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高橋一生が語る、子どもの頃の忘れられない感覚「大人になって思い返すと、そこには不思議な美しさがあった」

  • 2026.4.9

高橋一生さんが主演を務める映画『脛擦りの森』が2026年4月10日(金)より上映される。「岸辺露伴は動かない」シリーズの渡辺一貴監督との再タッグとなる本作は、日本の妖怪「すねこすり」をモチーフにした幻想的な物語で、高橋さんは謎の男を演じる。子どもの頃から「すねこすり」が気になっていたという高橋さんが、作品への思いや監督との関係、そして日本の昔ばなしに宿る“余白”について語ってくれた。

撮影=TOYO
撮影=TOYO

子どもの頃から惹かれていた「すねこすり」という存在

――高橋さんは以前から「すねこすり」がお好きだったそうですが、どんなきっかけで知ったのでしょうか?

【高橋一生】子どもの頃に水木しげるさんの作品で見たのが最初でした。いろんな妖怪がいますけれど、その中でも得体の知れない感じが一番強かったのがすねこすりです。

道行く旅人の足にまとわりついて転ばせる存在って、どういう存在意義があるんだろうと思ったんですよ。そこがおもしろくて、ずっと気になっていた妖怪ですね。

――存在意義があいまいな妖怪に興味をもたれていたとのことですが、今回『脛擦りの森』を撮影して、すねこすりへの印象は変わりましたか?

【高橋一生】今回の作品は、すねこすりという妖怪について“こういう解釈もできるよね”という形で描いています。もしかしたら本当にこういう出来事があって、それが怪異として語り継がれていったのかもしれないと思えるような物語なんです。

怖い話というものは、伝わるうちに尾ひれがついてだんだん形が変わっていくじゃないですか。でも、その始まりには案外こういう小さな出来事があったんじゃないのか、という想像を刺激してくれるような、静かな物語だと思います。

撮影=TOYO
撮影=TOYO

――今回演じた「謎の男」は多くを語らない役柄ですが、どのように人物像を作っていったのでしょうか。

【高橋一生】たとえば、なぜこの人がこのような服装をしているのかとか、僕らの中ではある程度設定を決めているんですけれど、あえて説明しすぎない形にしているんです。

森の中で、ある歴史が連綿と続いている。そういう背景が、観た人の想像の中で広がっていけばいいなと思っています。だから今回は特に、“何を伝えるか”“何を伝えないか”のバランスを、ほとんど監督に委ねていました。

(C)『脛擦りの森』プロジェクト
(C)『脛擦りの森』プロジェクト

――役作りについてはどんなアプローチをしましたか?

【高橋一生】もともと僕は、あまり役作りをするタイプじゃないんです。現場で生まれるものを受け取って、その場で反応するというか。

人物デザイン監修と衣装デザインを担当されている、柘植伊佐夫さんがつくっていくイメージの存在が大きかったですし、監督の世界観がしっかりしているので、不安になる要素がほとんどなかったんです。だからこの作品を“こう伝えたい”という意図も、実はあまり持たずに撮影に臨んでいました。

撮影=TOYO
撮影=TOYO

恐怖と同時にどこか美しい感覚を味わってほしい

――台本を最初に読んだときの印象はいかがでしたか?

【高橋一生】小さい頃から「日本昔ばなし」が大好きだったんです。あの作品って、すごく余白があるんですよ。特に印象に残っているのが「吉作落とし」という話で、山菜を取りに崖を登った主人公が降りられなくなってしまうんです。

助けを呼び続けて、最後には飛び降りてしまうという話なんですけど、落ちる直前の風景や想像がすごく美しくて。子どもの頃に15分間それを見せられたときの感覚が忘れられないんです。隣にいた祖母に「おばあちゃん!」って叫んでしまったことも覚えています(笑)。

ただ怖いだけではなく、恐怖の中に美しい風景がある。子どもの頃はただ怖かったんですが、大人になって思い返すと、そこには不思議な美しさがあったんだなと感じるんです。想像の余白があって説明くさくなく、それでいて、とんでもないインパクトを秘めている。『脛擦りの森』も、そういう感覚を持った物語なんじゃないかなと思いました。

――完成した作品を見て、どんな印象を持ちましたか?

