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「今日だけ泊まらせて…」面会時間を過ぎても帰らない家族→無茶な要求に…看護師が気づいた“切実な理由”

  • 2026.9.27
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

「家族なんだから、もう少しいてもいいですよね?」

病棟で勤務していた頃、面会終了の時間が近づいても帰ろうとしない家族から、そんな言葉をかけられたことがありました。

病棟には、患者さんの安全や治療環境を守るために決められた面会時間があります。

「今日だけでも泊まらせてもらえませんか?」

さらにそう言われたとき、正直なところ私は「さすがに、それは難しい」と思いました。

しかし、話を聞いていくと、家族が単純にルールを無視していたわけではないことが分かってきました。

その背景にあったのは、認知症の患者さんを思う家族の切実な気持ちでした。

「そろそろ面会時間終了です」

その日は、敬老の日を前にした休日でした。病棟に入院していた高齢女性のAさんのもとへ、息子さん夫婦が面会に来ていました。

Aさんは認知症があり、普段から家族との面会を楽しみにしている方でした。

面会が始まったときは、病室からも楽しそうな声が聞こえていました。

「お母さん、元気そうやな」

「うん。元気よ」

「もうすぐ敬老の日やから、また何か持ってくるからな」

「ありがとう」

息子さんにとっても久しぶりの面会ということもあり、Aさんとの時間を大切にしている様子でした。

しばらくして、面会終了の時間が近づいてきました。病棟内の時計を確認しながら、私は家族のもとへ向かいました。

「Aさん、そろそろ面会時間が終了になりますので、お帰りの準備をお願いします」

そう声をかけるも、息子さんはすぐには立ち上がりません。少し時間を置いて、もう一度声をかけました。

「申し訳ありませんが、面会時間が終了になります」

すると、息子さんから思いがけない言葉が返ってきました。

家族だからもう少し一緒にいたいという気持ち

「家族なんだから、もう少しいてもいいですよね?」

私は一瞬、返答に迷いました。

「お気持ちは分かるのですが、病棟の面会時間が決まっているので…」

そう説明すると、

「でも、本人も嫌がってないですよね?」

と息子さん。

確かにAさんは嫌がっている様子はありません。むしろ息子さんと一緒にいることを喜んでいます。

「遠くから来てるんですよ。次、いつ来られるか分からないし」

息子さんの声には、少し焦りも混じっていました。そして、さらに続けます。

「今日くらい、泊まらせてもらえませんか?」

その言葉を聞いた瞬間、私は「これは難しい」と思いました。

病棟には面会時間があります。

患者さんの安全面や病棟全体の生活リズムなどを考えても、家族がそのまま病棟に泊まることを認めることはできません。

「申し訳ありませんが、面会時間を延長したり、病棟内に泊まっていただいたりすることはできないんです」

そう伝えると、息子さんは納得できない様子でした。

少し寂しそうな姿に……

「でも、本人も帰ってほしくないって言ってますよ」

「そうですね。Aさんも息子さんと一緒にいたいんだと思います」

「だったら、少しくらいいいじゃないですか」

息子さんの言いたいことも分かります。遠方から来ている。次にいつ会えるか分からない。久しぶりに会えた母親と、できるだけ長く一緒にいたい。

それだけ聞けば、家族としては自然な気持ちなのかもしれません。ただ、病棟には病棟のルールがあります。

「お気持ちは本当に分かります。ただ、今回だけ特別にという対応をしてしまうと、ほかの患者さんとの公平性もありますし、安全面からも難しいんです」

そう説明しました。すると息子さんは、

「…家族なのに、そんなに厳しくしないといけないんですか?」

と少し寂しそうに言いました。

その言葉に、私自身も考えさせられました。

「帰ると、また探すんです」

その後、息子さんと少しだけ話をしました。

「Aさん、面会が終わることを理解するのが難しいこともありますね」

すると息子さんは、「そうなんです」と答えました。

「家でも、私が外出しようとすると『どこ行くの?』ってなるんですよ」

「そうなんですね」

「だから、今日も帰ったら寂しがるかなって思って…」

息子さんは少し黙ってから、

「せっかく敬老の日も近いし、できるだけ一緒にいてあげたいと思ったんです」

と話しました。

そのとき、先ほどまで「ルールを守ってほしい」と思っていた私の気持ちが少し変わりました。息子さんは、病棟の決まりを無視したいわけではなかったのです。

息子さんにも、

「『もう帰らないといけない』と急に伝えるより、『今日はここまでにして、また次に来るね』と次回の面会につなげる言い方のほうが、Aさんも受け止めやすいかもしれません」

とお伝えしました。

最後は「ありがとうございました」と笑顔で

面会終了後、息子さん夫婦は帰る準備を始めました。玄関まで見送りに来たAさんに、息子さんが、

「じゃあ、お母さん。また来るからな」

と手を振ります。Aさんも、「気をつけて帰ってね」と笑顔で答えました。

息子さんは私たちに、

「さっきはすみませんでした。泊まれると思って言ったわけじゃなくて…」

と話しました。

「いえ。お母さまと少しでも長く過ごしたいというお気持ちは分かります」

すると、「ありがとうございます。また来ます」と言って帰っていきました。

「ルールだから」で終わらせない

今回の出来事で、私は「ルールを守ってもらうこと」と「相手の気持ちを受け止めること」は、どちらか一方ではないのだと感じました。

一見すると、「家族なんだから泊まっていいでしょう」という無理な要求でした。

でも、その言葉の裏には、

「遠くから来たのだから、少しでも長く母親と過ごしたい」
「帰ったあとに母が寂しがらないか心配」
「次にいつ会えるか分からない」

という家族の思いがありました。その気持ちまで否定する必要はありません。

でも、そのうえで「では、どうすれば患者さんと家族の希望に少しでも近づけるか」を一緒に考えることはできます。

今回も、家族への説明やAさんへの声かけの方法を工夫することで、最後はみんなが納得できる形で面会を終えることができました。

「ルールだから断る」のではなく、「なぜ、それを求めているのか」を一度立ち止まって考える。

病棟の現場では、そんな視点が必要になることがあります。

あの日の「家族なんだから、もう少しいてもいいですよね?」という息子さんの言葉は、今でも印象に残っています。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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