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「数百万円の差に」お金のプロが警告。年金の「繰り上げ受給」を選んだ人の“末路”…受取額が減る「痛恨のミス」とは?

  • 2026.2.6
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「年金はいつ死ぬかわからないから、早めにもらっておいた方が得」――そんな風に考えてはいませんか? 60歳から受給できる「繰上げ受給」は、今すぐ手元にお金が入る一方で、一度手続きをすると一生減額されたままという厳しいルールがあります。人生100年時代、平均寿命が延び続ける現代において、その選択は本当に賢明と言えるのでしょうか。 本記事では、社労士・FP1級の資格を持つ専門家、柴田充輝さんにインタビュー。長生きすればするほど拡大する受給額の差や、病気になった際の「障害年金」が受け取れなくなる恐ろしいリスク、さらには実際に繰上げを選択して後悔している方の事例まで詳しく伺いました。「得をする」つもりが「老後破産」を招かないための、正しい年金知識を身につけましょう。

損益分岐点は81歳。長生きするほど拡大する「数百万円」の損失

---繰上げ受給を選択した場合、減額率は一生変わりませんが、平均寿命が延びている現代において「何歳を超えると、総受給額で何百万円の損が出るのか」という具体的なシミュレーションを教えてください。

柴田 充輝さん:

「65歳時の年金額が150万円の方が60歳から繰上げ受給すると、5年(60か月)繰上げることになり、減額率は24%となります。つまり年間114万円(月額9.5万円)の受給となり、年間36万円の差が生涯続きます。

損益分岐点は約81歳です。この年齢を超えて長生きすると、繰上げ受給の方が総額で損をすることになります。

具体的には、90歳まで生きた場合、約330万円の損失となります。60歳から30年間で受け取る総額は3,420万円ですが、65歳から25年間受け取れば3,750万円になるからです。さらに100歳まで生きた場合、損失は約690万円にまで拡大します。

現在、女性の平均寿命は87.歳、男性は81.09歳です。つまり平均的に生きるだけで、多くの方が損失を被ることになります。女性の約半数が90歳まで、4人に1人が95歳まで生きる時代です。平均寿命の延びを考えると、多くの方にとって繰上げ受給は経済的に不利になる可能性が高いといえます。

さらに深刻なのは物価上昇の影響です。年3万円の差でも、30年後には物価が1.5倍になっていれば、実質的な価値の差はさらに拡大します。2022年以降、実際に食料品や光熱費は大きく上昇しており、少ない年金額での生活は想像以上に厳しいものとなります。

毎月3万円の差は一見小さく見えますが、20年、30年と積み重なると数百万円単位の大きな差になることを理解しておきましょう。」

自分だけでなく家族も危ない?繰上げ受給が奪う「セーフティネット」

---年金の受け取りを早めることで、将来自分に万が一のことがあった際の「遺族年金」や、病気になった際の「障害年金」の受給権・受給額にどのような制限やリスクが生じるのでしょうか?

柴田 充輝さん:

「繰上げ受給を選択すると、障害基礎年金の受給権に制限が生じます。繰上げ受給後から65歳になるまでの間に病気や事故で障害状態になっても、障害基礎年金を請求することができません(繰上げ前に初診日と障害認定日がある場合は除く)。

繰上げ受給を請求した日以後は、原則として事後重症による障害基礎年金(障害厚生年金も含む)を請求できなくなるため注意が必要です。たとえば62歳で繰上げ請求後、63歳で新たに初診日のある病気や事故で2級相当の障害が残っても、障害年金を請求できない可能性があります。

しかも、障害状態にあるということは医療費や介護費用がかさむのが一般的です。経済的支援が必要な時に、本来受け取れるはずの障害年金が受け取れないという、深刻な事態に陥るのです。

