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「触らないで!」介護を拒否する認知症女性が唯一心を開いた相手…別れの“思わぬ贈り物”に「今でも忘れられません」

  • 2025.7.16
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

介護の現場では、利用者さんとの信頼関係が大切です。心の扉を開いてもらうまでに時間がかかることも珍しくありません。しかし、時として予想もしない形で深い絆が生まれることがあります。

今回は、介護士歴15年、施設長の経験もある現役ケアマネジャーのAさん(仮名)が語る、デイサービスでの心を開いてくれた利用者さんとの忘れられないエピソードを紹介します。

たった一人だけに心を許してくれた利用者さん

デイサービスを利用されていた、80代前半の女性・Bさんの話です。

Bさんは認知症があり、デイサービスに通うことを強く拒んでいました。しかし、ご自宅ではまったくお風呂に入れず「デイサービスでお風呂に入れてほしい」というご家族の希望から、ご利用が始まりました。

もともと行きたくなかっただけに、初日から対応は大変でした。入浴拒否は想像以上に強く、脱衣所に行くのにひと苦労。スタッフ数人がかりで、何とか服を脱がせようとしても、Bさんは「触らないで!」と激しく抵抗されます。もう15年ほど前の話です、今ならこの対応は問題になっているでしょう。

また、トイレの介助でさえ、服に手を触れることも許してもらえませんでした。

ところが、不思議なことに、Bさんは私にだけは心を許してくれたのです。おそらく、初日の送迎車の中で何気ない会話をしたからでしょう。少しだけ、私に対して親近感を持ってくれたのかもしれません。

私が「お風呂、気持ちいいですよ。一緒に行きましょうか」と声をかけると、すんなりとうなずいてくれました。私が担当する日だけは、トイレもお風呂もスムーズに介助できたのです。

ある日、送迎でご自宅へお送りした際、黒飴を「箱」で渡されました。もちろん丁重にお断りしましたが、あれほど大きな感謝の気持ちをいただいたのは、後にも先にもあの日だけです。

当時の管理者からは「Aさんだけが介助できる状態ではダメだ。他のスタッフでも対応できるように」と指導され、何度も交代を試みましたが、結局できませんでした。Bさんはその後、体調を崩して入院、特別養護老人ホーム(特養)へ入所されたと聞きました。

他のスタッフにとっては、難しい方だったかもしれません。しかし、私にとっては、記憶に残る利用者さんです。

信頼関係の深さを物語る黒飴の重み

Bさんとの関わりは、介護現場における信頼関係の大切さを改めて教えてくれます。

箱いっぱいの黒飴は、言葉では表現できない深い感謝の気持ちの表れだったのでしょう。管理者からは他のスタッフでも対応できるようにと指導されましたが、人と人との関係には、マニュアル通りにはいかない部分があることも事実です。

信頼関係は一朝一夕で築けるものではありませんが、たった一つのきっかけが大きな変化を生むことがあります。介護の現場では、そうした積み重ねが支援の質につながっていくのかもしれませんね。


《取材協力》
現役介護士・Aさん
2010年に介護業界に入り、デイサービスやグループホームの管理者や施設長を経験。現在は、居宅介護支援事業所でケアマネジャーとして勤務中。これまでに、多くのスタッフや利用者さんと関わってきた。