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競合より「100円高い絆創膏」で大逆転…「値下げナシ・CMナシ」の条件でニチバン営業部隊が発揮した7倍返し

  • 2026.1.17

「高すぎて、売れない」。少なくとも、営業はそう思った。1997年、ニチバンが発売した救急絆創膏「ケアリーヴ」は、競合商品より100円以上も高かった。それでも27年後に業界トップが入れ替わるという驚くべきことが起きる。何がそれを可能にしたのか。発売当初から営業に携わってきた富田英樹さんは「この商品は、説明すればするほど、かえって伝わらない。ならば、体験してもらうよりほかはないと腹を決めた」という――。(後編/全2回)

売れないものを売るしかない

「こんなの、本当に売れるんですか」

1997年。ニチバンの営業会議では、そんな声さえ上がったという。発売当初、競合品より1箱当たり100円以上も高価な絆創膏「ケアリーヴ」。Mサイズ30枚入りで、希望小売価格480円。しかも「値下げはナシ」と社内号令がかかる。それは価格競争を走り続けてきた営業部員にとって、“あり得ない条件”でもあった。

当時、日本の絆創膏市場は年間約100億円規模で、その大半を数十円〜200円台の商品が占めていた。薬局の棚に並ぶ絆創膏は王者「バンドエイド」を筆頭に、どれも似たような形と色。差別化は難しく知名度が優先され、営業の現場では値引き前提の商談が当たり前だった。

「私も正直、売れる気がしませんでした」

ニチバン名古屋オフィスで、その頃営業の最前線にいた富田英樹さん(54歳/現・ニチバン執行役員)は、そう振り返る。

「ですが、断然“モノはいい”。3年かけて開発した『ケアリーヴ』は、明らかに従来の絆創膏と使い心地が違いましたから」

水に強く、はがれにくい。それでいて、はがすときは痛くない。通気性が高く、ムレにくい。関節の曲げ伸ばしにも、ぴたりとフィットする。新素材の「高密度ウレタン不織布」に、ニチバンが長年培ってきた粘着技術を掛け合わせた科学と執念の結晶だった。

だからこそ、コストはかかり、単価も上がった。

「値段が高い商品は、薬局の棚に置いてもらえない。たとえ置いてもらえても、売れない。売れなければ、次はありません」

しかも、今回は値下げ交渉禁止である。

「ですから、営業の発想を変えざるをえませんでした」

「ケアリーヴ」シリーズを長年率いるニチバンの富田英樹さん
「ケアリーヴ」シリーズを長年率いるニチバンの富田英樹さん
まず「使ってもらう」という選択

富田さんたち営業部員は考えた。この新商品は、説明すればするほど、かえって伝わらない。ならば、体験してもらうよりほかはない。そうだ、ドラッグストアや薬局の店員や薬剤師さんたちにサンプルを渡して、配ってもらおう――。

まずは、従来品の営業をしながら、商談の最後にこう切り出した。「新商品ができまして。よかったら一度、使ってみてください」。商品をじかに触ってもらい、指に貼ってもらう。

「すると、次に営業に行ったときに言われたんです。『使ってみたけど、あの絆創膏いいね』と。すかさず、追加でサンプルを渡しました」。次第に複数の店から、「アレいいですね」と反応が出始めた。

当時、絆創膏の営業は派手な販促とは無縁だった。大型什器もなければ、イベント企画もない。やることはひたすら地道な店舗訪問である。

ドラッグストアに足を運ぶ。挨拶をする。売り場の棚をチェックする。少し整える。そして挨拶し、また訪れる。そんなルーティンに、毎度「ケアリーヴ」のサンプルを渡した。その結果、店員や薬剤師との会話は、想像以上に広がったという。

「自分で使っちゃいました。あかぎれひどいんで」
「朝、顔を洗うときまで、指に貼ってたこと忘れてました」
「お客さんに差し上げて、ものすごく喜ばれましたよ」

お客さんに持ち歩いてもらおう

やがて、商品そのものが店の棚に置かれ始める。テレビCMもイベント攻勢もなかったが、“動き”が見られる店が出る。理由を店員に聞くと、サンプルをお客さんに配ったという。

「サンプルの有効性は明らかでした。社内で調べると、サンプルを配布した店は、配布していない店に比べて売上数量が1.5〜2倍程度になることがわかりました。さっそくその数値を、各店のバイヤーさんたちにも伝えました」

