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「候補者演説動画のリポストは違法?」意外と知らない“落とし穴”を弁護士に聞いてみた

  • 2025.7.19
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「政治系の切り抜き動画ってグレーというかブラックなのかも」「応援したい気持ちでリポストしただけなのに違法?」SNSでは、選挙期間中の投稿について不安や疑問の声が多く上がっています。

実際、最近では候補者の発言を編集した「切り抜き動画」が多数拡散され、選挙戦の行方にまで影響を与えると言われるほど。

その一方で、誤情報を含んだ動画や、選挙運動とみなされかねない投稿も少なくありません。

はたして、SNS上の投稿はどこまでが許されていて、どこからが法律違反なのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

意外と知らない法的リスク!切り抜き動画はどこから違法?

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

---選挙や候補者に関する切り抜き動画は違法ではないのでしょうか?

結論をいうと、内容や投稿者によっては公職選挙法違反となる可能性があります。特に注意すべきは「誰が」「どのような目的で」「どんな内容を」「いつ」投稿したかです。

(1)ポイント1:選挙運動に当たるかどうかがカギ

公職選挙法では、選挙期間中にインターネットを使って選挙運動をすることは、候補者本人と政党等の一部の者に限られています(※公選法第142条の5ほか)。

つまり、一般の有権者が、選挙運動と評価されるような投稿をすると、違法となる可能性があります。

---選挙運動とはどのような行為なのでしょうか?

選挙運動とは、特定の候補者を当選させる目的で行う行為です。

したがって、たとえば以下のような内容の「切り抜き動画」は注意が必要です。違法の可能性がある例として、以下のものが挙げられます。

  • 「〇〇候補が一番素晴らしい!ぜひ投票を!」といった呼びかけを含む動画
  • 政策を絶賛して他の候補を貶す内容の編集
  • 候補者の政見放送の一部を加工して投稿(著作権や編集内容によっても問題になる可能性あり)

逆に、違法にならない可能性がある例としては、以下のものがあります。

  • 単なる報道的事実の紹介(例:記者会見の様子をそのまま投稿)
  • 公正中立に候補者を比較する目的の教育的コンテンツ
  • 選挙運動期間前に投稿された動画(ただし拡散は注意)

ただし、「選挙運動目的ではない」としても、編集により印象操作されている場合や、事実と異なる情報を含む場合は、名誉毀損や公選法の虚偽事項公表罪などに問われることもあります。

(2)ポイント2:投稿者の立場にも注意!

公職選挙法の改正により、候補者や政党などは選挙期間中でもインターネットを使った選挙運動ができますが、一般の有権者には制限があります。OKかNGかのラインは、以下のとおりです。

  • 候補者:OK(ただし規定された手法で)
  • 政党:OK
  • 一般人:NG(選挙運動にあたる投稿)
  • 未成年者:そもそも選挙運動自体が禁止(選挙権もなし)

SNSでのリポスト(リツイート)だけでも違法なの?

 

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出典:photoAC(写真はイメージです)

---切り抜き動画を投稿しているX(旧Twitter)などのポストをリポスト(リツイート)することは、法に抵触するのでしょうか?

リポスト(リツイート)も「選挙運動」とみなされる可能性があり、違法となるケースがあります。とくに選挙期間中に、選挙運動に該当する投稿を一般の有権者がリポストする行為は、公職選挙法違反となるおそれがあるため注意が必要です。

(1)ポイント1:リポストも「自らの意思による発信」とみなされる

リポスト(リツイート)は、「他人の投稿をそのまま引用しているだけ」と思われがちですが、公職選挙法上は“自己の意思表示”と解釈される可能性があります。

つまり、たとえ自分で最初に書いたものでなくても、「この候補者を応援してほしい!」という意図を含んだ投稿を拡散すれば、“選挙運動”と見なされて違法になる可能性があるのです。

---違法の可能性があるとは驚きました。どのような投稿をリポストしたら違法なのでしょうか?

違法とされる可能性があるリポストの例には、以下のものがあります。

  • 「〇〇候補に投票しましょう!」など、投票を呼びかける投稿のリポスト
  • 候補者の演説を編集した“応援系”動画をリポスト
  • 「他の候補よりも〇〇候補が優れている」という比較的投稿をリポスト

これらは、選挙運動に該当し、 公職選挙法上、一般有権者の投稿が違法となる可能性があります。

---では、どのようなリポストは認められているのでしょうか?

