしまいます」

「朝になったら、少し眠れますか?」

「朝も、もう人が動き始めるので…。結局、あまり眠れません」

Aさんは疲れた表情で話しました。

「昼間も眠いんですけど、夜が来ると思うと、また眠れないんじゃないかって考えてしまって」

私は、Aさんの訴えを聞きながら、睡眠不足が続いていることの影響も気になりました。眠れない日が続けば、体の疲れが取れないだけでなく、不安が強まり、普段なら受け流せる物音にも敏感になることがあります。

Aさんにとっては、夜が来ることそのものが心配になっていたのかもしれません。

「部屋を変えたら、眠れるようになると思いますか?」

そう尋ねると、Aさんは少し考えてから答えました。

「…分からないです。でも、今の部屋にいるのが怖いんです」

その言葉には、強く訴え続けていた理由が表れていました。Aさんは、単に部屋を変えたいのではありません。

安心して眠れるようになりたい。また眠れない夜を過ごすのが怖い。その気持ちを、どう伝えたらよいのか分からなかったのです。

すぐに部屋を変えることだけが解決ではなかった

私は、Aさんの希望を受け止めたうえで、病棟スタッフと対応を相談しました。部屋の変更が必要かどうかを検討すると同時に、今の環境で不安を軽減できる方法がないかを考えることにしました。

例えば、夜間にどのような音が気になっているのかを確認すること。

物音がしたときに、スタッフがどのように声をかければAさんが安心しやすいのかを共有すること。

就寝前に不安が強まっていないかを確認し、眠れない状態が続いていることについても、必要に応じて医師と相談すること。

こうした点を一つずつ検討しました。もちろん、環境を調整すれば必ず眠れるようになるわけではありません。部屋の変更が必要になる場合もあります。

ただ、Aさんの場合は、部屋そのものへの不満だけでなく、夜間の物音をきっかけに不安が強まることが大きな問題でした。

そのため、まずは夜間の環境を整え、安心できる声かけを行いながら様子を見ることになりました。

Aさんにも、検討している内容を説明しました。

「すぐに部屋を変えることは難しいのですが、夜に気になる音があったときは、スタッフに声をかけてもらって大丈夫です」

「でも、また眠れなかったら…」

「眠れないことが続いているのは分かりました。夜の様子を確認しながら、どうしたら少しでも安心して休めるか、一緒に考えていきましょう」

Aさんはしばらく黙っていましたが、やがて、「分かりました」とうなずきました。

その夜、Aさんが少し眠れた理由

その後、スタッフ間でAさんの不安の内容と対応方法を共有し、夜間の環境調整と声かけを行いました。

物音が気になっている様子があれば、ただ「大丈夫ですよ」と伝えるのではなく、何が気になっているのかを聞き、必要な状況確認を行うようにしました。

その夜、Aさんはこれまでより落ち着いて過ごし、入眠することができました。

もちろん、一晩眠れたからといって、不安がすべて解消したわけではありません。

それでも、翌日Aさんに話を聞くと、

「昨日は少し眠れました」

と教えてくれました。

私は、

「少しでも眠れてよかったです。まだ気になることがあれば、教えてくださいね」

と伝えました。

Aさんは、

「また眠れなくなるのは嫌ですけど…」

と話しながらも、最初に部屋の変更を強く訴えていたときより、表情が和らいでいました。結果として、その時点では移室せず、環境調整を続けながら経過を見ることになりました。

「部屋を変えてほしい」の奥にあったもの

今回の出来事で考えさせられたのは、患者さんが求めていることを、そのまま解決策にしてしまわないことの大切さです。

Aさんは「部屋を変えてください」と繰り返していました。その言葉だけを聞けば、部屋が変われば問題は解決するように思えるかもしれません。

しかし、話を聞いてみると、Aさんが本当に困っていたのは、夜間の物音をきっかけに不安が強まり、眠れなくなっていることだと分かりました。

本人にとっては、部屋を変えることが、その不安から離れるために思いついた方法だったのでしょう。だからといって、最初の希望を否定してよいわけではありません。

「部屋は変えられません」とだけ伝えていたら、Aさんは自分のつらさを分かってもらえないと感じたかもしれません。

まずは希望を受け止め、その奥にある困りごとを知ること。そして、本人と一緒に、ほかにできることがないかを考えること。それが、今回の関わりにつながったのだと思います。

強い口調で訴える人を見ると、私たちはつい、その言い方や要求に意識を向けてしまいます。

しかしその人は何に困り、何を変えたくて、その言葉を口にしているのでしょうか。

Aさんの「今日中に部屋を変えてください」という訴えの奥には、何日も眠れず、また不安な夜を迎えることを恐れている気持ちがありました。

表面に出ている要求だけでは分からない、本当の困りごと。それを一緒に探していくことも、看護で大切にしたい関わりの1つだと改めて感じた出来事でした。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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