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インテリアデザイナー・片山正通が選ぶ、いまセンスがいいもの

  • 2025.8.13
Anri Yamada イラスト

センスのいいフリをしない、というセンスに憧れます

「東と西の文化を、その人の経験や個性を反映させるような手つきで融合させるセンスに憧れます」そう話すのは〈Wonderwall®〉を率いるインテリアデザイナー、片山正通さん。ブティックや大型商業施設から住宅まで、世界各国で話題の空間を手がけ続けるデザイン界のキーパーソンだ。

そんな片山さんにとって、美しい空間の在り方を教えてくれる先達が、モダニズムと日本の伝統を融合させた建築で知られる吉村順三。「吉村のモダニズム建築は地味に見えますが、実際に訪れるとその心地よさと美しさに圧倒される。理由の一つはディテールへの尋常ならざる注力でしょう。建具のプロポーションしかり、開口部の収まりしかり。センスは“映(ば)え”じゃないところに潜んでいる。フォトジェニックな空間を求めたがる僕らデザイナーへの戒めにも思えるし、励ましでもある気がします」

一方、映画も音楽も大好きでアートにも詳しい片山さんいわく、「それらのカルチャーはデザインの仕事とフラットな関係にあって、影響もいっぱい受けてます」。中でも最近ハマっているのは、映画制作会社〈A24〉が編集した有名映画のプロモーショングッズ本や、ライブが大当たりだったバンド〈YIN YIN〉

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1908~1997年。アメリカの建築家アントニン・レーモンドに学んだモダニズム建築の巨匠。「日本において東西の建築文化が融合していく道筋を作った一人。派手なところはないのに体感すると隅々までカッコいいという、“センスのいい空間”の答えをくれたレジェンドです」。上は「軽井沢の山荘」。
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オランダ最古の町マーストリヒト出身のエキゾティック・ファンク・ディスコ・バンド。「たとえるならYMO前夜。シンセの入り方とか、唐突に日本語の歌詞が入る感じとか、僕の世代には懐かしくて恥ずかしくてカッコいい。垢抜けてないのにライブはグルーヴィで、その“なんだこれ?”感にハマります」

そしてジェシー・アイゼンバーグ監督の映画『リアル・ペイン~心の旅~』。「壮大な演出も飛び道具もなく淡々と進んでいくロードムービーですが、主人公2人の関係性や繊細な心の揺れが丁寧に描かれていて、めちゃくちゃ泣きました。センスがいいフリをしないという誠実なセンスが、人間の愛らしさや痛みを際立たせているんです」

あるいは靴職人兼デザイナーのポール・ハーデンが作る服。「19世紀の織機で織った生地を使う、少し複雑な造形は、着ると本当にかわいい。彼は30年以上、ほぼ同じデザインを作り続けていて、生地だけを変えるんです。かたくななまでに変えない核の部分と時間軸を両立させ、コアなファンを獲得している。30年後も新鮮に着られると思うとすごいですね」

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監督・脚本・主演はジェシー・アイゼンバーグ。キーラン・カルキンが共に主演を務める。「生きていくしんどさを抱えてNYで暮らす2人が、まだ戦争の爪痕も残るポーランドを旅するロードムービー。ムードはコメディなのに胸に深く迫るものがあって泣けてしまう。タイトルの扱い方のセンスも抜群です」
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英国・ブライトンの靴職人兼ファッションデザイナー。「デザインは一貫しているのに新鮮さを失わない。変わらないシルエットと更新されるファブリック。この2つが交わることで独自の意味が生まれます。友人は30年前に買った服をそろそろ着ようと言っていました。それが叶う不思議な魅力があります」

センスはインスタントに得られるものじゃない、と片山さんは言う。足を運び、観て、聴いて、読んで、着て、やっと身につくもの。

「体感しなくても伝わることは、大したことじゃないとさえ思います。だからこそ、建築もアートも映画もデザインも大量に浴び続けたい。そうしてもはやノイズのようになった中から浮かび上がるものが、センスという糧になり、仕事にもにじみ出ると思うんです」

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「アメリカの映画制作会社〈A24〉には、映画以外でも編集のセンスを感じます。例えば有名ハリウッド映画のノベルティを集めたこの写真集。個々で見ると冴えないのに一冊通して眺めるとカッコいい。テーマと見せ方がうまいんです。ほかに、公開映画のTシャツやグッズで引用するシーンのセレクトも秀逸」
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東京・恵比寿に立つ古い日本家屋を改装した〈ルメール〉の旗艦店。「東と西の感性を融合させるセンスに感動します。驚いたのは和室。絨毯を敷きつつ畳の縁の部分に木枠をはめることで、畳の間の意匠や気配を残しながらもパリブランドらしく仕上げている。力みを感じさせないさりげなさも心地いいんです」
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リサーチを軸に活動するイタリア発のデザインユニット。「特に〈ARTEK〉の『ワイルドバーチ』シリーズは、虫食いや節のある野生のシラカバ材の選定基準を広げることで新たな価値観を見出し、アルヴァ・アアルトの名作家具に新しい意味を与えている。美の定義をさらりと覆す発想で大注目の2人組です」
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イギリスを拠点に活動するコンセプチュアルアートの旗手。「コンセプトの伝え方やアウトプットのセンスがずば抜けているのが魅力。有名なこの作品も、小さなネズミが少女の声(彼の9歳の娘)で、世界を憂う強烈な演説を行う。笑わせてくれるのと同時に、鑑賞者自身が考えることを促します」

profile

片山正通(インテリアデザイナー)

かたやま・まさみち/1966年岡山県生まれ。Wonderwall®代表。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。〈THE TOKYO TOILET〉、虎ノ門ヒルズ〈T-MARKET〉、香港〈HUMAN MADE REPULSE BAY〉、北軽井沢で進行中の〈NOT A HOTEL MASU〉。

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