1. トップ
  2. エンタメ
  3. 『私がビーバーになる時』が大傑作である5つの理由。ジブリへのリスペクトや事前に知ってほしいことは

『私がビーバーになる時』が大傑作である5つの理由。ジブリへのリスペクトや事前に知ってほしいことは

  • 2026.3.24

ピクサー最新作『私がビーバーになる時』が大傑作である5つの理由を解説しましょう! 予告編では分からない作品の特徴のほか、スタジオジブリ作品のリスペクトもぜひ知ってほしいのです。(画像出典:(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.)

ピクサー最新作『私がビーバーになる時』が大傑作である5つの理由を解説しましょう! 予告編では分からない作品の特徴のほか、スタジオジブリ作品のリスペクトもぜひ知ってほしいのです。(画像出典:(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.)
『私がビーバーになる時』 3月13日(金)全国劇場公開 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン (C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

3月13日より公開中の『私がビーバーになる時』が大評判を呼んでいます。アメリカの批評サービスのRotten Tomatoesでは現在93%の支持率を得ており、日本でもFilmarksで5点満点中4.0点とハイスコアです。

さらに北米映画ランキングでは2週連続1位、日本でも『リメンバー・ミー』以降に公開されたオリジナル作品としてディズニー&ピクサー作品史上No.1の成績になるなど、大ヒットしています。

それもそのはず、ディズニー公式のニュースページでの「ピクサー映画史上最も“ピュア”で“クレイジー”な大傑作誕生!」という触れ込みに大納得できる、子どもが楽しめて、大人こそが深いテーマにうなる、大笑いしてホロリと涙する作品だったのですから! 現時点で筆者の2026年のNo.1映画は本作です!

ここでは、ネタバレなしで知ってほしいことから、中盤の展開に触れつつ「今の現実の世界」の話になっていること、さらにはスタジオジブリ作品からの影響などを、たっぷりと解説していきましょう。

前置き:実は怖いシーンも? 事前に知っておきたいことは

パッと見のルックや予告編は「ビーバーに変身して森の動物たちと仲良くなって大冒険!」というゆるふわな雰囲気かと思われるかもしれませんし、実際にモフモフの動物たちに癒されるのですが……。

実は、中盤からはそれなりに怖いシーンがあり、そこからは「パニックホラー」的な要素もあります。特に悪役の表情や挙動は「ガチ」で、あまりに小さいお子さんだと、ちょっと怖すぎるのかもしれないため、「悪い人が怖い顔をするみたいだけど大丈夫?」などと事前に聞いておいたほうがいいかもしれません。

さらには、クレイジーを超えてアナーキーな展開も用意されていて、「こんな映画だとは思わなかった」と思う人も多いことでしょう。好みが分かれるでしょうが、だからこその予定調和にならない面白さがありますし、そこには子どもに見てほしいと心から思える、教育的な価値も間違いなくあります。

また、あっと驚くサプライズがあり、その光景を見た瞬間に爆笑してしまったので、ネタバレを踏む前に早く見にいくことをおすすめします。個人的には、このサプライズこそが本作でもっともクレイジーであり、「A級映画を作り続けるピクサーがこんなことを全力でやってしまうの?」という「蛮勇」こそが、本作を大傑作だと断言できる最大の理由だったりします。

そして、エンドロール後のおまけがとても重要だったので、最後まで席に座っておくことを強くおすすめしておきます。上映時間は104分とコンパクトにまとまっていますが、お子さんの事前のトイレはしっかり促しておきましょう。

※以下からは決定的な要素は避けつつも、中盤の展開には触れています。ご注意ください。

1:まさかのポリティカルサスペンス! 主人公の危うさがはっきりと示されている

本作のジャンルはまさかのパニックホラーのほかにも、「ポリティカルサスペンス」があると明言しておきます。お互いの政治的な思想のために反目し合い、そのために取り返しのつかない悲劇が起こるという、今の現実の世界にある問題が、キャラクターそれぞれの描写からはっきりと照射されているのです。

