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22年前、冬の街に煌めいた“最強のメガネ女子” 時代が彼女に追いついた“二重のタイムトラベル”

  • 2026.2.23

「22年前の冬、あなたの目に映る景色はどんな色をしていた?」

2004年2月。寒さがピークを迎え、街ゆく人々がコートの襟を立てて歩く中で、視界をキラキラとした粒子で埋め尽くすような彼女が現れた。分厚いメガネに、どこかレトロさを感じさせる衣装。懐かしいディスコサウンドに乗せて甘い声を響かせる。それは、the brilliant greenのボーカルとして知られていたクールな彼女とは似ても似つかない、徹底的に作り込まれた“ポップ・アイコン”の姿だった。

Tommy february6『MaGic in youR Eyes』(作詞:Tommy february6・作曲:MALIBU CONVERTIBLE)――2004年2月11日発売

この曲は、ドラマ主題歌としての枠を超え、Tommy february6というプロジェクトの完成形を決定づけた1曲として音楽史に刻まれている。22年という時を超えた今、彼女の音楽とビジュアルは、当時を知らない世界中の若者たちをも熱狂させている。

なぜ彼女は、これほどまでに長く愛され、常に“新しい”存在であり続けられるのか。その秘密は、彼女が仕掛けた「リバイバルのリバイバル」とも言える、時空を超えた魔法の構造にある。

80年代を纏った“2000年代のミューズ”

Tommy february6が登場した当初、そのサウンドとビジュアルは「80年代リバイバル」として受け止められた。きらびやかなシンセサイザー、そしてどこかキッチュでアナログ感のあるミュージックビデオ。それらは、80年代の洋楽ポップスやアイドルカルチャーへのオマージュに溢れていた。

作曲・編曲を手がけたMALIBU CONVERTIBLEによる楽曲『MaGic in youR Eyes』は、その極致とも言える仕上がりだ。冒頭から炸裂する高揚感たっぷりのシンセサウンドは、聴く者を瞬時にダンスフロアへと連れ去る引力を持っている。

だが、彼女の凄みは単なる懐古趣味で終わらなかった点にある。80年代の要素を、2000年代当時のデジタルな感覚と、川瀬智子という個性のフィルターを通して再構築することで、「懐かしいのに、今まで見たことがない」という絶妙な違和感と新しさを生み出したのだ。

ロックバンドのボーカルが、あえて過剰なまでに「アイドル」を演じきり、コンセプチュアルな世界を提示するスタンス。そこには、ポップスというものをメタ的に楽しむような、高度な遊び心とクリエイティビティが隠されていた。

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2002年、東京・新宿ステーションスクエアで初のストリートライブを行ったTommy february6(C)SANKEI

甘いキャンディに隠された“計算高い毒”

楽曲そのものの魅力に目を向けると、そこには彼女特有の“中毒性”が潜んでいることに気づく。

『MaGic in youR Eyes』のメロディラインは、極めてキャッチーで明るい。しかし、その明るさの中には、胸を締め付けるような切なさや、微かな憂いが巧みに編み込まれている。

Aメロ、Bメロでじらしながら高めていく期待感を、サビで一気に開放するカタルシスは圧巻だ。

キラキラとした音の粒の隙間に、ふと訪れる静寂。その瞬間に聴き手の心に入り込むのは、彼女の声が持つ独特の成分「甘さの中に潜む、ある種の冷徹さやセンチメンタルな質感」だ。

Tommy february6の歌詞世界は、一見するとキュートなファンタジーのように見える。しかし、その奥底には、対象への強烈な執着や、理想の世界を固執して守ろうとするエゴイズムが、可愛らしい言葉の裏に張り付いている。

「魔法」をかけて相手を振り向かせたいという願望は、純粋であればあるほど、狂気にも似た一途さを帯びる。

彼女は、そうした生々しい感情さえも、ポップなキャンディの包み紙でくるんで差し出してくる。聴く人は、その甘さに酔いしれながら、知らず知らずのうちに彼女の構築した箱庭の中へと誘われていくのだ。

この“計算された無防備さ”こそが、Tommy february6というキャラクターの真骨頂だろう。

時代がようやく追いついた“Y2K”のアイコン

そして今、非常に興味深い現象が起きている。かつて「80年代リバイバル」として登場した彼女が、今度は「Y2K(2000年)リバイバル」の象徴として、Z世代や海外のリスナーから熱烈な支持を受けているのだ。

2000年代初頭のファッションやカルチャーが再評価される中で、メガネにスクールガール風の衣装、チアリーダーといった彼女のスタイルは、現代の若者たちが求める“カワイイ”の最適解として機能している。

SNSでは彼女の楽曲が頻繁に使用され、その独特なビジュアルをオマージュしたスタイルが世界中で溢れている。

つまり、80年代をサンプリングした2000年代の彼女を、2020年代がさらにサンプリングしているという、重層的なリバイバル構造が生まれているのだ。これは、彼女が作り上げた世界観の強度が、時代の変化に揺るがない「本物」だったことの証明にほかならない。

流行を追いかけたのではなく、彼女自身が強烈なスタイルを持ったひとつのジャンルとして確立されていたからこそ、20年以上の時を経ても古びるどころか、むしろ新鮮な輝きを放ち続けている。

永遠に解けない“人工的な輝き”

22年という月日が流れても、この曲の色褪せなさは驚異的だ。曲が流れた瞬間、当時の冬の空気、どこかワクワクしていた週末の夜、そして何より、自分自身の中にあった“ときめき”が鮮やかに蘇る。それと同時に、今の時代に聴いても全く違和感のない普遍的なポップスの輝きに圧倒される。

タイトル通り、この曲には聴く人の瞳を輝かせる魔法がかけられている。もし今、日常に少し疲れていたり、何かにときめくことを忘れてしまっていたりするなら、この曲を聴いてみてほしい。

再生ボタンを押した瞬間、あなたの周りの世界は再びカラフルな光に包まれ、忘れかけていた“あの頃の魔法”がかかるはずだ。そして気づくだろう。彼女は最初から、未来の私たちがこうして再び熱狂することを知っていたのかもしれないと。

22年前、彼女がかけた魔法は、まだ解けていない。いや、むしろその効力は今、さらに増しているのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。