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「もういい、帰る!」採血中に突然立ちあがろうとした男性…慌てて止めて話を聞くと→発覚した“理由”

  • 2026.10.4
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

病棟では、患者さんの行動が一見すると「拒否」や「問題行動」に見えることがあります。

けれど、その行動だけを見て「嫌だからやめたいのだろう」と判断してしまうと、その人が本当に困っていることを見落としてしまうこともあります。

これは、とある病棟で定期採血を行っていた際、患者さんの突然の拒否の裏側に、別の不安が隠れていたことに気づいたときの話です。

「もういい、帰る!」突然、採血中に立ち上がろうとした男性

Aさんは病棟に入院している男性で、普段はスタッフからの声かけにも応じてくれることが多く、採血もこれまで何度か経験しています。

その日も、定期採血のため処置室へ来てもらいました。

「Aさん、今日採血があります。こちらへどうぞ」

「はい」

Aさんは特に嫌がる様子もなく、処置室の椅子に座りました。看護師が準備をして、いつものように採血を開始します。

「少しチクッとしますね」

「…はい」

ここまでは、いつもと変わりませんでした。

ところが、採血を始めてしばらくしたときです。Aさんが突然、腕を引こうとしました。

「もういい!」

「Aさん、まだ採血の途中ですよ。もう少しで終わります」

「いいから! もう帰る!」

声も少し大きくなっています。採血中に腕を急に動かされると危険です。針が刺さった状態で大きく動けば、出血や皮下出血につながる可能性もあります。

看護師もすぐにAさんへ声をかけました。

「今、針が入っているので、急に動くと危ないです。もう少しだけ、そのままでお願いします」

「嫌や!今すぐやめて!」

Aさんは明らかに焦った様子でした。

「採血が痛かったのかな」最初に考えたこと

私は最初、採血そのものが嫌になったのだと思いました。

確かに採血は、誰にとっても多少の痛みや緊張を伴うものです。その日の体調や精神状態によって、普段は問題なく受けられている処置でも拒否が強くなることがあります。

「今日は痛みが強かったのかな」

「体調が悪いのかな」

そんなことを考えながら、Aさんに声をかけました。

「痛いですか?」

「違う!」

即答でした。

「採血が嫌なんですか?」

「違うって!」

そこで、少し違和感を覚えました。

採血が嫌なのであれば、「痛い」「もうやりたくない」といった言葉が出てもおかしくありません。

ところがAさんは、採血そのものを嫌がるというより、何か別のことを気にしているようでした。

そして、もう一つ気になることがありました。Aさんが先ほどから、処置室の時計を何度も見ていたのです。

「Aさん、時計を気にしていますか?」

「…もう時間やろ」

「何の時間ですか?」

するとAさんは、少し間を置いて答えました。

「この時間になったら、あの人が来るから」

時計を何度も確認していた理由

「あの人って、誰ですか?」

「知らん人」

Aさんはそう言って、処置室の入口のほうを見ました。

「病室に来るねん。だから、もう戻らなあかん」

ここで、ようやく少しずつ話がつながってきました。

Aさんの中では、「ある時間になると、病室に知らない人が来る」という認識があり、その時間が近づいていることに不安を感じていたのです。

採血が嫌だったわけではありません。

「採血が終わるまでここにいる」ことによって、自分が気にしている時間に病室へ戻れなくなることが怖かったのです。

つまり、私たちから見ると突然の「採血拒否」に見えた行動は、Aさんにとっては「早く戻らなければならない」という切迫した行動だったのです。

「もう帰る」は、採血への拒否ではなかった

Aさんにとって、処置室にいること自体が問題だったわけではありません。

「この時間までに病室へ戻らなければいけない」

そんな思いが強くなり、採血を続けることができなくなっていたのです。

さらに話を聞いていくと、以前にもこの時間帯に病室で嫌な思いをしたことがあり、その体験が今回の状況と結びついているようでした。

