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救われた、という感想がDMに。‟普通”が難しい子どもを描いたマンガ『シューリンガンの息子』

  • 2026.8.14
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昨年、発表されるやいなやSNSを中心にまたたく間に話題になった漫画『シューリンガンの息子』。漫画好きスタッフが集まるVERYマンガ部でも、「大好き!」「育児中の人に読んでもらいたい」との声多数の作品です。作者の奥田亜紀子さんにこの作品が生まれたきっかけを伺いました。

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『シューリンガンの息子』(奥田亜紀子)

主人公は小学生の息子の父親。息子の聡太には、発達特性ゆえのこだわりの強さがあります。息子のことをもっと理解したい、と思いながらうまくいかず、もどかしい思いを抱える父と、大好きな落語の世界にのめり込む息子は……? 現在、VERY9月号デジタル版で特別公開、およびCOMIC熱帯に掲載中。

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VERY9月号(デジタル版)

読者からの「救われた」という言葉に、描いてよかったと思えた

──主人公の息子は、触覚過敏で着られない服があったり、学校の授業そっちのけで室外機のファンを観察していたりと、人とは違うこだわりをもっています。「子どものことを理解しようとしているつもりだけれどうまくいかない」という状況に悩む主人公の様子に、親として共感する人も多そうです。
私自身に子どもはいませんが、双子の妹が会社員で2児の母なんです。彼女の奮闘ぶりを見ていたことが、この作品づくりの土台にありました。また、私自身にも多少こだわりが強いところや、情報があふれすぎると混乱してしまうようなところがあったので、自分が日常のなかで感じたことも織り交ぜています。作品にする際には、子どもの発達特性について書かれた本を読んで理解を深めました。

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──物語のなかでは落語が印象的なモチーフになっていました。これは何か理由があったのですか?
もともとは知人のエピソードがきっかけになりました。その方のお子さんも漫画に出てくる聡太に似たところがあり、最近はとくに町中華に興味をもっているそうです。そんな息子さんのため、お父さんが毎週末中華料理店に一緒に行くようになったと聞いて、そういうのっていいなと。子どもが興味をもったことを大人も一緒に楽しめるのがいいですよね。とはいえ、漫画にするうえでは、町中華である必然性はなかったので落語に置き換えました。私自身は落語にそこまで詳しいわけではありません。ただ、噺の型そのものが物語の基礎だと思っていて、作業中に古典落語のCDやYouTubeを流すことがあります。また、映画『花とアリス』では、落語研究会に所属している登場人物が「寿限無」をずっと暗唱しているシーンがあります。その姿が、何かに没頭しているときの自分と重なったんです。記憶した言葉や、噺の中の人物を再現することは、聡太にとって、自分という壁の外側に触れるような気持ちよさがあるのかもしれないと思いました。実はこの話を描く直前まで、別の漫画のアイデア出しに何日も苦心していました。それなのに、この作品はストーリーがいきなりポーンとできて。普段は漫画を描き上げるまでかなり苦しんでいる私からすると、かなり特別な状態だったのだと思います。

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──SNSにも、お子さんを持つ読者からの「優しい描写に読んでいて涙が出てきました」「うちの子たちも、そのままの自分でいてほしい」といった声が上がっていました。奥田さんご自身も読者からの感想はご覧になりますか。
とくに『シューリンガンの息子』については、聡太と同じようなタイプのお子さんを育てている保護者から、DMで感想をいただくことが何度かありました。それぞれの家庭の状況を教えてくださった方もいて。このテーマを漫画でどう扱うか、かなり迷った部分もありましたが、読者の方から「救われた」という感想をいただいたことで、改めて描いてよかったと思っています。

