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「暑い日でもダメと言われた」小学生の『日傘』は校則違反…熱中症になったら責任はどうなるの?

  • 2025.7.22
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画像:photoAC ※画像はイメージです

真夏日が当たり前となった令和の日本。

小学生が日傘をさして登下校する光景も珍しくなくなり、子ども用日傘の需要が急増しているようです。実際に自治体によっては全児童に日傘を配布する例もある中、学校の「校則」で日傘を禁止するケースが依然として存在しているのが現状です。

SNS上では、「暑い中、日傘を使わせたいのに“校則違反”だからってダメと言われた」「子どもが日傘を持って行ったら”お高くとまってる”と陰口を言われた」など、保護者や生徒の間で疑問と不満の声が上がっています。

はたして、日傘を禁止された結果子どもが熱中症になった場合、その責任の所在はどこにあるのでしょうか?

気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

日傘禁止の校則で熱中症になったら、学校は責任を取るの?

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

---いまだに校則で「日傘は禁止」としている学校もあるようですが、もしそのような校則のもと、登下校中に児童・生徒が熱中症になった場合、学校側に責任はないのでしょうか?

状況によっては、学校に法的責任が認められる可能性があります。

特に、現代の異常気象(猛暑)という“予見可能な危険”を無視した校則運用が原因で、児童・生徒に健康被害が生じた場合には、学校の安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われることがあります。

(1)学校には「安全配慮義務」がある

民法や教育基本法の解釈上、学校(教師・運営者)は児童・生徒に対して、心身の安全を確保する義務(=安全配慮義務)を負っています。具体的には、次のような義務です。

  • 気象条件や体調に配慮した対応を取ること
  • 熱中症などの予防策を講じること
  • 社会通念に反しない柔軟な指導を行うこと

(2)「校則だから」は通用しない

校則は学校運営における一定のルールですが、それが生徒の生命・健康を損なう可能性がある場合には、「合理性を欠く」として違法性が認定される可能性があります。

---必ずしも校則が正しいという訳ではないのですね。どのような状況だと違法性が認定されるのでしょうか。

たとえば次のような状況では、学校の責任が問われやすくなります:

  • 猛暑日(気温35度以上)で、保護者や生徒から日傘使用の要望があったのに拒否した
  • 日傘以外に十分な熱中症対策(登下校中の帽子、水分補給、通学時間の調整等)を講じていない
  • 過去にも熱中症事例があったのに校則を見直していない

生徒が熱中症になることが予見できたのに放置したと評価されれば、過失が認定される可能性が高まります。

(3)実際に損害賠償が認められるには?

損害賠償請求が法的に認められるには、主に以下の要件が必要です。

  • 熱中症発症と校則(日傘禁止)との間に因果関係があること
  • 学校側に過失(=配慮の欠如)があること
  • 生徒側に著しい過失がないこと(例:医師の指示を無視するなど)

また、保護者側が熱中症リスクを学校に事前に知らせていた場合などは、学校の責任がより強く問われます。

日傘を没収する行為は違法?

 

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出典:photoAC(写真はイメージです)

---「校則で禁止されているから」という理由で、教員が真夏に日傘を没収する行為(のちに保護者に返却する)は、違法ではないのでしょうか?

状況によっては、違法行為(権限の逸脱・安全配慮義務違反)に該当する可能性があります。

学校には指導の一環として「一定の懲戒権」や「物の一時的な保管権限」がありますが、それが生徒の生命・身体の安全を害する結果につながった場合には、 正当な職務権限の範囲を逸脱した違法行為と評価される可能性があります。

(1)教員の指導は万能ではない

学校教育法第11条では、教員は「児童・生徒に対して懲戒を加えることができる」とされていますが、この懲戒には次のような制限があります:

  • 教育上相当な理由があること
  • 社会通念上、相当な方法・態様であること
  • 生徒の基本的人権(身体の安全など)を不当に制限しないこと

真夏の炎天下に熱中症のリスクが高い状況で日傘を取り上げる行為は、「生徒の健康を危険にさらす」点で明らかに相当性を欠く可能性があります。

(2)一時的な保管でも問題が残る

教員が「違反物品の一時保管」として日傘を没収し、のちに保護者に返却したとしても、次のような問題が指摘されます。

  • 安全配慮義務の軽視:真夏に日傘を取り上げたことにより、生徒が熱中症になるリスクを放置したといえます。
  • 目的手段の不均衡:「規律指導」のために「健康を損なうリスク」を取らせたことは過剰対応と評価される可能性があります。
  • 保護者の同意なし:私物の一時没収には慎重な運用が必要で、原則として保護者の同意が望まれます。