(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

例えば、主人公である19歳の大学生のメイベルは、おばあちゃんと過ごした大切な森が高速道路建設計画のせいで破壊されてしまうため、動物ロボットへと意識を転送する極秘テクノロジーを利用として阻止しようとするのですが……彼女のその猪突猛進がゆえの危うさが、序盤からはっきり描かれているのです。

例えば、冒頭でメイベルが幼少期に学校の動物たちを逃がそうとする場面では、スプリンクラーが作動する事態となり、(カメはその水に喜んではいるものの)壁にかけられていた「たくさんの笑顔の絵」が水で溶けてしまう、という事態にもなっています。彼女の「善意」による行動には、客観的には「エコテロリズム」に発展しかねない問題があり、それは終盤のとある展開の伏線にもなっています。

それでいて、彼女はたった1人で森を守ろうとしていますし、おばあちゃんと森の動物たちへの愛情は本物。行動力と努力そのものは間違いなく彼女の美点です。しかし、「正義心」が強いがゆえに、大切なものが脅かされることへの「怒り」が、誰かへの「攻撃」へと変わってしまうとしたら……それは、現実で何かの活動をしている方もまた、気をつけなければならないことだと気付けるでしょう。

余談ですが、メイベルが骨折してギプスをつけていた理由は劇中で語られておらず、ジェリー市長が「腕の具合はどう?」と聞いたくらいでした。このギプスには「寄せ書き」がなく、彼女に親しい友人がいないことを示していたのでしょう。そのギプスにどのような意味があるのかにも、ぜひ注目してください。

2:悪人も別の視点から見ると良い人? 理想主義者の問題も描かれている

ジェリー市長はメイベルの意に反して高速道路を建設する悪役に見えますし、中盤には動物たちを追い出すためのひどい策略もしています。一方で、彼は市民から強い支持を得ており、同居している母親のために朝ごはんをさっそうと作るといった、「別の視点から見ると良い人に思える」バランスになっているのです。

(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

また、ビーバーのキング・ジョージは、森のみんなのためにルールを設定する、優しく思いやりのある為政者に見えますし、客観的には悪い行いについても「理由があるのかも」と言う善性に満ちているようですが……。実際は、動物たちが住処を追いやられた先の統治場所で「小ネズミたちを小さな住まいに押し込める」など問題のある行動もしていますし、この場所が「持続可能ではない」とも評されています。彼ははっきりと「矛盾だらけの理想主義者」なのです。

(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

メイベル、ジェリー市長、キング・ジョージという三者の言動や思惑は極端ではありますが、現実のあらゆる問題の対立の構図を思えば、決して絵空事ではありません。

後半では、評議会で集まった動物たちが過激な言動の上に暴走し、なんとピクサー作品ながら「死」も描かれ(それをギャグとして描いているのも強烈!)、ついには「為政者(市長)への殺害計画」へと発展していくのです。また、評議会の動物たちの吹き替え版の声優が豪華で、特に大谷育江の役柄がやばい!

それらがメイベルの正義心が引き金であることに身につまされますし、その後にも彼女はとある大きな過ちを犯してしまいます。そこからの大きな反省と行動、その先に待ち受けていた結末には、涙を禁じ得なかったのです。

余談ですが、主人公が陰謀を知り、大切なものを守るために権力に立ち向かう構図は、ディズニー映画の『ウィッシュ』を連想します。そちらは「国のために努力してきた王様を断罪しようとする」「その策略を知った主人公の猪突猛進さを肯定する」バランスから、賛否両論を呼んでいました。『ウィッシュ』の内容にモヤモヤしたという人は、主人公の問題をよりはっきりと描く『私がビーバーになる時』のほうが納得しやすいのかもしれません。

3:『平成狸合戦ぽんぽこ』『魔女の宅急便』からの強い影響も

本作の「自然を脅かす人間と動物たちの対立」という構図から、高畑勲監督の『平成狸合戦ぽんぽこ』を思い出す人が多いでしょう。

実際にダニエル・チョン監督は、そちらから強い影響を受けたことを明言しています。特に「人間が自然に与える影響」「自然がどう対処し適応していくか」というテーマは、本作の大きなアイデアを形づくるうえで非常に重要な参照点になっていたのだとか。

