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30年前、30万枚超を売り上げた“異彩を放つ渋谷系サウンド” 90年代を象徴する“都会的ポップの金字塔”

  • 2025.9.2

「30年前の渋谷、どんな景色を思い出す?」

センター街には新しいブランドショップが立ち並び、夜になればクラブからは最新の洋楽やハウスが鳴り響く。バブル崩壊の余韻を抱えながらも、新しい文化が芽吹き始めた1995年。そんな時代の息吹を鮮やかに閉じ込めた一曲がある。

小沢健二『強い気持ち・強い愛』(作詞:小沢健二・作曲:筒美京平)——1995年2月28日発売。

小沢にとって7枚目のシングルとなったこの作品は、発売直後から注目を集め、最終的には30万枚を超えるセールスを記録した。90年代ポップカルチャーを象徴する“渋谷系”の代表曲として、多くの人の記憶に刻まれたのである。

小沢健二と筒美京平、世代を超えた邂逅

『強い気持ち・強い愛』を特別な存在にしているのは、その作曲者が筒美京平であることだ

昭和のアイドルソングからシティポップ、ニューミュージックまで数々のヒットを生み出した筒美の王道的で洗練されたメロディに、フリッパーズ・ギター解散後、ソロとして独自の世界を築いていた小沢の感覚的な言葉と都会的なリズムが重なることで、時代を超えて響く楽曲が誕生した。

その風景は、渋谷・公園通りを歩くときの高揚感にも重なる。“ポップスの王道”と“90年代の街角の新しさ”が公園通りで交差した瞬間——それがこのシングルの魅力のひとつだ。

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1995年、コンサートで歌う小沢健二 (C)SANKEI

輝きの核心は“都会的な幸福感”

イントロから鳴り渡るホーンのきらめき、流れるように広がるストリングス、そしてリズムセクションの軽快なグルーヴ。聴く者の気分を一気に押し上げるサウンドは、まるで射し込む真昼の陽光と重なり合うようだ。

小沢健二のボーカルは、この曲では普段以上に力強く張り出し、音の流れをリードしていく。華やかなホーンやストリングスに負けることなく、むしろそれらを牽引するように響き渡り、聴く者の心を一気に高揚させる。

アレンジ面でも、この曲には特別な厚みがある。全体の編曲を小沢と筒美が手がけつつ、管弦のスコアリングは服部隆之が担当。筒美京平の普遍的なメロディに、小沢の都会的なセンスが重なり、さらに服部によるダイナミックで流麗な管弦が加わることで、陽射しのように明るく、それでいて洗練されたサウンドが完成した。

この“高揚感”を封じ込めたバランスこそが、『強い気持ち・強い愛』を30年経った今も色褪せない存在へと押し上げている。

1995年の音楽シーンに鳴り響いた異彩

1995年当時のヒットチャートを振り返れば、小室哲哉プロデュースによるダンスチューンや、ビーイング系バンドのエネルギッシュな楽曲が席巻していた。派手で力強いサウンドが全盛の時代に、『強い気持ち・強い愛』は都会的で洗練されたアレンジを前面に押し出し、異彩を放った。

この違いこそが“渋谷系”の魅力であり、「多様なポップスのあり方を提示した楽曲」として強い存在感を残すことになった。

時代を超えて生き続けるポップス

2018年には大根仁監督の映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』のタイトルにも引用され、90年代を象徴する楽曲として改めて注目を集めた。リリースから数十年を経ても、なお新鮮に響くのは、この曲が一時代のムードを超えて“普遍的な幸福感”を音に刻んでいるからだ。

現在でもカラオケやプレイリストで多く選ばれ、当時を知らない世代にとっても90年代カルチャーを体感する入り口となっている。時代の記憶を呼び覚ます音楽として、世代を超えて愛され続ける名曲だといえるだろう。

90年代の街に鳴り響いた幸福の余韻

渋谷の街角を思わせる軽やかな空気感と、筒美京平が描く普遍的で洗練されたメロディ。その二つが重なった『強い気持ち・強い愛』は、単なるヒットソングではなく、90年代の東京で生きる若者たちの日常のきらめきと高揚感を象徴するポップスだった。

今なおこの曲を耳にすると、当時の街のざわめきや恋の高揚感が鮮やかに甦る。そして30年前を知らない世代にとっても、不思議な懐かしさとともに胸を弾ませる魔法を宿している。

——“強い気持ち”と“強い愛”

それは90年代を生きた若者たちの願いであり、音楽を通して永遠に響き続けるメッセージなのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。