(3)損害が発生すれば「不法行為責任」に発展する可能性も

もし実際にその生徒が熱中症で体調を崩した、通院が必要になった、学業や生活に支障が出たといった具体的な損害が生じれば、学校や教員個人に対して、不法行為責任(過失によって他人に損害を与えた場合の賠償義務・民法709条)、公立学校における行政責任(地方自治法第1条の2・第244条等)が追及される可能性もあります。

訴えても流される…健康を害する校則を変えるには?

---日傘だけでなく、日焼け止め、ラッシュガード、真夏日の登下校中に自動販売機で水を購入することなどが校則で禁止されている学校もあるようです。このような『健康を害する校則』を変えるにはどのような方法が最適でしょうか?

まずは学校内での対話と要望提出から始め、必要に応じて保護者・教育委員会・第三者機関を巻き込むことが最適です。

校則は法令ではなく、学校が定める内部規則です。社会情勢や医学的知見の変化に応じて見直されるべきものであり、変える余地は十分にあります。

(1)校則は「絶対」ではない

校則は、あくまで学校内での秩序維持のための規則であり、法律ではありません。

裁判例でも「社会通念に照らして合理性を欠く校則」は無効と評価される可能性があるとされており、学校側にも見直す責任があります。

(2) 最適な校則見直しのステップ

校則を見直すための最適なステップは以下のとおりです。

1.生徒・保護者からの要望を記録を残して伝える
まずは担任や学年主任などに、文書やメールで要望を伝えましょう。このとき、単なる不満ではなく、「健康被害の可能性」や「医学的・科学的根拠」を添えるのが効果的です。たとえば、「気温35℃以上の日に水分補給を禁止することは、熱中症リスクを高めると環境省も警告しています」などと伝えると効果的です。

2.保護者と協力してPTAや学校運営協議会に意見提出
PTAや「学校運営協議会(コミュニティ・スクール)」などを通じて、制度的な見直しの提案をすることができます。保護者の意見は学校側にとって無視できない力になります。

3.教育委員会に相談・報告する
学校内で取り合ってもらえない場合は、市区町村や都道府県の教育委員会へ相談するのも有効です。教育委員会には、児童生徒の学習環境や健康管理に関する監督権限があります。

4.児童・生徒の「人権相談窓口」や第三者機関の活用
文部科学省や法務省などの子どもの人権110番や各地の教育相談窓口でも、生徒の立場から匿名で相談できます。

(3)対立的にならず、あくまで「建設的な対話」が大切

校則を見直す際、学校側と対立的になると話が進みにくくなります。あくまで「生徒の健康と命を守るための改善提案」であることを明確にし、冷静かつ事実に基づいた要望を伝えることが大切です。

---「校則」であっても適切な行動を取れば変えることができるのですね。ありがとうございます。

日傘は“自由”か“贅沢”かではない、命を守る道具だ

日傘をめぐる議論は、単なるファッションやルールの問題ではありません。それは、猛暑という新たな環境下で「子どもの命と健康をどう守るか」という、教育現場に突きつけられた深刻な課題です。

「校則だから」「前例がないから」という言葉で、命を守る手段を排除してよいのか。そして、熱中症という“予見可能な危険”を放置した結果に、学校はどこまで責任を負うべきか。法律は、児童・生徒の心身の安全に対して、学校に明確な安全配慮義務を課しています。

一方で、保護者や生徒にも、自らの健康や尊厳を守るために声を上げる権利と責任があります。

つまり、これは「誰かが一方的に悪い」という問題ではなく、すべての大人たちが共に考え、見直し、動いていくべき課題なのです。

校則は時代とともに変わるべきもの。

今こそ、「子どもの命を守る校則とは何か」を原点に立ち返って考える時ではないでしょうか。

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