さらに、『平成狸合戦ぽんぽこ』からの影響は、動物たちそれぞれの「擬人化」の表現にもあったようです。『私がビーバーになる時』の劇中では、普段の動物たちは「点のような目」をしたリアルな姿ですが、主人公が動物ロボットへと意識を移すと、動物たちそれぞれが「大きい目をしていて表情も豊か」へ変わったりするのですから。

さらに、ダニエル監督は自身の娘が『魔女の宅急便』が大好きなこともあって、無意識のうちに共鳴している部分があることを語りつつ、そちらの主人公のキキが居場所を見つけようともがく姿が『私がビーバーになる時』の主人公・メイベルそのものだとも考えていたようです。

そうしたスタジオジブリ作品のみならず、「日本」へのリスペクトもあったりします。何しろ、主人公であるメイベル・タナカは、苗字から分かる通り、日本人の血を引いているのです。

実際に、ダニエル監督は日系アメリカ人が多く住む郊外で育っており、その経験がメイベルのおばあちゃんが「なまりのない英語」を話すことにも反映されていたのだとか。劇中の食事も「当たり前に日本的」であったりするので、そのことにもぜひ注目してほしいです。

4:現実の自然にあった出来事も参照していた

本作はもちろんフィクションですが、実は1920年代にアメリカのイエローストーン国立公園で起こった出来事を参照しています。

ダニエル・チョン監督によると、その地域では人間の手によってオオカミが駆除されたため、天敵を失った鹿の一種であるエルクが急増し、そのエルクが植物の新芽を食べ尽くしたことで森の再生が止まり、鳥の生息地が消失するという、生態系のバランスが長年に渡り大きく崩れる事態になってしまったそうです。

(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

そこで、生態系を元に戻すために公園にオオカミを連れ戻すと、やがてオオカミがエルクの数を抑制するようになり、草が生い茂るようになったのだとか。

その生態系の回復に貢献したのが、川をせき止めてダムを築くことで、自らの生息環境を作り出す「自然界の土木技師」として知られるビーバーだったといいます。

ビーバーの作ったダムのおかげで水の流れが緩やかになり、池や湿地が形成されると、魚や両生類、昆虫、植物など多様な生物が集まり、生物の多様性が大きく向上したのだそうです。

(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
(C)2026 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

『私がビーバーになる時』の劇中のダムもまた、生物の多様性と、さらに大きな希望を示すという重要な役割がありました。それ自体は荒唐無稽なものではありますが、本作で最大の感動シーンにもなっていますし、発想の根底には間違いなく「現実の自然」があるのです。

5:「耳を傾ける」ことの重要性を説いている

『私がビーバーになる時』は、主人公メイベルの「森を守りたい」という純粋な願いが、やがて「市長の殺害計画」にまで発展し、その後にも「取り返しのつかない悲劇」が描かれます。そこからの「再生」と、そして「耳を傾けること」の大切さを説いていることに、大きな感動がありました。

メイベルはおばあちゃんから、森の音や動物たちの鳴き声を聞くこと、そして自分が「大きなものの一部」であることを説いていました。しかし、分断と対立がエスカレートし、さらには怒りの感情のために、そうした声を聞くことができず、間違った行動をしてしまうことは、誰の身にも起こり得るでしょう。

その大きな反省と学びを経て、さらに「コミュニケーション」と「テクノロジー」の両方を意外な形で肯定するラストでは、心の中で拍手をして、落涙するしかありませんでした。

誰かの声を聞こうとすることで、悲劇は防げるかもしれないし、過ちを経てやり直せるかもしれない、と希望を持つこともできるでしょう。クレイジーでアナーキーでぶっ飛んでいたけど、本当に素晴らしい物語でした!

参考記事:
ピクサー最新作に“ジブリのDNA”――監督&プロデューサーが告白 『トトロ』『ぽんぽこ』『魔女の宅急便』が創作の源に | オリコンニュース(ORICON NEWS)
『私がビーバーになる時』ピクサー初の日系人ヒロインはこうして生まれた|シネマトゥデイ

この記事の執筆者: ヒナタカ
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

元記事で読む
の記事をもっとみる