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北村匠海、『しびれ』に重ねる俳優人生

  • 2026.9.25
TAKU TSUTSUI[TRON]

『佐々木、イン、マイマイン』(2020)で数々の新人賞を受賞した内山拓也監督の新作『しびれ』は、監督の故郷・新潟を舞台に描く自伝的な物語。主演を務める北村匠海は、俳優としてのみならず、音楽活動では作詞も手がけるなど、言葉の力と向き合ってきた。そんな彼が今回演じるのは、ある出来事をきっかけに言葉を発することができなくなった青年、大地。

現場で北村はその目で見つめることに終始した。怒りや憎しみを目に宿す大地を演じることで、子役時代、暗黒の思春期……これまでの自分の半生を思い返したという。役者人生20年を迎えた彼の「目」が大いに活かされた。

暗黒期を乗り越えた今だからわかること

作品のワンシーンより。幼少期の家庭環境によって深い孤独を抱えながら、自分の居場所や愛を探して生きていく大地という男を演じる ©2025「しびれ」製作委員会

――今年、デビュー20周年だそうですね。

そうなんです。この20年、本当にいろんなことがありました。僕はこの仕事しかやってきていなくて、バイトすらしたことがありません。ただ漠然と8歳の時から、社会というものを知っていて、大人と関わって、ルールに触れてきて、そういう意味では子どもらしい子ども時代ではなかったと思うので、ちょっとかわいそうだなとも思います。

――もしかしたら、別の人生があったかもしれないと考えることもありますか。

正直、苦しい時期もありました。 でも、その経験すら役者をやっていると生きてきてしまう。小学校6年生まではいつも班長をやって、ガキ大将みたいな存在でした。人生にはいろんな転機があって、出会いと別れを繰り返して、人間は形成されていきます。苦しいことにも向き合ってこなければ、きっと今回の映画『しびれ』には出会えてなかったので、ここまでやってきた自分を誇れるとは思っています。

――それを聞けて、よかったです。

これだけ続けてきているから、出会えた人もたくさんいるし、去年は特に子役の時に出会った方々とまた仕事をすることが多くありました。それはもう、僕だけの特別な出会いだから、うれしいものではあるんです。何事も、続けることが一番難しいと言われますが、本当にそうだと思います。僕はとにかく運がいいのでしょう。子役の時から今に至るまで、出会ってきた作品で忘れたものはひとつもありません。現場の雰囲気から出来事、何から何まで全部覚えています。全ての出会い、経験がずっと自分の中に根付いている。そう思うと、いい20年だったなと思います。

――主演映画『しびれ』は出会うべきして、出会った作品だったんですね。

内山監督との出会いは『アンダードッグ』(2020)を撮っている最中でした。その後、撮影開始のだいぶ前に企画書と最初の台本をいただきました。監督の半自伝的な話でもあるので、内山監督の人生を覗かせてもらっているような感想を持ったのと同時に、今に至るまで、どうやって生きてきたのかという感覚が自分とすごく似ているなと思ったんです。同じ出来事を過ごしてきたわけではなくて、社会、生きるということに対して、あるいは家族にまつわる愛もそうですが、その度合いや方向みたいなところで共鳴することがたくさんありました。最初の段階の台本では、大地の怒りや悲しみがものすごく強かったのですが、徐々に内山監督の中で、光に向かっていく話に変わっていったように思います。僕はあまり役と似ている部分を考えるタイプではないのですが、大地に自分の人生を重ね合わせ、“そうそう。光に向かって行きたいね。みんなで行こうよ“という思いが監督との間に生まれた感じがありました。

新潟が舞台。鉛色の空と降り積もる雪が、ストーリーに静かな重厚感を添える。 ©2025「しびれ」製作委員会

――北村さんが演じる青年期の大地となるまでを幼少期は穐本陽月さん、少年期は加藤庵次さん、榎本 司さんが演じています。子役たちのバトンをどんな思いで受け取っていたのでしょうか。

スケジュール的に難しく、彼らの芝居を現場で見ることは一度もなかったんです。監督が僕や彼らを信じているから、必要ありませんでした。現場ではスタッフの皆さんが思い出話のように、大地を見守ってきた時間を自然に話してくれて、それを聞けただけで、僕は“大地を生きられる。大丈夫だ”と思いました。この映画で、僕ら大地がやったことは、“何を見るか”ということに限られると思います。現場に入った段階で、そこへの迷いは一切、ありませんでした。彼らが何を見つめてきたのかは現場が教えてくれました。

――4人に共通している「目」が印象的です。

完成した作品を見た時に、間違っていなかったと思ったし、同時に初めて完成した“大地”という人間を客観的に見て、愛おしく思えました。それは一緒に大地を歩んだ僕ら4人が成しえたことだと思います。

