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NHK大河で描かれた“危うい”主人公「さすがにひどいよ」視聴者からも“嘆きの声”があがった最新話

  • 2025.11.5
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』11月2日放送 (C)NHK

大河ドラマ『べらぼう』第42回「招かざる客」は、亡くなったつよ(高岡早紀)がかつて残した、歌麿(染谷将太)をもっと大事に、という言葉が、空しく宙に消えていく回だった。主人公・蔦重(横浜流星)は繁忙と焦燥と上昇への欲を抱え、それを“愛する妻の妊娠”というもっとも侵しがたい理由を盾に、歌麿に押しつけてしまった。視聴者が揃って「さすがにひどいよ……」と声を上げてもおかしくないほど、蔦重の無神経さが露骨になる。人の善意と恋心に依存しているのに、その重さには触れないまま踏み込む。そこに“人でなし”と紙一重の危うさがあった。

※以下本文には放送内容が含まれます。

歌麿の抑圧の限界が、一気に破れる?

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』11月2日放送 (C)NHK

歌麿はずっと、蔦重に対して届かぬ恋をしてきた。きよ(藤間爽子)とともに過ごしていた時期は忘れていた気持ちではあるものの、その火種は胸の奥で密かに燻り続けてきたのだ。自分の気持ちが邪魔になることを理解したうえで、技術と誠意を尽くして蔦重を支え続けてきた歌麿。男色としての嗜好があるとかないとか、そんな浅いレッテルで語れるものではない。

自分の人生において、ひとりの人間を選び、ひとりの人間を守ろうとする。歌麿が望むのはただそれだけのことで、それは揺るぎない“愛”だった。しかし、その愛は、当の本人である蔦重には届かない。いや、届いてはいけないものとして、歌麿自身がなかったことにしてきた。

そして今週、蔦重は「ガキも生まれんだ!」「身重のおていさん(橋本愛)には苦労かけたくねえんだ!」と歌麿に告げ、物量の多い仕事をなんとか受けてもらおうと粘る。歌麿にとって、これは自身の愛を否定される以上の衝撃ではないか。まるで、妻と子を盾に“お前なら断れまい”と言われているのと同義だ。愛している相手から、もっとも残酷な形で利用された感覚。視聴者が怒るのは当然かもしれない。

歌麿を演じる染谷将太は、表情に一気呵成の爆発を乗せる役者ではない。今回も、怒りの密度を眉間の皺や、目線の微妙な逃がし、呼吸の沈みなど細かな所作で見せる。感情が爆発しているのに、声帯ではなく血流の変化で伝えてくるような芝居である。

それだからこそ、視聴者は歌麿と同じ温度で胸が苦しくなる。あんなに尽くして、あんなに寄り添って、あんなに耐えてきた男が、ようやく“この先はもうない”と見限ったのが、この瞬間だった。その絶望の手触りが、染谷将太の芝居には確かにあった。

定信パートの“孤立”と歌麿の“孤立”が鏡写しに

政治パートでは、ロシア船出現で定信(井上祐貴)が幕府内で孤立していく様子が描かれた。蔦重の物語線の“孤立感の鈍さ”とは違い、定信は孤立を自覚しながら戦略を打つ。蔦重は逆に、上昇のなかに埋もれてしまう。

この点が、今週の非常に皮肉な対照だ。上へ行く者の盲点と、見えてしまう者の苦しさ。歌麿と定信は、方法も立場も違うのに“少数派の孤独”を抱えていた。

蔦重は“対等な相棒”として歌麿を見ているつもりだろう。しかし歌麿は、その関係をずっと愛の延長で受け取ってきた。非対称なまま積み上げてきた年月の重力が、ここで限界を迎えた。生涯の相棒になりうる関係だったはずなのに、蔦重はその愛を“都合のいい労働力”に誤変換した。つよが残した言葉は、彼女が亡くなったいまだからこそ、蔦重はまず一番初めに思い返さなければならなかった。

しかし、現実はその反対だ。つよが残した思いは、より強い野望の前に吹き飛ばされた。

義兄弟の決裂は、すぐそこ?

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』11月2日放送 (C)NHK

ついに、歌麿が蔦重と決別宣言する次回予告。その事実を前にして、この42話は感情的な地ならしとして、恐ろしく説得力がある。

ここまで無視され続けた愛情は、いつか破れ、違った質量に変化する。その過程が今回、生々しく立ち上がる回とも言えただろう。蔦重は、一歩間違えれば本当に“人でなし”だ。視聴者の「さすがにひどいよ……」という声は、ドラマの構造と完全に同期している。

だからこそ43話は避けられない。ふたりの断絶は、すでに必然の地点まで到達してしまったのである。


NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』 毎週日曜よる8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_