【高橋一生】“現代の日本昔ばなし”だなと思いました。日本って、山の中を歩いていたら誰もいないのにご飯だけ炊けている、みたいな話が昔からありますよね。八百万の神という考え方があるように、自然のあらゆるものに神が宿るという感覚がある。その感覚から生まれる物語って、何百年経ってもあまり変わらないんだと思うんです。

恐怖と隣り合わせの美しさ、というものがこの作品にもあると思います。僕が子どもの頃に「吉作落とし」を見て感じたような、恐怖と同時にどこか美しい感覚。観た方がそういう気持ちになってくれたらうれしいです。

(C)『脛擦りの森』プロジェクト
(C)『脛擦りの森』プロジェクト

――今回の役では老人の姿も印象的でした。年齢の表現について意識したことは?

【高橋一生】45歳の今の自分は、若さと老いのちょうど中間にいる時期だと思うんです。だから老いが始まりつつあるタイミングで、思い切り老いた人物を演じるというのは、自分にとって実験のような感覚でもありました。

仕事柄、何歳になっても元気に働く先輩方を見ていると、人間の体って、意外とメンテナンス次第で動くんだなと思っているんです。昔のバイクみたいなもので、油を差せば動く(笑)。だから、100歳を超えているであろう人を演じるとき、本当に動けなくなるのか。そんな想像から始めていきました。

――高橋さんとは思えない特殊メイクも話題になっていますが、演じていていかがでしたか?

【高橋一生】とても楽しかったです。最初は顔が動かなくなるんじゃないかと心配していたんですが、全然そんなことはなくて。表情筋のポイントを考えて作られているので、自然に動くんですよ。首や腕までしっかり作り込まれているんですが、ほとんど負担がないんです。

最近はCGで作ってしまうことも多いと思うんですが、アナログの特殊メイクで(寒さで)白い息を吐く老人がそこにいる、という説得力はやっぱり大きかったと思います。ちなみに、初めて鏡を見たときは、「僕のおじいちゃんに似てるなぁ」って心底思いました(笑)。

撮影=TOYO
撮影=TOYO

「ちょっと恥ずかしい」高橋一生が考える“伝承”

――渡辺監督とは「岸辺露伴は動かない」シリーズやNHK大河ドラマ 『おんな城主 直虎』など長い付き合いかと思います。今回の撮影中に、監督とのやりとりで印象に残っていることはありますか?

一貴監督とは、もう10年の付き合いなんです。この仕事で、10年間も一緒に仕事をするという方はなかなかいません。だから、あうんの呼吸というか、多くを語っていないんです。

僕自身、もともと「これはこういうことでいいですか?」とスタッフの方に確認することはしないんです。芝居で提示するのが俳優だと思っているので、基本的には説明で補完しなければならないようなものは、僕も一貴監督も好きではないと思いますし、互いに苦手なことのような気がするんです。

だから、すり合わせはあまりしなくてもいいですし、撮影中に予想外なことが起きても互いを知っているからこそ許容できる関係なんです。

でもよく考えたら、10年前の「直虎」の撮影のときから、「こうしてください」と言われることはなかったと思います。お芝居を一度やってみましょうというなかで、たまに角度を変えるくらい。すぐれた演出家の方は、作っていく道順をしっかりと整理していて、俳優に委ねてくださることが多いなと感じています。

撮影=TOYO
撮影=TOYO

――岡山でのロケの思い出を教えてください。

【高橋一生】撮影した高梁市の雰囲気がとてもよくて、とても好きになりました。自然が豊かで静かなんですけれど、生活に困るほど不便でもない。駅前には書店もコンビニもあるし、最高だな、ここ住みたいなって思いましたね。

山や洞窟が点在していて、不思議な神話が生まれてもおかしくない雰囲気があるんですよ。あの土地だからこそ、この映画らしい雰囲気が出たのだと思います。もともと自然が好きなので、とてもすてきな場所だなと思いました。

――最後に、すねこすりのように“伝承していきたいもの”はありますか?

【高橋一生】おそらく、伝承とは残そうと思って残るものではないと思うんです。職人の方の技術のように守らなければいけないものもありますけれど、僕のやっていることはそこまで大それたものじゃないですから。だから伝承してほしいという気持ちは特にないですね。

もし誰かが勝手に語り継いでくれるなら、それはそれでいいのかもしれませんが、自分から残そうとするのはちょっと恥ずかしい。もし自分が幽霊になって、自分のことが美化されて語り継がれているのを見たら、苦しい気持ちになると思うんです。だから、むしろ伝承しないでもらいたいなって。伝承しないでください(笑)。

撮影=TOYO
撮影=TOYO

撮影=TOYO

取材・文=イワイユウ

スタイリング=秋山貴紀(A inc.)

ヘアメイク=田中真維(MARVEE)

(C)『脛擦りの森』プロジェクト

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