数字は強い。実数の手応えが、人も店も動かしていく。業界の常識を覆した“高い絆創膏”が、少しずつ棚に並び始める。さらに富田さんたちは考えた。「じかに、お客さんたちにもサンプルを配ろう」。もらって嬉しいサンプルをつくろう、と。それが、“財布に入れられる”「ケアリーヴ」だった。カードサイズの持ち歩き用である。

「つくったのは、テレホンカードサイズの試供品です。薄くて持ち歩けるので、われわれ自身が店頭に立って、『よかったらどうぞ』『お財布に入りますよ』と言いながら、お客さんに手渡しました。みなさん、受け取ってくれましたね」

富田さんが店頭で配った、「薄くて持ち歩けるクレジットカードサイズのサンプルです」
富田さんが店頭で配った、「薄くて持ち歩けるテレホンカードサイズのサンプルです」

サンプル配布が売上データの代わりになった、とも富田さん。効果はじつにわかりやすく、1~2週間後には表れたという。配布から2週間くらいでお客さんが再び来店し、購入。この実績を店の人にも伝え、「また使いたくなる絆創膏」として営業し続けたという。

新発売から3年目の勝負

効果は上がった。そもそも、モノはいいのだ。良さを知ってもらえれば、購買につながると考えていたが、予想以上だった。しかも、高めの単価が店の売り上げにも貢献し、店側も目立つ棚に置いてくれるようになった。

そして発売から3年。富田さんはさらに挑戦した。

「勝負に出ました。絆創膏売り場の棚1段全部を『ケアリーヴ』で揃えませんか、という提案を、全国のドラッグストアにしてみようと。サイズは定番のS、M、Lに加えて、指先専用のTサイズの全4サイズ。枚数別でも種類があるので品数は豊富です。思い切って提案しました」

ドラッグストアの棚は幅90センチ。棚板が横に7、8枚入り、商品が陳列される。かつてニチバンの商品は下のほうに1つか2つ、置かれていた。ところが「ケアリーヴ」が売れ始め、だんだんと陳列される商品数が増えていったのだ。

それでも棚1段をすべてもらう、なんて「かつての自分たちではあり得ないことでした」と富田さんは笑う。社内でも、さすがに無理ではないかという声も上がっていた。

「でも、手元にはサンプル効果の売上データがありました。確かな裏付けですから、お店側にもシミュレーションを数字で示して提案したんです。棚1段並べれば、売り上げはこれだけ増えますから、と」

実際、“棚制覇”の効果は如実に出た。商品自体が目立つようになり、売り上げに直結した。かつて名古屋オフィスの隅で小さくなっていた薬品課は、もうお荷物ではなくなった。それどころか、この取り組みを社内の小集団活動として発表し、富田さんは優秀賞を獲得している。

富士山でもサンプルを配った

「取引先からも、テーピングなどの“細々としたもののニチバン”から、“絆創膏のニチバン”へとイメージが変わりました。ドラッグストアから季節の棚割りの企画を求められるようになったりして、営業スタイルも徐々に変わっていったんです」

10年過ごした名古屋オフィスを離れる頃には、絆創膏の売り上げは2倍以上になっていた。のちに本社に異動しても、「ケアリーヴ」の良さをさらに知ってもらうべく奮闘する。武器はここでもやはり、サンプルだった。

「ファストフード店で朝メニューを頼むとサンプルがもらえる。書店で本を買うともらえる。イベントで子どもが大好きなキャラクターに配ってもらう。富士山の5合目付近でも配りましたよ。とにかく、いろんな場所でやりましたね。おそらくこれまで数百万枚は配っていると思います」

さらに「防水タイプ」「パワー&フィット」や「超大判サイズ」といった新たなシリーズも展開。その間にパッケージのリニューアルにも挑んだ。

「パッケージは縦型の四角い箱ですが、それほど厚みはありません。だから、売り場の棚では倒れやすい。手前から順に売れていくわけですが、空きスペースができると何かの拍子で倒れてしまうんです。すると商品の“顔”が、お客さんに見えなくなってしまいます」

営業としてのそんな困りごとを開発担当者に話していたら、なんと“倒れない箱”にしてくれた。ぜひ店頭で確かめてもらいたいが、パッケージ前面の最下部の形状を工夫した。これなら倒れない。

