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「RNAワールド」の始まりが特定された――約43億3000万年前と結論

  • 2026.9.27
「RNAワールド」の始まりが特定された――43億3000万年前と結論
「RNAワールド」の始まりが特定された――43億3000万年前と結論 / Credit:Canva

アメリカの惑星科学研究所(PSI)やドイツのバイエルン地球科学研究所(BGI)などで行われた研究によって、生命の最初の段階とされる「RNAワールド」が海が丸ごと蒸発するような天体衝突がほぼやんだ直後の「約43億3000万年前」に出現した可能性が示されました。

月をつくった巨大衝突が起きたのが45億1000万年前ですから、そのわずか2億年足らずあとには、生命が始まれる条件が整っていたことになります。

論文では、地球ができたばかりの時代(冥王代)の地殻が、衝突による滅菌が支配する状態から、生命の材料が壊れずに残り続ける地下の隠れ場所が広がる状態へ移り変わったと記されています。

研究内容の詳細は2026年9月22日に『Nature Communications』にて発表されました。

目次

  • 地球には、生命が「始まれない」時代があった
  • RNAワールドは約43億3000万年前に出現した
  • LUCAの前に多様な生命が存在した

地球には、生命が「始まれない」時代があった

Credit:Canva

生命の始まりといえば、たいてい同じ絵が浮かびます。

原始の海に有機物が溶け込んだスープがあり、そこに雷が落ちて、最初の生き物のもとができる。

けれどもその絵には、肝心の「いつ」が入っていません。

生命が地球に現れた時期の見積もりは、38億年前ごろとする説から45億年前近くまでさかのぼる説まで、7億年分もの幅があります。

理由の一つは、証拠の側にあります。

40億年より前の地球の岩は地殻が作り替えられる過程でほとんど失われ、当時をたどる手がかりは、熱に強い小さな鉱物の粒(ジルコン)などごくわずかしか残っていません。

もう一つの理由は、当時の地球そのものにあります。

45億1000万年前に月をつくった巨大衝突が起きたあと、地球の表面はマグマの海になりました。

その後も、直径500キロを超えるような岩塊が次々と落ちてきます。

恐竜を絶滅させた小惑星よりけた違いに大きな天体です。

これほどの衝突が起きると、海は蒸発して水蒸気の大気に変わり、地表の温度は300℃を超えたまま数千年も下がりません。

さらに、砕けて舞い上がった高温の岩が数百メートルの厚さで降り積もり、地下に隠れていたとしても焼かれてしまいます。

生き物どころか、生き物の材料さえ残れない状態です。

月のクレーターの記録から復元された衝突の歴史では、こうした「海を蒸発させる衝突」は44億年前ごろまで続いたとされてきました。

しかも熱は、上から降ってくるだけではありません。

当時のマントルは1700℃を超え、内部の熱が地表近くまで盛んに運ばれていました。

深く潜れば涼しい、という逃げ場が、この星にはなかったのです。

しかしこの地獄のような環境も徐々に落ち着いていきます。

DNAとRNA
DNAとRNA / Credit:Canva

巨大衝突を起こすような小惑星は時と共に徐々に減っていき、地球が安定して海を維持できる時代になりました。

地球が生命の揺り篭としての役割を果たせるようになったわけです。

その最初の一歩として、多くの研究者が有力視しているのがRNAワールド仮説です。

いまの生き物では、DNAが生命の設計図で、設計図をもとに作られたタンパク質が建材となり、生命を形作ります。

しかし最初期の生命では、RNAが遺伝情報を記録しながら、自分自身のコピーづくりまでこなしていたと考えられています。

DNAが主役になる前の、この「RNAで回る生命の時代」がRNAワールドです。

ただそのRNAワールドがいつ始まったのかは諸説があり44億6000万年前から42億6000万年前、あるいは44億5000万年前から39億年前と5億年以上の幅があったのです。

そこで論文の筆頭著者オレグ・アブラモフ氏らの研究チームは、降りそそぐ天体の熱で地球の表面近くがどう熱せられ、どう冷えていったのかを直接計算し、生命の部品が壊れずにいられる場所がいつ現れたのかを突き止めることにしました。

RNAワールドは約43億3000万年前に出現した

RNAワールドは約43億3000万年前に出現した
RNAワールドは約43億3000万年前に出現した / Credit:Canva

地球はいつ頃からRNAワールドを始められるくら穏やかになったのか?

答えを得るため研究チームは、生まれたばかりの地球の表面近くをコンピューターの中に立体的に再現し、そこへ10億年分、数千〜約2万個の天体を降らせました。

どれだけの天体が降ったかは、クレーターがそのまま残る月の記録などから見積もっています。

そのうえで地下の浅い場所の温度を追いかけ、生き物が生きられる上限の目安として研究チームが置いた110℃を下回る場所が、いつ、どれだけ現れるかを調べました。

すると最初の1億年ほどは、やはり過酷であることが見えてきました。

初めのころは、海を丸ごと蒸発させる規模の衝突が1000万年に6〜7回も起こりうるペースで、地球の表面をつくる岩盤の7割ほどが同時に溶けていた時期もありました。

このころの地球では、ある場所がいったん冷えても安心できません。

冷えて穏やかになった場所も、次の衝突の熱や、空から降ってくる灼熱の岩によって、また煮え立ってしまうからです。

せっかくRNAの材料が集まりかけても、そのたびに壊されて振り出しに戻ります。

「生命以前の化学に必要なのは、衝突と衝突の合間のつかの間の涼しさではなく、途切れずに安定した温度です。44億年前より前は、冷えた場所も後の衝突で再び熱せられ、時計がリセットされ続けていたのです」とアブラモフ氏は述べています。