主人公の大地役を3人の子役たちが支えた。 ©2025「しびれ」製作委員会

――北村さんは、子役時代に数々の作品で、誰かの幼少期を演じていますが、その経験が生きたことはありますか。

思い返せば、いろんな幼少期をやってきました。僕、岡田将生くんの幼少期を一番、やっていると思うんですよね(笑)。一番、思い出深いのは『重力ピエロ』(2009)です。母親がレイプされた時に身ごもった子の役で、お兄ちゃんと喋るシーンにある台詞がありました。もちろん、あの時の僕はその言葉の意味を知らないで、すごく無垢なまま、やっています。大人になって見てみると、“なんか、すごいな。”って思ったりするんです。大地を演じた彼らがどこまで頭で考えて、やったのかわからないけど、きっと今の彼らにしかできないこと、絶対に忘れちゃいけない芝居をやっていて、今回の僕はそれを受け取る側でした。昔、小栗旬さんが監督を務めた『シュアリー・サムデイ』(2010)で、当時11歳の子役という認識があった僕に、小栗さんは『そうじゃない。君は主役だからね』って言ってくれたんです。今回そのことをすごく思い返しました。本当に全員が主役です。『しびれ』で横浜国際映画祭の最優秀男優賞をいただきましたが、これは僕への賞ではなくて、大地がもらった賞だと思ったんです。子役を務めてくれた彼らと大人になった時にまた再会して、この話をできたらなと思ったりします。

TAKU TSUTSUI[TRON]

5分後に死ぬと思って、生きている

――『しびれ』を通じて、これまでの自分の人生を振り返るようなことはありましたか。

ありました。大地と違って、僕は温かい家庭で育って、今でも家族仲がいいですし、先日も家族とご飯に行ってきたばかりです。それでも、自分自身に巻き起こった出来事を振り返っていくと、僕の根源はすごく悲しみにあふれています。8歳から役者をやっていると、いろんな経験をすることになり、その出来事を思い返す瞬間はこれまでにも多々ありました。それは振り返るというより、大地を演じる上で、“これまでの人生を生きてきて、自分は何を抱えてきたんだろう。どうして今、この作品と出会ったんだろう”と考えざるを得ないわけです。

――「悲しみ」ですか。

僕は5分後に死ぬと思って、生きているみたいなところがあって、それは本当に自分の身の回りで何が起きるかわからない人生だったからです。大地を演じてあらためて、これまでの人生で何を感じてきたんだろうと何度も思い返しました。僕が作詞するものは愛を歌ったものが多いんです。僕のテーマは愛だし、生きるということ。一方で、大地の人生を見つめてもらうと、生きるために一歩、進む原動力は怒りしかない。怒りとか憎しみ。そういったある種、ネガティブな感情を内包して、大地は生きていく。それはもうそうならざるを得ない人生だったのかもしれない。でも、この映画は愛の話です。この作品のオファーを受けて、同じように歩んできた内山監督と一緒に“今、何を言葉にするのか。今、何を形にしなきゃいけないのか”、 自分が向かうべき方向を考えました。この物語では最後、大地は車に乗って、母を連れて、光に向かっていきます。怒りを忘れるということではなく、忘れられない記憶とともに怒りが雪のように溶けていくような印象がありました。

――車もそうですが、青年期の大地はピアスにタトゥー、いつも同じコートです。部屋のアートにもこだわりを感じます。どのように選ばれたのでしょうか。

全ての始まりがどこかわからないですけど、衣装合わせの段階ではもうタトゥーの話はしていて、何を着るかということも含め、匂いすら香水のスタイリングのようなことをして、大地を作り上げていきました。僕の時代になってからのタトゥーや洋服、大地が何を纏うかは多分、偽りでもあるし、見栄でもあります。それでいて、確実に大地が選んできた道であり、それは決して踏み外したわけではなくて、全てが彼にとって、明日を迎えるために必要なもの。そういう生の実感みたいなものが詰まっていたんだろうなと思っています。タトゥーのように、自分を汚す、穢す、傷をつけるみたいなことが大地には必要で、全てに意味があります。車もただかっこいいから乗っているわけじゃなくて、大地が生きるために必要なピースだったのだと思います。

作品のワンシーン。大地のおびただしいタトゥーやファッションも、監督と一緒に作りこんでいった。 ©2025「しびれ」製作委員会

――ファッションでどこか武装しているような感じを受けます。

車には僕は案を出してはいないのですが、自分が思い描くものと全てが重なっていたので、疑いはまるでなく、見た瞬間に“そうだよね”と思える物でした。美術に関してもそうです。大地の家にはアートが飾られていますけど、無機質で閑散とした部屋にものすごくちぐはぐなんです。あの部屋には大地の悲しみも冷たさも暖かさも全部が詰まっています。僕、マフラーを巻くシーンがすごく思い出深いんですけど、あの瞬間だけ、あの部屋が明るく見えて、やっと色が入ったような気がしました。それは大地が愛を知った、愛を感じる瞬間だったんですよね。そういうひとつひとつのもの、場所、全てが大地をかたどるために必要だったと思います。

――役作りに香水を使う方、いますね。

僕も役によって、香水を変えたりします。つけない役が多かったりするんですけど、今回は役に入るために必要な要素として、すごく大きかったです。スタイリストさんに用意していただいたものを“これかな。これじゃないかな”と選んでいきました。それがディオールだったんです。匂いっていうのは他者に何を感じさせるかだし、何を香らせるのかはすごく大事なことだったりします。大地役をやる上では、本当に大事な要素でした。

