1. トップ
  2. 『選挙ポスター』に落書きした人の“末路”…→ただの器物損壊では済まなかった。課せられる「重い代償」とは?【弁護士が解説】

『選挙ポスター』に落書きした人の“末路”…→ただの器物損壊では済まなかった。課せられる「重い代償」とは?【弁護士が解説】

  • 2026.2.6
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

街中で見かける選挙ポスター。軽いいたずらや政治への不満から「落書き」をしようと考えたことはありませんか?

しかし、その代償は単なる器物損壊では済みません。選挙ポスターへの妨害行為は、公職選挙法上の「選挙の自由妨害罪」に問われ、私たちの社会生活における権利を根底から揺るがす可能性があります。

本記事では、ベリーベスト法律事務所の齊田貴士 弁護士に、落書き行為がもたらす「公民権停止」の実態や、就職・資格への制限、さらには候補者から請求される高額な損害賠償のリスクについて詳しく伺いました。「たかがポスター」という安易な認識が、なぜ5年もの間、投票すらできない「デジタルタトゥー」として刻まれてしまうのか。知っておくべき法律の現実をお伝えします。

ただのいたずらでは済まない。5年間の「公民権停止」という罰

---選挙ポスターへの落書きは、刑法の「器物損壊罪」ではなく、公職選挙法の「選挙の自由妨害罪」が適用されることが多いですが、この違いがその後の人生にどう響くのでしょうか?

齊田 貴士さん:

「選挙権、被選挙権への影響、すなわち、公民権の停止(公職選挙法11条、252条)が挙げられます。

公民権停止は、選挙犯罪や政治資金規正法違反の罪を犯した者に対し、法律上の効果として選挙権および被選挙権を一定期間停止する制度です。
例えば、同じ罰金という刑罰でも、器物損壊罪の場合には公民権は停止されません。
しかし、公職選挙法の選挙の自由妨害罪の場合、裁判が確定した日から5年間、選挙における投票や立候補が認められません。

なお、選挙の自由妨害罪を含め、公職選挙法違反で罰金の刑に処せられた者は、裁判が確定した日から5年間、選挙における投票や立候補が認められません。
懲役や禁錮の刑を受けると、刑期を終えた日または執行猶予の期間が満了した日から5年間は、投票や立候補ができなくなります。」

キャリアへの致命傷。公民権停止で就けなくなる「職業と資格」

---選挙権・被選挙権を失うだけでなく、公民権が停止されることで、具体的にどのような職業や資格、社会的地位に制限がかかるのでしょうか?

齊田 貴士さん:

「地方公共団体の長(知事・市町村長)、議員(国・都道府県・市区町村)に制限がかかります(公職選挙法11条、252条)。

その他、副首長(副知事、副市町村長、地方自治法162条、同168条)、監査委員(同196条1項)、選挙管理委員会委員(同181条)、固定資産評価審査委員会委員(同423条3項)、教育委員会委員(地方教育行政の組織及び運営に関する法律第4条第2項)、都道府県公安委員会委員(警察法38条2項)、投票管理者(公職選挙法第37条第1項)、開票管理者(同第69条第1項)、選挙長(同75条)になれません。」

民事賠償とデジタルタトゥー。一生つきまとう「妨害行為」の傷跡

---一度「選挙妨害」という特殊な前科がついた場合、民事での損害賠償請求(ポスターの貼り替え費用や慰謝料など)や、ネット上のデジタルタトゥーとの向き合い方はどうなるのでしょうか?

齊田 貴士さん:

「●民事での損害賠償
選挙妨害を受けた場合、候補者や政党は、不法行為に基づく損害賠償請求を行い、ポスターの貼り替え費用や慰謝料等を請求していくことになります。
なお、慰謝料の算定においては、以下の要素が考慮されます。
1 加害者の事情 具体的には、行為の悪質性、加害者の意図・認識、行為後の対応・事情
2 被害者側の事情 具体的には、被害の態様・内容・程度、人格的利益の侵害、程度
3 選挙への影響 具体的には、選挙活動への支障、立候補の断念、選挙結果への影響

なお、選挙の結果は通常予測し難いため、公職の報酬(逸失利益)が損害として認められるのは、当選の可能性が極めて高いと認められる場合に限られます。

過去の裁判例では以下のようなものがあります。
・投票日2日前に選挙カーが接触事故に遭い破損し、候補者が落選した事案。物的損害の填補だけでは償いきれない人格的利益の損害という特段の事情があったとして、50万円の慰謝料が認められました(大阪地判平成5年5月13日)。
・違法な撮影により選挙活動の自由が侵害された事案。加害者に選挙妨害の意図がなく、ビデオカメラがすぐに撤去されたことなどが考慮され、慰謝料は各10万円とされました(新潟地長岡支判平成19年2月7日)。
・都知事選の候補者が歩道の穴で転倒し負傷した事案。傷害がごく軽微で、事故後も選挙活動を継続していたことから、選挙活動が中断されたことに対する慰謝料請求は認められませんでした(東京地判昭和63年6月23日)。

●ネット上でのデジタルタトゥー
削除請求をすることが考えられますが、量が膨大ですし、選挙妨害という性質ゆえに、公共性・公益性があるとして、全てを削除できるとは限りません。
それゆえ、例えば、自分発信の正しい情報や新しい活動情報を増やしデジタルタトゥーを希釈する方法が考えられると思います。また、仕事において、会社の者の目に触れた場合に事後的にトラブルにならないよう予め伝えておく、または、ある程度理解のある職場を選ぶことなどが考えられると思います。」

『表現の自由』の履き違えが招く、取り返しのつかない未来

選挙ポスターへの落書きや破壊は、単なる物の損壊ではなく、民主主義の根幹である「選挙の自由」を侵害する重大な犯罪です。齊田弁護士が指摘するように、一度「選挙妨害」という特殊な前科がつけば、公民権が停止されるだけでなく、民事での損害賠償やネット上の誹謗中傷など、その影響は数年、あるいは一生にわたって続くことになります。

政治に対する意見があるならば、それは落書きではなく、正当な投票や言論で行うべきです。一時の感情による軽率な行動が、自分自身の投票権を奪い、社会的な地位を危うくしてしまう。そのリスクを正しく理解し、法を守ることの重要性を再認識する必要があります。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

undefined

神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。


【エピソード募集】日常のちょっとした体験、TRILLでシェアしませんか?【2分で完了・匿名OK】