逆に、合法とされる可能性が高いリポストの例は、以下のものです。

  • ニュースメディアによる中立的報道(例:「〇〇候補が記者会見を行いました」)のリポスト
  • 公式政見放送のURLをそのまま紹介しているだけ(※加工・編集していない)
  • 候補者の行動日程を事実として知らせる内容のリポスト(例:「明日は札幌駅前で演説予定」)
  • 選挙期間外の投稿のリポスト(ただし、内容やタイミングによってはグレーなケースあり)

(2)ポイント2:リポストの「意図」が問われるケースも

公職選挙法違反が成立するためには、「選挙運動の意思」があることが要件です。ただし、現実にはリポストの意図を完全に証明するのは難しく、形式や文脈から判断されることになります。

たとえば、「参考になります」などの中立的コメントを付けたものは違法の可能性は低いですが、「これは拡散すべき」「絶対この人!」などのコメントを付けたものは、 選挙運動とみなされる可能性が高くなります。

(3)ポイント3:政党・候補者本人はリポストOK

平成25年の公選法改正で、候補者や政党は選挙期間中でもネット選挙運動が可能となっています。そのため、候補者や政党が、自分や支援者の投稿をリポストすることは合法です。

一方で、一般有権者は「選挙運動にあたる投稿のリポスト」をしてはならないという点に注意が必要です。

意外とやっているかも…実は違法になるかもしれない行為

---選挙期間中の政治に対する投稿やSNSの使い方について、法的観点から気をつけておくべきポイントがあれば教えてください。

選挙期間中のSNS投稿は表現の自由とのバランスが難しい領域で、思わぬ違反につながることがあります。

以下に、よくあるケースごとに注意点を紹介します。

(1)未成年者が候補者を応援する投稿をするのは、原則としてNG(違法)です。公職選挙法では、未成年者(18歳未満)が選挙運動に関与すること自体が禁止されています。

これは現実世界でもSNS上でも同じで、たとえば以下のような投稿は違法となる可能性があります。

  • 「〇〇さんに投票してほしい!」
  • 「〇〇候補を応援しています!」

ただし、「投票に行こう」と呼びかけるだけなら、投票勧奨は選挙運動にあたらないため、違法となりません。

(2)「〇〇に投票しました!」と選挙当日にSNSで発信するのは、注意が必要です。公職選挙法では、選挙当日の選挙運動は禁止されています。「投票済み報告」だけなら問題とならない可能性が高いですが、候補者名を明記して称賛したり、拡散したりすると、選挙運動とみなされ違法になる可能性があります。

---例えば、どのような投稿は違法になる可能性があるのでしょうか?

例えば、「投票してきました!」「民主主義って大事だよね」という発信は問題ありませんが、「〇〇候補に投票しました!みんなもぜひ!」「やっぱり〇〇さんしかいない。投票完了!」といった発信は、投稿のタイミング・文脈によっては「当日の選挙運動」と評価されるリスクがあります。

(3)候補者の画像や政見放送を転載・編集するのは、内容と編集の仕方によっては違法・著作権侵害になるおそれがあります。

政見放送や選挙公報は、特定の文脈での使用が法的に限定されており、SNSでの転載や編集には注意が必要です。編集で意図を歪めるような加工をした場合には、 虚偽事項の公表で違法となる可能性があります。

また、著作権上も、各政党や候補者が映像に著作権を有している場合があります。「悪意ある切り抜き」は名誉毀損になる可能性もあります。

(4)その他、注意が必要な点を以下にあげます。

1.匿名でも責任は問われます

SNS上での選挙運動違反は、たとえ匿名アカウントでも発信者情報開示請求の対象となり、氏名・住所などが特定されて法的責任を問われるケースがあります。

2.自分が「選挙運動」しているという意識がない人ほど危ない

「単なる応援のつもりだった」「リポストしただけだった」という言い分では済まないことがあります。ネットの選挙運動も現実と同じく、法律に則った冷静な言動が求められます。

---SNSという気軽な媒体だからこそ、発信には充分気をつけるべきなのですね。ありがとうございます。

SNS時代の選挙と法のバランスを考える

ネット選挙運動が一般化し、誰もが発信者となれる今、公職選挙法との“すれ違い”が起こりやすくなっています。

とくに「切り抜き動画」やリポストといった手軽な行為が、違法行為に転じるリスクをはらんでいることは、広く認識されるべきでしょう。

一方で、表現の自由とのバランス、政治参加の自由の尊重も重要です。選挙の公平性を守りつつ、有権者の意見表明の場としてSNSをどう位置づけるか、今後の制度的検討も求められます。

今こそ、「ルールと自由の共存」を原点に立ち返って考える時ではないでしょうか。

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