「さらに、商品をフックにも掛けられるよう、ヘッダー部分に穴も開けました。店の方の要望から生まれた工夫です」

先を越されても“戦わない”社風

そんな矢先の2004年。業界を揺るがすヒット商品が他社から生まれる。傷を乾かさず、治りやすい環境を保つ湿潤療法、そして湿潤環境を保つ「ハイドロコロイド」素材。医療現場では常識になりつつあったこの治療法を、家庭用に落とし込んだ絆創膏が登場したのだ。「バンドエイド」から「キズパワーパッド」という湿潤療法タイプの絆創膏が発売されるやいなや、「貼るだけで、傷が治る」と瞬く間に大ヒットとなった。

「正直、ショックでした」

そう振り返る富田さんの言葉には、悔しさよりも冷静さがにじむ。

「ただ、不思議なことに『ケアリーヴ』の売り上げ自体は、さほど落ちなかったんです。日常遣いの購入層が違っていたのかもしれません」ここでもニチバンは、走らなかった。見据えていたのは、どこまでもユーザーの姿だ。この“戦わなさ”こそが、ニチバンの社風だろう。

ハイドロコロイド素材を使った絆創膏「ケアリーヴ 治す力」が世に出たのは、それから実に8年後。「満を持して、でしたね」と富田さんは静かに続けた。

「最も難しかった点は、ハイドロコロイドの使い方でした。傷を早くきれいに治すという機能を担保しながら、フィットする、ムレない、はがれにくい。でも、はがすときは痛くない。この『ケアリーヴ』がずっと大事にしてきた長所をひとつも失わないこと。それを実現させました」

「『ケアリーヴ』の長所をひとつも失わずに『ケアリーヴ 治す力』ができました」と富田さん
「『ケアリーヴ』の長所をひとつも失わずに『ケアリーヴ 治す力』ができました」と富田さん
自然治癒力を活かした絆創膏の誕生

ポイントは、やはりパッドだった。

「特殊素材のパッドが、傷口から出る体液を吸収して、ふくらむ。『ケアリーヴ 治す力』では、ハイドロコロイドは、傷口が当たるパッドのみに使用しています」

競合商品は、違う。ハイドロコロイドが広い面積に施され、しかも全体が分厚い。対して「ケアリーヴ 治す力」は、傷口の部分だけ、そして驚くほど薄い。

「ハイドロコロイドが小さすぎる、薄すぎる、ニチバンはケチってるの? なんて言われたこともありましたね」

だが、それこそが価値だった。

「薄くても、傷を治してくれます。傷口以外の健康な肌には、通気性が良くフィットするテープを使うことで、ストレスをかけない。『ケアリーヴ』と見た目や使い心地がほとんど変わらず、傷を治すことができます」

薄くしても、きちんと“治す力”を発揮する絆創膏の誕生。その結果は、数字が物語る。

「ケアリーヴ 治す力」シリーズは2013年比で、売上規模は約7倍に成長。「ケアリーヴ」シリーズは2024年より国内売上数量トップを記録し、王者「バンドエイド」を抜く(*1)。今やドラッグストア店頭の絆創膏は「ケアリーヴ」が定番となり、韓国でも人気を博している。「毎日使うユーザーは、必ず自分のために、いいモノを選ぶ。やっぱり、そこが原点ですね」

「ケアリーヴ 治す力」シリーズは、2013年比で売上規模が約7倍に成長した
「ケアリーヴ 治す力」シリーズは、2013年比で売上規模が約7倍に成長した

微笑む富田さんにさらに聞いた。次の目標は何ですか。

「『ケアリーヴ』どこですか? とお客さんが店頭で聞くのが当たり前になる日です」

営業でありながら、そのビジョンは数字ではなかった。静かに、熱く、確実に。“絆創膏屋”のひたむきな挑戦は、今この瞬間も止まらない。

*1 インテージSRI+「絆創膏市場シリーズ計2024年4月~2025年3月」販売数量

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年、兵庫県生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループを経て、94年よりフリーランス。広告、記事、広報物、書籍などを手がける。インタビュー集として、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)、『外資系トップの仕事力』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。2011年より宣伝会議「編集・ライター養成講座」講師。2013年、「上阪徹のブックライター塾」開講。日本文藝家協会会員。

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