遺族年金に関しては、繰上げ受給の「減額」が与える影響は障害年金ほど深刻ではありません。遺族厚生年金は原則、亡くなった人の年金記録(報酬比例)をもとに算定され、本人が繰上げで受け取っていた「減額後の受給額」が直結するとは限らないためです。

一方で、繰上げ受給後に障害年金を請求できなくなり、障害状態で亡くなった場合に「障害年金→遺族年金」への移行ができなくなる点には注意が必要です。

他にも、国民年金の第1号被保険者(自営業者など)の妻が受け取れる寡婦年金は、繰上げ受給をした時点で受給権が消滅します。夫が亡くなったとき、妻が繰上げ支給の老齢基礎年金を受けているときは支給されません。一方で、亡くなった夫が老齢基礎年金・障害基礎年金を受けたことがあるとき、寡婦年金は支給されません。

つまり、繰上げ受給は自分の年金が減額されるだけでなく、病気になった時や亡くなった後に家族を守るセーフティネットまで弱めてしまう選択なのです。「自分さえよければ」という短期的視点ではなく、家族全体のリスク管理として慎重に考える必要があります。」

一度決めたら「取り消し・変更」は不可。後悔する受給者のリアル

---一度でも受給を開始(請求書の提出)してしまうと、その後どれほど生活が困窮したり、インフレで物価が上がったりしても「取り消しや変更」が一切認められないという制度の厳格さについて、実際に後悔している方の事例はありますか?

柴田 充輝さん:

「Aさん(78歳・男性)は、60歳で早期退職した際、「いつ死ぬかわからないから早くもらっておこう」と考え、繰上げ受給を選択しました。当時の想定では「75歳くらいまで生きられれば」と考えていたそうです。

ところが予想に反して健康に恵まれ、気づけば78歳に。妻(75歳)との2人暮らしで、月額の年金は2人合わせて17万円程度。もし65歳から受給していれば22万円ほどになっていた計算です。月5万円、年間60万円の差は想像以上に大きく、医療費や介護費用の増加、物価上昇も重なり、生活は年々厳しくなっています。

特に近年のインフレで食料品や光熱費が上がり、趣味だった旅行はおろか、外食もほとんどできない状況です。しかし、一度受給を開始すると、どんな理由があっても取り消しや変更は一切認められません。このように、安易に繰上げ受給を選択すると、想定以上に長生きしたとき、生活が困窮してしまうリスクがあります。

この事例からもわかるように、公的年金の本質は「貯金」ではなく「長生きリスクに備える保険」だということです。保険は「損得」で判断するものではありません。予想以上に長生きしたときに生活を支えてくれる、まさに「長生き保険」なのです。

繰上げ受給は、この保険を大幅に減額してしまう選択です。確かに早く受け取れますが、人生100年時代において、80歳、90歳になっても少ない年金で暮らし続けなければならないリスクを一生背負うことになります。

本当に困窮していて今すぐお金が必要な場合を除き、できるだけ繰上げ受給は避け、場合によっては繰下げ受給(最大75歳まで可能で最大84%増額)も検討すべきでしょう。」

年金は『損得』ではなく『リスク管理』。100歳までを支える視点を持とう

年金の繰上げ受給は、一見すると早くお金が手に入る魅力的な選択肢に見えるかもしれません。しかし柴田さんが警鐘を鳴らすように、それは「長生き」という最大のリスクに対する備えを、自ら手放してしまう行為でもあります。一度申請すれば、将来どれほど物価が上がり、生活が苦しくなっても、後戻りは一切できません。

公的年金の本質は、予想を超えて長生きしたときに、最後まで自分を支えてくれる「保険」です。今この瞬間の「損得」に惑わされるのではなく、30年後、40年後の自分がどのような暮らしをしていたいかを想像してみてください。特別な事情がない限り、安易な繰上げは避け、むしろ「増額」を狙う繰下げ受給も視野に入れながら、慎重に決断を下すことが老後の安心に繋がります。


監修者:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。


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