――普段はどうですか。

そもそも自分が好きな匂いがあって、好きで集めていた香水ですが、役によって増えたものもあって、今では仕事のスイッチをいれるためのものにもなっています。

TAKU TSUTSUI[TRON]

舞台は生半可な気持ちではできない

――これまでの役者人生を振り返って、一番、学んだことが多かった作品はなんですか。

一番、学びが多かったのは舞台かもしれません。その頃の僕は、『東京リベンジャーズ』(2021)などもあって、自分が積み上げてきた芝居に対する感覚を誰かに壊して欲しい破壊衝動みたいなものがすごく強かったんです。自分を信じられない。そんなタイミングで吉沢 亮くんと『マーキュリー・ファー Mercury Fur』(2022)をやることになりました。後にも先にも、舞台はそれしか出ていません。難しい題材がたくさん入った戯曲でした。舞台に挑戦することは自分にとって、大きな壁だったんですけど、初めての舞台で、演出の白井晃さんに自分の芝居を壊してもらいました。最初、映画やドラマで自分が培ってきたものをぶつけてみたんです。当たり前かもしれませんが、何一つ通用せず、そこで演劇というものを学びました。舞台で得た学びは舞台のなかで生きるものなんだと知りました。新しい演技している実感があって、学びの多かった、忘れられない37公演。毎日、白井さんから言われたことや自分の感情を台本の裏に日記みたいに書き連ねていました。

――それは貴重ですね。

引っ越しの時に母が手伝いに来てくれて、台本の整理をしたんですよ。その時に、母が見つけて、“これは捨てられないでしょう!”って。今でも、家にあります。

――また舞台、観たいです。

舞台は生半可な気持ちではできないです。ちょっと濃過ぎました。自分が音楽をやっていることもあって、舞台は一番、両立が難しいなと痛感したんです。ひどく消耗するから、中途半端になってしまう。だから、これから先の人生において、心のゆとりがある時にまた舞台をやるのかもしれません。ただ、この思い出を塗り替えたくない気持ちもすごくあるんですよね。

邦画の中で生きて死にたい

ELLE 最後の質問になりますが、実は『しびれ』の公開日が、北村さんが悪役を演じている『シャドウワーク』と重なっています。邦画人気が止まりませんが、渦中にいる気持ちを教えてください。

僕の大きな夢は、日本の映画を世界でより響くものにしたいということ。僕は邦画が好きです。最後まで邦画の中で生きて死にたいです。実は日本の映画の良さである余白が、昨今の日本の作品になくなってきているなとひしひしと身にしみていたんです。だけど、濱口(竜介)監督の作品やこの『しびれ』には、日本語だから成せる、ありあまる余白の使い方が感じられます。「間」は日本の美学だと思います。

ELLE ベルリン国際映画祭の『しびれ』上映で手応えを感じましたか。

今回のベルリンで感じたのは、「なんて映画への愛が深い国なんだ」ということ。カンヌもヴェネチアもそうでしょう。別の作品ですけど、『愚か者の身分』(2025)で釜山国際映画祭は僕ら3人(北村匠海・林裕太・綾野剛)に最優秀俳優賞をくれたんです。韓国がやる釜山国際映画祭の初めてのコンペで僕らを選ぶって、どういうことなんだ。しかも3人同時受賞って、なんて粋な映画祭なんだって思ったんですよね。僕の中で、これからも邦画を好きでいようという確信に変わりました。ムーブメントで終わりたくないなとすごく思っています。

ベルリン国際映画祭にて、内山監督と。

Profile
北村匠海/俳優。1997年生まれ、 東京都出身。 2008年 『DIVE!!』 で映画デビュー。 2011年に4人組バンド 「DISH//」 を結成し、 メインボーカルとギターを担当する。 『君の膵臓をたべたい』 (17) で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数々の新人賞を受賞。 近年の主な映画出演作に 『東京リベンジャーズ』 シリーズ 『明け方の若者たち』 (21)、 『とんび』 (22)、 『スクロール』 『法廷遊戯』 (23)、 『悪い夏』 『金子差入店』 『愚か者の身分』 (25)、 『ほどなく、お別れです』 『SAKAMOTO DAYS』 (26) など。

Styling:RINA MARUO Hair&Make-up:RINA OHARA Text:AKI TAKAYAMA

ジャケット ¥501,600 Tシャツ ¥52,800 パンツ ¥104,500 ブーツ ¥212,300/共にアワー レガシー(エドストローム オフィス) リング ¥73,500/トムウッド(トムウッド 青山店)

問い合わせ先/エドストローム オフィス tel.03-6427-5901 トムウッド 青山店 tel. 03-6447-5528

『しびれ』

監督・原案・脚本:内山拓也
出演:北村匠海 宮沢りえ
榎本 司 加藤庵次 穐本陽月
赤間麻里子 / 永瀬正敏
企画・制作:カラーバード
製作幹事・制作プロダクション:RIKIプロジェクト

2026年9月25日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館ほか全国公開

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