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夫婦ともに多忙で、話し合いの時間も体力もないのが現実

──作中では、主人公が育児や部下との関係に惑う様子や妻との会話がとてもリアル。「わかる!」という描写の連続です。妻が夫に正面から言い返さず、笑顔で受け流しながら、さりげなく意思表示する。そんな振舞いは身に覚えのある人も多そうです。
夫婦の会話については、自分の結婚生活で感じてきたことがベースになっています。子育ての描写は、双子の妹の子育ての様子と想像力で補いました。子育てと仕事を両立していると、とにかく時間も体力もなくなりますよね。だから、よっぽどのことがない限り「白黒つけるまで話し合う」という解決策には向かいにくいのではないかと感じています。
真正面からぶつかると、それだけで消耗して、よけいに揉めたり大きなケンカにつながったりすることもあるんじゃないかなと。限られた時間とエネルギーの中で、衝突を避けながら生活を回すための知恵を反映したコミュニケーションとして、あのシーンを入れました。

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「描けない6年間」を経て、漫画の世界に戻ってきた

──ところで、奥田さんご自身はどんな子ども時代を過ごしましたか? 漫画家になることは幼い頃からの夢だったのでしょうか?
本当に田舎の、山奥みたいなところで育ちました。近くには書店もなく、テレビもほとんど観ていなかったので、クラスのなかでも流行にはかなり疎かったと思います。近所の商店に『りぼん』や『ジャンプ』を取り寄せてもらって読むのがやっとでしたが、そうして漫画に触れるうち漫画家になることが夢になりました。ただ、その後はフリーターをしたり、会社勤めしたりと、とにかく生活することで精いっぱいでほかのことはすべて後回しでした。漫画家になりたいという夢もだんだん遠のいていって……。その後、28歳のときに無職になり、思い立って青年誌に投稿したのがデビューのきっかけです。両親からは特に反対されなかったものの、ずっと心配はされていました。でも今は、単行本が出るとご近所に配るつもりなのか何冊も買って応援してくれています。こうやって話すとデビュー前も後も順調だったようですが、そんなことはありません。漫画を描けなくなった時期が6年間ほどあり、「もう無理かも」と思ったことは何度もありました。

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──描けない時間が続くなかでも、やめようとは思わなかったのでしょうか。

若いころは今よりも完璧主義でしたが、いろいろな仕事を受けるうち、自分は責任を感じすぎるとフリーズして結局うまくいかないのだとわかってきました。今は、限界を超えようとするより今こなせる範囲の仕事をしようと考えるようになりました。昔は「もう無理だ」と思っても、それを挫折だと判断する心の余裕がなかったんですよね。次の道に行こうと思っても、漫画を描いていない自分だと物足りなくて、どこか虚しい。結局、また戻ってきて描くことの繰り返しでここまで来てしまいました。

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──作品を読んで改めて、「子どもは親の分身ではなく、一人の他者なのだ」と感じました。妹さんのお子さんたちと接するなかで、子どもという存在をどのように感じていますか? また、その感覚は作品にも反映されていますか?

妹の子どもたち、私にとっては姪と甥ですが、2人とも本当に面白くて。彼らと接するたびに自分の幼いころを思い出します。一方で、自分の時代との違いに驚くこともあります。たとえば画材や粘土をあげると、思っていたよりもずっと豪快に、惜しみなく使うんです(笑)。欲しいものを聞いても、本人たちもはっきりわからないような様子を見せることがあって。物質的にはある程度満たされているからこそ、本当に欲しいものがぼんやりするのかもしれないと感じました。彼らが赤ちゃんのときは、血のつながりを意識して、子どものころの自分との共通点にばかり目がいっていました。でも、成長するにつれ、そんな括りでは捉えきれなくなってきます。それぞれが個性を持った他者なのだなと改めて実感しました。その気づきは作品にも反映されていると思います。

PROFILE
奥田亜紀子さん

漫画家。岐阜県出身。オムニバス短編集『心臓』が「このマンガがすごい! 2020」オンナ編第5位に。その他の作品に『ぷらせぼくらぶ』など。『シューリンガンの息子』は、「このマンガがすごい面白い! 大賞2025 下半期」を受賞。

構成・文/樋口可奈子

※本文中の画像はすべて『シューリンガンの息子』より抜粋

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