本人の中では、「時計を見ると、いつもの時間が近づいている。知らない人が来るかもしれないから早く病室へ戻らないといけない」という流れができていたのかもしれません。

もちろん、Aさんが感じていた「知らない人」が実際に誰だったのか、当時の認識がどこまで現実と一致していたのかについては、本人の訴えだけで判断することはできません。

ただ、少なくとも「採血が嫌だから暴れている」という単純な話ではないことは分かりました。

「もう少しだけ」を伝えることが難しい場面

精神科の処置では、患者さんが不安を感じているときに「もう少しで終わります」と伝えるだけでは、かえって焦りが強くなることがあります。Aさんにとっては、「もう少し」がどのくらいなのか分からないからです。

そこで、その日はできるだけ短く具体的に伝えることにしました。

「Aさん、あと少しで終わります。終わったらすぐに病室へ戻れます」

「ほんまに?」

「はい。終わったら一緒に戻りましょう」

「…分かった」

Aさんは何度か時計を確認しながらも、少しずつ落ち着きを取り戻しました。

採血を安全に終え、抜針します。

「終わりましたよ」

Aさんはほっとしたように息を吐きました。

「戻っていい?」

「はい。一緒に戻りましょう」

そう声をかけると、Aさんは立ち上がりました。

数日後、Aさんが話してくれたこと

その出来事があってから、スタッフ間でもAさんがその時間帯に時計を気にすることや、特定の時間になると不安が強くなりやすいことを共有しました。

数日後、Aさんと話す機会がありました。

「この前の採血のとき、急に帰りたくなったのは、採血が嫌だったんですか?」

するとAさんは首を横に振りました。少し考えてから、

「…時間がくるのが嫌やった」

と話しました。

そして、

「間に合わんと思ったから、帰らなあかんと思った」

と続けました。

その言葉を聞いて、改めて患者さんの行動を表面的に捉えてはいけないと感じました。

私たちには「突然立ち上がった」「採血を拒否した」という行動しか見えていませんでした。

でも、その行動の前には、Aさんの中で何かが起きていたのです。

「拒否する患者」と決めつけないこと

時には、患者さんの言動が私たちには理解しづらいことがあります。

突然怒ったり、処置を嫌がったり、何度も同じことを確認したりすることもあります。

そのとき、「拒否された」「困った行動をされた」と受け止めてしまうと、その先にある理由を考えることが難しくなります。もちろん、安全を守るために行動を止めなければならない場面もあります。

今回も、採血中に腕を急に動かすことは危険だったため、まずは安全に採血を終える必要がありました。

その一方で、「なぜ今、このタイミングで拒否したのか」と考えることも大切でした。

Aさんの場合、きっかけになっていたのは採血ではなく「時間」でした。

そして、その時間に対する不安の背景には、過去の嫌な体験や本人なりの認識がありました。

「もう帰る」の一言だけでは見えなかったもの

精神科の看護では、患者さんの言葉だけでなく、視線や動作、表情、いつもと違うタイミングにも目を向けることがあります。

今回、私が気づけたのは、Aさんが何度も時計を見ていたからでした。

患者さんの突然の拒否には、必ずしも一つの理由だけがあるとは限りません。

痛み、不安、過去の経験、環境への警戒、時間へのこだわりなど、さまざまなものが重なっていることがあります。

だからこそ、行動だけを見て判断するのではなく、「この人は、今何を怖がっているのだろう」「何があれば安心できるのだろう」と考えることが、精神科看護では大切なのだと思います。

あの日のAさんの「もう帰る!」という言葉は、最初はただの採血拒否に聞こえました。

でも、その一言の裏側にあったのは、「怖い時間が来る前に、早く戻りたい」という本人なりの切実な思いでした。

患者さんの行動には、私たちからは見えていない理由が隠れている。そう実感した出来事でした。



ライター:病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。コミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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