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映画化もされた“大人気アニメ”で注目を集める脚本家の新作ドラマ 秋の深夜帯で描かれる“静かで不穏なミステリー”

  • 2025.9.19
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山田杏奈 (C)SANKEI

深夜ドラマで名作を生み出し続けるテレビ東京で、秋クールから始まるのが『シナントロープ』だ。実力派として注目を集める水上恒司が主演を務め、確かな演技力で評価の高い山田杏奈がヒロインに起用されている。
シナントロープという名のハンバーガーショップを舞台に、青春群像ミステリーが描かれる。ティーザービジュアルでは、夜に浮かぶ緑色のネオンが光る店構えが怪しさを醸し出し、何が起こるのか分からない雰囲気が漂っている。先の読めないミステリードラマになりそうだ。

気鋭の脚本家の新作

『シナントロープ』の脚本を手がけるのは、『スピナーベイト』で漫画家としての活動を開始し、アニメ『オッドタクシー』の脚本で注目を集めた此元和津也だ。

此元和津也は、漫画『セトウツミ』で注目を集め、その後さまざまな雑誌で読み切り作品を公開している。若者の日常をリアルに描くのが特徴で、シュールで哲学的な会話劇、その中から見えてくる登場人物の心理描写や関係性描写が魅力の作家である。

2018年には、映像制作会社・株式会社ピクスに所属し、LUMINEのクリスマス限定ドラマ『MATCH girls』で脚本家デビュー。2019年には『ブラック校則』で映画・ドラマの脚本にも挑戦した。

この2作は、此元が元来持っている作家性が生かされた2作であるが、アニメ『オッドタクシー』は、若者たちのシュールなやり取りのなかに、ミステリー要素が絡められた作品になっている。登場人物の違和感のある会話がすべて伏線となり、終盤に物語の設定ごと塗り替えられる内容になっており、此元が得意とする会話劇が物語の仕掛けとして使われた作品になっている。

その後、『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』でアニメ『オッドタクシー』の中で展開された事件を別の角度から再編した作品でも脚本を担当。『オッドタクシー』の監督である木下麦と再タッグを組み、アニメ映画『ホウセンカ』を世に送り出した。

『シナントロープ』は、『オッドタクシー』から続くシュールな会話劇を物語の仕掛けとして使う此元作品の魅力を、はじめて実写に落とし込んだ作品と言えるだろう。ティーザービジュアルからも、『オッドタクシー』のようなおしゃれさとほんの少しの怖さが同居した雰囲気を感じる。これまでにない作品になるのではないだろうか。

アニメ脚本とドラマ脚本の垣根がなくなりつつある?

近年、ドラマ脚本家がアニメ脚本に挑戦することが増えてきた。アニメ『TIGER & BUNNY』やドラマ『とと姉ちゃん』、『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』などの脚本家・西田征史などは、アニメと実写をどちらも担当する脚本家であったが、本来は実写は実写、アニメはアニメと棲み分けされている状態が常であった。

ドラマ『舟を編む〜私、辞書つくります〜』や『あの子の子ども』などで注目されている蛭田直美は、2025年夏クールのアニメ『Turkey!』ではじめてアニメ脚本に挑戦。ボウリングと戦国時代を掛け算した異色な設定の中に、蛭田の強みである登場人物たちの繊細な心理描写が描かれた内容になっている。

ドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』や『オクラ〜迷宮入り事件捜査〜』などの武藤将吾は、2026年放送予定の『鎧真伝サムライトルーパー』でアニメ脚本に初挑戦する。仮面ライダーシリーズでも脚本を務めたことがあり、実写作品でも少し現実離れしたキャラクター設定や視聴者を揺さぶるような大きな展開を仕掛けるのが得意な武藤の作家性は、アニメと相性がいいのだろう。

ドラマとアニメはメディアの特性が根本的に異なるため、描ける設定やシーンも異なる。制作期間や脚本の作法も異なるため、メディアを跨いで脚本を依頼することは、仕事を依頼する側、受ける側にとってリスクになり得るといえるだろう。

しかし、脚本家の根っこにある作家性は、ドラマであろうとアニメであろうと基本的には変わらない。媒体の特性を乗り越えて、ドラマ脚本家がアニメをアニメ脚本家がドラマを手がけるようになることは、ドラマとアニメの作風を広げる手段となるはずだ。

まずは、アニメ『オッドタクシー』のような雰囲気を持つ『シナントロープ』が、ドラマ界にどのような風を吹かせるのかを楽しみに、放送を待ちたい。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202