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不動産から突然の『家賃上げます』→断っていいの?“対処法や注意点”を弁護士に聞いてみた

  • 2025.7.31
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出典:photoAC(写真はイメージです)

物価の上昇が続くなか、住まいにかかる費用も気になるところです。そんなとき、「家賃を上げたい」と大家さんから言われたら、どう対応すればよいのでしょうか。家計への負担が大きい居住費が上がるとなれば、対応に悩むのも無理はありません。

SNS上で「不動産屋さんから『家賃上げます』と連絡が来たので、近隣の相場や地価上昇率などを理由に『同意できません』と返事をした」といった趣旨の投稿がされ、「私もバトルしました」「私もやったことある」と話題になりました。

はたして、管理会社や大家さんから、「賃貸物件の家賃を値上げする」という通達があった際、拒否することはできるのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

家賃値上げの連絡があったら…

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

---管理会社や大家さんから、賃貸マンションの家賃を値上げするという通達があった際、「値上げ前の金額しか払いません」と拒否することはできるのでしょうか?

「家賃の値上げ通達があったときに、値上げ前の金額しか払いません」と拒否できるかどうかは、ケースによって異なります。

まずは原則として、家賃の値上げは「合意」が必要です。

賃貸借契約における家賃の変更(値上げ・値下げ)は、原則として貸主と借主双方の合意によってのみ有効です。したがって、借主が「値上げ前の家賃しか払いません」と明確に意思表示すれば、それを理由にただちに契約違反とはなりません。

---一方的に家賃を上げることはできないというわけですね。

ただし、例外として借地借家法による値上げ請求と裁判手続きがあります。

家賃は「永遠に固定されるもの」ではありません。借地借家法が適用される場合、同法32条に基づいて、貸主側から家賃の増額を請求することができます。要件は以下のとおりです。

ア 固定資産税の上昇
イ 物価上昇
ウ 近隣相場の上昇
エ その他経済的事情の変化

以上を理由として貸主が値上げ交渉を持ちかけ、合意に至らなければ、貸主は家庭裁判所に「賃料増額請求の調停」または「訴訟」を起こすことができます。

つまり、借主が拒否しても、貸主が法的手段に出れば、最終的には裁判所が妥当な家賃額を判断することになります。

---借主と貸主だけで納得いく合意に至らなかった場合は、裁判に発展することもあるのですね。

家賃の値上げが適正かを判断するには?

---家賃の値上げが不当であるか順当であるか調べる方法はあるのでしょうか?

家賃の値上げが「不当」か「順当」かを調べる方法はあります。値上げの根拠や周囲の状況を客観的に確認することで、適正な範囲かどうかを判断できます。代表的な方法を4つ紹介します。

1つ目は、周辺の家賃相場を調べる方法です。最も基本的で有効な方法です。以下のような方法で調べるのが一般的です。

ア 同じマンション内や近隣の同程度の物件(築年数・間取り・設備)と比較する
イ 不動産情報サイトで相場を確認する
ウ 不動産会社に匿名で聞いてみる

周辺相場と比べて大きく乖離している場合、「不当な値上げ」の可能性があります。

---これらの方法なら自分でも調べられそうですね。

2つ目は、賃貸契約書の内容を確認することです。契約書に「賃料改定の条件」や「更新時に増額する可能性がある」旨の記載があるか確認することも重要です。

「〇〇円に改定する」といった将来的な合意がある場合は、争うのが難しいこともあります。特に「定期借家契約」の場合は、更新時に大幅な変更もありえます。

---契約時に値上げの可能性が示されていると、値上げを拒否するのは難しいというわけですね。

3つ目は、家主の主張する理由の妥当性を検討することです。

たとえば、固定資産税が上がったと家主が主張してきた場合には、証明資料がなければ、増額の理由は乏しいということになります。建物の維持管理費が増えたと主張された場合には、実際の修繕履歴や修繕系下記の資料が必要です。

