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80代男性「そんなに急かす風呂屋があるか!」デイサービス利用者が作った“伝説”に苦笑「こんな例は初めてです」

  • 2025.7.8
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

認知症を患う高齢者の介護現場では、時として予想を超える出来事が起こります。職人気質で頑固一徹な性格の方との関わりは、スタッフにとって大きな挑戦となることも少なくありません。

今回は、介護士歴15年、施設長の経験もある現役介護士のAさんが語る、デイサービスでの忘れられない「職人気質の利用者さん」エピソードをご紹介します。

銭湯のつもりで20分入浴…元植木職人が作った「伝説」

80代前半の男性で、元植木職人のBさんという利用者さんがいました。

職人気質なのか、一度決めたことは絶対に曲げないという、強いこだわりをお持ちの方でした。奥様と一緒にデイサービスを利用されており、ご夫婦ともに軽度の認知症がありました。

Bさんは、デイサービスご利用初日から伝説を作っています。

なんと、スタッフがご案内するより先に、いつの間にか、ご自身でお湯を張って入浴してしまったのです。

ケアマネジャー(介護支援専門員)さんから「ご本人は銭湯へ行くつもりでいる」とは聞いていましたが、後にも先にも、このようなことをされたのはこの利用者さんだけでした。

その後も「長風呂」は日常茶飯事。私のデイサービスでは、健康を考慮して、浴槽に浸かるのは5〜10分というルールがあります。ですが、Bさんは、20分くらいは湯船に浸かっていました。

スタッフが「しんどくなるといけないので、そろそろ出ましょう」と声をかけても、「風邪を引いたら、お前らは責任とれるのか?」「こんなに急かす風呂屋は聞いたことがない」となかなか出てくれませんでした。

ある日「帰る」と言い出して…

そんなことがありながらも、何とかデイサービスには機嫌よく通っていただいていました。しかし、ある日、事件が起こります。デイサービス中にBさんが「もう帰る」と突然施設の外へ出て行かれたのです。

職員も追いかけて行ったのですが、本人は花壇につまずいて転倒。顔面を強打して出血し、救急搬送されました。幸い大事には至らず、翌日には何事もなかったように通所され、「昨日のこと?覚えてへんわ」とケロッとしていました。これにはスタッフ全員、苦笑いでした。

その後、ご自宅での生活が難しくなり施設入所されましたが、他の利用者さんとのトラブルが絶えず、最終的には対応可能な病院へ転院されたと聞いています。

職人気質との向き合い方

20分の長風呂も、かつては職人として一日の疲れを癒やす大切な時間だったのかもしれません。

しかし、施設のルールと利用者の個性のバランスを取ることは、介護現場の永遠の課題でもあります。安全を最優先にしながらも、その人らしさを尊重するという難しい判断が日々求められます。

困難な状況でも、利用者さん一人ひとりの個性と向き合い続けるAさんたちの姿勢は、真の介護の在り方を示しているといえそうですね。


《取材協力》
現役介護士・Aさん
2010年に介護業界に入り、デイサービスやグループホームの管理者や施設長を経験。現在は、居宅介護支援事業所でケアマネジャーとして勤務中。これまでに、多くのスタッフや利用者さんと関わってきた。