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「ケーキも作れないくせに」と嘲笑された60代の新人アルバイト。誰も知らなかった正体とは

  • 2026.5.12

私はアラサーの女性経営者。ケーキ職人兼オーナーだった父が療養のため引退したのを機に、小さいながら評判の店を継ぐことになったのです。昔から地元で愛されてきた店で、父の味を目当てに通ってくださるお客さまも多く、正直、私に務まるのか不安でいっぱいでした。そんな私を支えてくれていたのが、父の右腕として長年厨房を任されてきたベテランパティシエのA木さんです。ところが、店を継いで半年ほどたったころから、少しずつ店の空気が変わり始めたのです――。

頼れるベテランパティシエに生まれた変化

仕入れ先や顧客との交渉、従業員のシフト、イベントの準備など、初めのうちはお店のことがまったくわからなかった私。ベテランのA木さんは、父の味を受け継いだお菓子を作ってくれるだけでなく、いつも的確なアドバイスで助けてくれていました。

私も父が残してくれたレシピや経営メモに目を通し、療養先にいる父から電話で助言をもらいながら、少しずつオーナーとしての仕事を覚えていきました。スタッフたちも次第に協力してくれるようになり、半年がたつころには、私もようやく店を回せるようになってきた実感がありました。

ですが、そのころからA木さんの態度に変化が見え始めます。相談をしても、「オーナーなんですから、自分で判断してください」と突き放されることが増え、言い方もどこかとげとげしくなっていったのです。

今思えば、父が現場を離れてから、A木さんの中で「この店を支えているのは自分だ」という思いが強くなっていたのかもしれません。そこへ、私がオーナーとして周囲から認められ始めたことが、焦りや複雑な感情につながっていたように感じました。

店の空気が少しずつ崩れていった

その後A木さんは、他のスタッフに対しても高圧的な態度を取るようになりました。

「この店は自分がいなければ回らない」という思いが態度に表れていたのだと思います。職場の空気は徐々にギスギスし、職人や販売スタッフの退職が続きました。店頭に並ぶケーキの種類も減り、客足も以前より少しずつ遠のいていきます。売上は落ち込み、経営も厳しくなっていきました。

それでも、父の味をもっとも理解しているのはA木さん。簡単に辞めてもらう決断はできませんでした。

新しく入ったアルバイトの意外な存在感

そんな中、ようやく求人に応募してくれたのが60代の男性でした。物腰が柔らかく、裏方の作業も接客も丁寧で、すぐに店になじんでくれました。

ところがA木さんは、その男性にも冷たい態度。あるとき「ケーキも作れない人に何がわかるんですか」と、見下すような言葉を口にしました。男性は一呼吸おいて、こう言いました。

「では、もしよろしければ、一つ作らせていただいてもよろしいでしょうか」

突然の申し出に、私もA木さんも思わず顔を見合わせました。

A木さんは半ばあきれたように、「……そこまで言うなら、どうぞ」と返します。

すると男性は静かに厨房へ入り、慣れた手つきで道具を並べ始めました。その動きは驚くほど無駄がなく、まるで長年この厨房に立ってきた職人のようでした。

立ちのぼる甘い香りに、私は思わず息をのみました。その立ち姿も、手さばきも、まるで父が厨房に立っているようだったのです。

明かされた父とのつながり

完成したケーキを口にした瞬間、思わず胸が熱くなりました。それは、父が若いころに看板商品として出していた「幻のケーキ」そのものだったのです。

このケーキは、父がパリで修業していた時代に考案した特別なレシピで、開店当初は店の名物として人気を集めていました。しかし、当時は日本で安定して手に入らなかった輸入素材を使っていたため、継続して販売することが難しかったのです。

今では流通も整い、素材そのものは入手できるようになっていましたが、父自身も忙しさの中で再び作ることはなくなり、お客さまの間では「幻の味」として語られていました。

男性は穏やかに笑って言いました。

「私は、先代オーナーが若いころにパリで修業していた時代の仲間なんです」

そう。その男性は、父と共にレシピを考え、切磋琢磨してきた旧友でした。店の状況を父から聞き、力になりたいと思って身分を明かさず応募してくださったそうです。

さらに彼はA木さんに向かって「先代はいつも、お客さまの笑顔のために作るんだと言っていましたよ」と静かに続けました。その言葉に、A木さんの表情がはっきりと変わりました。

再び動き出した店

A木さんは深く頭を下げました。

「自分の存在ばかりを意識して、お客さまのことを忘れていました」

店を守りたいという気持ちが、いつの間にか独りよがりなものになっていたことに気付いたのです。その後A木さんはスタッフ全員に謝罪し、父の旧友にも改めて教えを請うことになりました。

離れていた職人たちも少しずつ戻ってきてくれ、店には再び活気が戻り始めています。療養中の父もその報告を聞いて、とても喜んでくれました。

父が守ってきた味と、お客さまの笑顔をこれからも大切にしながら、私もオーナーとして店を支えていきたいと思っています。

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長年愛されてきた店を引き継ぐことは、味だけでなく、人との関係や空気感まで受け継ぐ難しさがあるものです。味を守るのは技術だけではなく、お客さまに喜んでもらいたいという気持ち――。そんなお店づくりの原点を改めて感じさせられる体験談でした。

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。

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著者:ライター ベビーカレンダー編集部/ママトピ取材班

ベビーカレンダー/ウーマンカレンダー編集室

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