一方、周辺の家賃が上がっていると家主が主張してきた場合は、相場のデータが合致していれば、増額は相当といえます。

逆に、物価上昇を理由として主張してきた場合、緩やかな上昇幅では家賃増額の婚子としては弱いということになります。「感覚的な値上げ」や「ただの収益目的」の場合は、正当とは言えません。

---家主側としても、家賃を引き上げるには、正当な理由を示すことが求められるのですね。

4つ目は、専門家に相談する(弁護士・宅建士など)ことです。

消費生活センターや自治体の住宅相談窓口に相談してみるという方法があります。また、弁護士に相談すれば、法的な根拠の有無や交渉の対応方法について助言が受けられます

---自分で判断できない時は、専門家の手を借りるのが安心ですね。

補足として、裁判所が重視するポイントを紹介します。賃料の増額が調停・訴訟に至った場合、裁判所は以下のような観点から判断します。

ア 周辺の家賃相場
イ 建物の築年数・状態
ウ 経済情勢(物価、税金など)
エ 双方の事情(収入や経営状況など)

---これらの方法を知っておくことで、納得のいく解決に繋げられそうですね。

借主が注意しておきたいこと

---値上げ前の金額しか払えない(払いたくない)と管理会社や大家さんに伝える際に、注意しておくべきことや、必ず伝えたほうが良いことを教えてください。

(1)「一方的な拒否」ではなく、「誠実な話し合いの姿勢」を示す

ただ「払えません」と突っぱねるのではなく、冷静に、かつ誠実な姿勢で対応することが重要です。

たとえば「ご連絡ありがとうございます。提示いただいた金額については、現状では支払いが難しく、従来の家賃額での継続を希望しております。ご理解いただけますと幸いです」などと丁寧に意思を伝えることで、無用なトラブルを避けやすくなります。

(2)書面またはメールで記録を残す

口頭のみのやり取りは、後日トラブルになりやすいです。また、「黙示の合意」(値上げを黙って受け入れた)とみなされないためにも、記録化は重要です。

書面またはメールで「従来の家賃で支払いたい」という意思表示を明確にして、「いつ、誰に、どう伝えたか」が残るようにすることが必要です。

(3) 値上げの理由や根拠を丁寧に確認する

感情的に否定せず、「なぜ値上げするのか」「どのような根拠があるのか」を丁寧に尋ねましょう。

たとえば「突然のご連絡で驚いております。どのような理由で金額を変更されるのか、詳細を教えていただけますか?」などといった尋ね方をすれば、感情的になったりトラブルになったりすることは回避できるでしょう。また、このやり取り自体が、後々「値上げ交渉に合意していない」ことの証拠になります。

(4)値上げ額を一部支払ってしまわない

一度でも値上げ後の金額で支払ってしまうと、黙示的に合意したとみなされるリスクがあります。

特に「口座振替」など自動支払の場合は注意が必要です。値上げに納得できない場合は、明確に反対の意思表示をしたうえで、旧家賃額だけを支払うことが基本となります。

(5)将来的に調停・訴訟になる可能性も意識する

管理会社や大家が値上げを強く希望し、合意できない場合、調停や訴訟に進むケースもあります。その場合のためにも、冷静なやり取りと証拠の保全(メール・メモ・領収書など)が大切です。

---調停や訴訟と聞くと身構えてしまいそうですが、事前に心構えと準備があれば、落ち着いて対応できそうですね。

冷静な対応で納得できる解決に

家賃の値上げを大家さんから伝えられた場合でも、必ずしもそのまま応じる必要はないとのことです。

家賃の値上げの連絡があった場合、まずは提示された内容が妥当かどうかを冷静に見極めることが大切です。契約内容や周辺相場を確認し、不明点があれば丁寧に説明を求めましょう。

また、やりとりは書面やメールなど、証拠が残る形で行うことが大切です。口頭だけのやり取りは後々トラブルになることもあるため、記録を残しておくように注意してください。

話し合いで合意に至らなければ、調停や訴訟など法的な手続きに進むこともあります。慌てず冷静に、正しい情報と準備をもって対応することで、納得できる解決につながるでしょう。

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