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ある「3分動画」を視聴するだけで人種差別の傾向が軽減する

  • 2026.4.3
ある3分動画が人種差別を軽減する。ヒントはこの画像。 / Credit:Canva

人種差別は依然としてなくなっていません。

時代が進んでも、人は自分と異なる集団に対して無意識の距離を置いたり、判断に偏りを持ったりすることがあります。

そんな中、アメリカのクレアモント大学院大学(CGU)の研究チームは、ある短い動画を見るだけで、黒人に対する偏見や行動の傾向がやわらぐ可能性を調べました。

その動画は、心拍の変動から推定した“没入度”が最も高いものとして選ばれており、少なくとも2週間は効果の継続が確認されました。

この研究は2026年2月19日付で学術誌『PLOS ONE』に掲載されています。

目次

  • 「3分の動画」が偏見を無くす
  • 黒人宇宙飛行士の「生涯」を追体験すると、黒人をより身近な存在に感じる

「3分の動画」が偏見を無くす

人には、自分と同じ集団を好み、外の集団を警戒しやすい傾向があります。

こうした傾向は、現代社会では差別や分断、不公平な判断の原因になります。

偏見を減らす方法としては、異なる集団どうしが実際に交流する方法が有効だとされてきました。

ですが、それを大勢の人に広げるのは簡単ではありません。

時間も費用もかかるからです。

そこで研究チームが注目したのが、誰でも見られる短い動画でした。

インターネット上の動画なら広く届けやすく、もし本当に効果があるなら、偏見をやわらげる手段として大きな可能性があります。

まず研究チームは62人に、人種差別の悪影響を扱った5本の短い動画を見せました。

このとき前腕にセンサーを装着し、心拍の変動から、どの動画に最も強く引き込まれたかを示す「Immersion(没入度)」を推定。

平均的な反応だけでは差が出ませんでしたが、感情が大きく動いた場面の強さを示す「ピークの没入度」で最も高かった動画が選ばれました。

選ばれたのは、黒人宇宙飛行士ロナルド・マクネイア氏の人生を描いたアニメーション『Eyes on the Stars』です。

子どもの頃に人種差別を受けながらも学び続け、のちにマサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得し、NASAの宇宙飛行士になった人物です。

動画は兄カール・マクネイアの語りで進みます。

以下からその動画を確認できます。

そして次の実験では、アメリカ成人の代表サンプル1097人を対象に、この動画の効果を調べました。

参加者は、『Eyes on the Stars』の動画を見るグループと、自然風景と音楽の中立的な動画を見るグループに分けられます。

その後、黒人に対する態度を測る質問票と、お金の分け方を選ぶゲームに答えてもらいました。

結果、動画を見たグループでは、黒人に対する態度バイアスが平均11%改善し、黒人名の相手に対する寛大さは104%増加しました。

3分の動画を見ただけで、これほど大きく変化するのはなぜでしょうか。より詳細な結果をみてみましょう。

黒人宇宙飛行士の「生涯」を追体験すると、黒人をより身近な存在に感じる

この研究の面白いところは、「考え方」だけでなく「行動」も調べている点です。

まず質問票では、動画を見た人たちは黒人に対するポジティブな評価が上がり、ネガティブな評価が下がっていました。

つまり、見終えたあとには相手を見る目そのものが少しやわらいでいたのです。

さらに研究チームは、その変化が言葉の上だけではないかを確かめるため、「最後通牒ゲーム」という課題を使いました。

これは10ドルをどう分けるかを決めるゲームで、一方が分け方を提案し、もう片方は提示された分け方を受け入れることも拒否する(全額没収)こともできます。

参加者は、白人に多い名前の相手と、黒人に多い名前の相手を想定して判断しました。

研究チームは、この違いによって相手への協力行動がどう変わるかを見たのです。

結果は興味深いものでした。

動画を見た人たちは、黒人名の相手に対する平均的な寛大さを、対照群の0.49ドルから1.00ドルへと高めていました。これは104%増にあたります。

しかも、この変化は白人名の相手には見られませんでした。

つまり、誰にでも一律に優しくなったというより、黒人に対する態度や協力の傾向が変わったと考えられます。

また、もともとバイアスが高かった男性、18〜43歳の若年層、共和党支持者では、態度面の改善がより大きく見られ、金銭的な寛大さは300%以上の増加が見られました。

研究チームは、こうした効果の背景にポジティブ感情の増加があることも示しています。

また、動画を見た人ほど前向きな感情が高まり、その感情の変化が、黒人に対する見方の改善や協力的な行動の増加につながっていました。

単に「差別はよくない」と説明されたから態度が変わったのではありません。

ロナルド・マクネイア氏の人生を通して、視聴者が「不公平さ」や「努力と達成」に感情を揺さぶられ、彼の人生に引き込まれたことが大きかったと考えられます。

つまりこの研究が示したのは、人は抽象的な正論だけで変わるとは限らず、誰かの人生を具体的な物語として追体験したときのほうが、相手をより身近な存在として受け止めやすくなる、ということです。

その結果、「外集団の一員」という冷たい見方が少しやわらぎ、態度だけでなく、お金の分け方のような行動にも変化が表れた可能性があります。

しかも効果はその場限りではありませんでした。

実験群の一部を2週間後に追跡したところ、偏見の低下と行動の変化はなお残っていました。

たった3分ほどの動画でも、心を強く動かす物語には、人の見方を少し変える力があるのかもしれません。

参考文献

Scientists use brain measurements to identify a video that significantly lowers racial bias
https://www.psypost.org/scientists-use-brain-measurements-to-identify-a-video-that-significantly-lowers-racial-bias/

元論文

A video intervention reduces racial bias in a representative sample of US adults: A brain as predictor study
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0339057

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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