流れが変わったのは、約44億年前です。

海を蒸発させるほどの衝突は1000万年に0〜1回ほどのまれな出来事になり、地下の浅いところに、一度冷えたら二度と110℃を超えない場所が現れ始めます。

この「二度と滅菌されない場所」は衝突が減るにつれて広がり、42億5000万年前には浅い地殻の半分を超えました。

ここまでなら、天体衝突は生命の敵でしかありません。

隕石といえば恐竜を絶滅させた悪役、というのが定番のイメージです。

しかし衝突は、壊すだけでなく熱も置いていきます。

熱く砕けた岩のすき間に水がしみこむと、地下を温水がめぐる仕組み(熱水系)ができあがります。

水と熱と化学エネルギーがそろうこの場所は、生命につながる化学反応の舞台の候補として、昔から注目されてきました。

実際、恐竜を滅ぼした隕石が残したメキシコのチクシュルーブ・クレーターでも、衝突のあと地下を温水がめぐり、地表近くが長く温かいまま保たれていたことが分かっています。

衝突は激しすぎれば生命を焼き尽くしますが、適度なら揺り篭を作れるというわけです。

計算では、こうした熱水のオアシスが寄り集まった群れの数は43億年前ごろに最も多くなり、その後は衝突が減るのに合わせて少しずつ減っていきました。

衝突が減ることは、衝突がつくる熱水のゆりかごが減ることでもあったのです。

そこでアブラモフ氏は、衝突がもたらす有害な影響、つまり温度の上昇による生体分子の劣化と、熱水系の形成という生命にとって好ましい影響の両方を比べました。

結果、その交差点として43億3000万年前が浮かび上がりました。

穏やかな場所が二度と焼かれずに済むほどには、衝突は収まっており、それでいて衝突がつくった熱水のオアシスはまだ各地に残っているという2つが同時に成り立っていた最適な時期(スイートスポット)です。

さらに地温の上がり方が、衝突に支配された状態から、地球内部からゆっくり伝わる熱が主役の状態へ切り替わるのも、この年代にあたります。

そのため研究者たちは、生命誕生につながる「RNAワールド」の始まりの最適な時期が43億3000万年前であると結論しました。

LUCAの前に多様な生命が存在した

LUCAの前に多様な生命が存在した
LUCAの前に多様な生命が存在した / Credit:Canva

では、生命は温泉で生まれたのでしょうか。

生命が生まれた場所については、温泉のほかにも、陸の上で水たまりが干上がったり満たされたりをくり返す場所など、いくつもの候補があり、今も議論が続いています。

ですが研究チームの計算は、どれか一つに肩入れしないまま、どの候補地にも欠かせない「穏やかな温度が長く続く」という状態が出現する時期を割り出すことに成功しました。

また最適期の約43億3000万年前は、遺伝子から見積もられた現在のすべての生き物の共通祖先(LUCA)の登場(約42億年前)より、1億3000万年ほど前にあたり、順番としては、ぴたりと合います。

地球化学の側から別の方法で計算した研究も、RNAが生まれた時期を約43億年前としており、今回の最適期とよく一致します。

さらに研究者たちはLUCAの前にはすでに長い進化の歴史があり、RNAだけで動く生命、RNAとタンパク質が手を組んだ生命、DNAを使い始めたばかりの生命など、多様な集団がLUCAより前に存在していた可能性があると考えています。

そうした多様な存在の中から、最終的に私たちへつながるものとして選ばれたのがLUCAに過ぎないというわけです。

LUCAが現れた42億年前ごろには、地下300メートルの温度は25〜50℃ほどに落ち着き、より複雑な生命へと進化していく準備が整った世界になっていたと論文は述べています。

では穏やかになった地球で、材料はどうやって生命の形にまとまったのでしょうか?

論文が挙げる候補の一つは、皮肉にも、また衝突です。

大きな衝突がえぐったクレーターは、雨水をためる器になります。

そこへ周りの岩から洗い出された有機物や、落ちてきた天体そのものが持ち込んだ物質が集まります。

器は乾いては雨で満ち、乾いては満ちを繰り返し、そのたびに中身を煮詰めていきます。

さらに大きな衝突は、天体の金属の芯を砕いて鉄をまき散らし、その鉄と水の反応で生まれた水素が、核酸のもとになる窒素化合物(アンモニア)ができる条件を一時的に整えます。

44億年前以降の穏やかな時期は、そうした条件を使える時期とちょうど重なっていた、と論文は指摘しています。

一方で、RNAワールドがどれくらい続き、いつDNAの時代へ移っていったのかまでは、今回の計算でも絞り込めていません。

ただ、始まりの時期が狭い幅で見えてきたことで、衝突の嵐の終わりからRNAワールド、そしてLUCAへと続く生命の最初の数億年を、一本の年表の上に並べられるようになりました。

中心の年代は従来の見積もりと一致しつつ、不確実性の範囲は大幅に狭くなったとアブラモフ氏は説明しています。

参考文献

New Study Pinpoints When Early Earth May Have Become Ready for Life’s Chemistry
https://www.psi.edu/blog/new-study-pinpoints-when-early-earth-may-have-become-ready-for-lifes-chemistry/

元論文

A Hadean timeline for the emergence of the RNA World
https://doi.org/10.1038/s41467-026-76978-3

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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