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「職場での私用スマホ充電は窃盗罪?」意外と知らない“落とし穴”を弁護士に聞いてみた

  • 2025.7.20
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

仕事中に私用のスマホのバッテリーが切れそうになったとき、つい職場のコンセントで充電してしまう…そんな経験はありませんか?

裁判所職員が、およそ2年間にわたり私用のスマホや自宅の掃除機のバッテリーを職場のコンセントで充電したとして、懲戒処分とされたと報じられ、話題になりました。

はたして、職場での私用スマホ充電は違法行為なのでしょうか?気になる疑問について、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

意外と知らない法的リスク!職場での私用スマホ充電の実態

先述の裁判所職員のケースでは、充電のほかにも、業務で知った事件関係者の電話番号に業務とは関係のない電話をかけたり、通勤手当の不正受給をしていたりといったこともあっての懲戒処分とのことですが、「職場での私用スマホの充電」という点において、法に抵触する可能性はあるのでしょうか?

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

---職場で私用のスマホの充電をすることは、どういった法律に違反するのでしょうか?

職場で私用のスマホを充電する行為は、場合によって「窃盗罪」(刑法235条)に該当する可能性があります。

刑法第235条(窃盗)によれば、他人の財物を窃取した者は、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。そして、電気は、刑法245条により「財物」とみなされるため、私用目的で会社の電気(電源)を無断で使えば、「財物の窃取」と見なされ、形式的には「窃盗罪」が成立し得ます。

ただし、実際にスマホ1台分の充電にかかる電気代は数円程度とごくわずかであるため、処罰の対象となるケースは非常にまれです。しかし、会社のルールや就業規則で「私用電源の使用禁止」が明記されていれば、規律違反として懲戒処分の対象になることもあります。

---「職場から私用のスマホに連絡がくることがある」という場合も職場で私用のスマホの充電をすることは違法なのでしょうか?

職場から私用スマホに連絡が来ることがある場合でも、無断で充電すれば、原則として、違法となる可能性は残ります。ただし、会社が業務上私用スマホの利用を一定程度期待・黙認している場合は、「許可された使用」と解釈される可能性があります。

---「許可された使用」と解釈されるのはどのような場合でしょうか?

具体的には以下のように考えることとなるでしょう。

会社が私用スマホを業務連絡に日常的に使っているような場合には、充電も黙認される可能性が高く、違法性は低いといえます。

しかし、業務連絡が稀で、会社が私用スマホの利用を認めていない場合には、充電は無断使用とされ、窃盗罪の構成要件を満たす可能性があります。

また、先ほども述べたように、就業規則で私用電源使用が明確に禁止されている場合には、たとえ業務連絡が来ても、充電はルール違反・懲戒対象となる可能性があります。

業務で自分の電話を使うのであれば、上司に確認・申請しておくことがベストです。

「業務上必要な連絡のためにスマホを使っています。そのため充電させてください」と伝えておくことで、黙認から明示的な許可に変わり、リスクを減らすことができるでしょう。

私用のスマホで業務をさせられる場合はどうなる?

 

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出典:Photo AC ※画像はイメージです

---一方、仕事用のスマホは支給されておらず仕事で私用のスマホを使わなければいけないという会社もありますが、これは法的に問題ないのでしょうか?

会社が仕事用のスマホを支給せず、私用スマホの使用を当然のように求める場合、その取り扱いには法的な問題が生じ得ます。以下に詳しく説明します。

(1)法的観点からのポイント

1、労働契約上の義務との関係 労働契約において、従業員の私物を業務に使う義務までは通常含まれていません。したがって、会社が明示的な取り決めや説明なく、「当然使え」「使って当たり前」といった対応を取ると、使用を強制することとなり、法的に問題となる可能性があります。

2、使用負担・費用の問題 私用スマホを業務に使うと、以下のような費用や負担が個人に発生します:

  • 通信費(通話・データ通信)
  • バッテリーや本体の劣化
  • セキュリティリスク(個人情報・業務情報の混在)

これらについて会社が補償していない場合、労働者に対して一方的な負担を強いているとして、違法性を問われる可能性があります。

(2)実務上の注意点(企業側の義務)

会社が私用スマホの業務利用を求める場合は、労使間での合意(就業規則・同意書など)を事前に行い、費用負担の補償(手当支給、通信費精算など)をすること、そして、業務と私用の明確な区分をさせること(アプリの導入等)が必要です。

これらがなされていない場合、トラブルや法的リスクの原因となります。

---なるほど、私用スマホを業務で使用させるには、同意を得ること、費用負担を補償することなどが必要なのですね。ありがとうございます。

職場での私用スマホ充電、適切な対処法とは

職場での私用スマホ充電は、状況によっては窃盗罪に問われる可能性があるということが分かりました。数円程度の電気代でも、法的には「財物の窃取」に該当し得るのです。

一方で、会社が私用スマホを業務に使うことを求めながら、充電すら認めないという状況も問題があります。業務での利用が常態化している場合、上司に事前確認を取ることでリスクを大幅に軽減できるでしょう。

最も大切なのは、会社と従業員双方が明確なルールを設け、同意を取ることです。就業規則の確認や、業務でのスマホ使用に関する取り決めを事前に行うことで、不要なトラブルを避けることができます。

何気なく行っている職場での充電も、法的な観点から見ると意外と複雑な問題。まずは自分の職場のルールを確認し、必要に応じて上司に相談してみることから始めてみてはいかがでしょうか。

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