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「ちゃんと押さえなさい!」元校長先生の利用者から飛ぶ“指導”に介護士たちも悪戦苦闘…!デイサービスでの「生きがい」とは?

  • 2025.7.9
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出典:Photo AC ※画像はイメージです

高齢者の生きがいを支えることは、医療・介護現場の重要な使命の一つです。しかし、時にはその支援が想像以上に大変な「戦い」となることもあります。

今回は、介護士歴15年、施設長の経験もある現役介護士のAさんが語る、デイサービスでの印象深い体験談をご紹介します。

元校長先生の書道は「戦い」だった

80代後半の女性で、元教師という利用者さんがいました。校長先生まで勤め上げた経歴があり、いつも「凛とした」気品を持った方で、プライドが高い方でした。

車椅子を使用している方で、自宅では入浴できないため、デイサービスを利用されていました。

スタッフに対しては、まるで生徒を叱責するかのように「そんなことでどうするの」「これをこうしなさい」と指導が入ります。いつも気合いいっぱいで、お腹の底から声を出す姿は、まさに「先生」でした。

その利用者さんの生きがいは「書道」。車椅子を使用している方なので、道具のスタンバイ(準備)は、スタッフが行います。

ですが、私たちが用意しなければならないのは、普通の半紙ではありません。なんと1メートルを超える用紙でした。彼女はその大きな紙いっぱいに、作品を書き上げるのが「生きがい」なのです。

作品作りの時間は、スタッフにとっても「戦い」でした。利用者さんが筆を走らせる間、紙がずれないように必死に押さえなければなりません。ちょっとでも気を抜くと、「ちゃんと押さえなさい!」と、お叱りが飛んできます。

しかも、午前中の忙しい時間に行うので、デイサービスの業務は「てんてこまい」でした。大変でしたが、毎回見事な作品が完成。それを誇らしげに掲げる彼女の笑顔を見ると、私たちの苦労も報われる思いでした。壁に飾られた作品は、施設の自慢です。

一方、ご自宅では、ご家族との関係性は良くなかった様子でした。ケアマネジャー(介護支援専門員)さんによると、自宅ではほとんど会話がなかったとのこと。

やがて彼女は体調を崩し、大好きだった書道もできなくなり、施設へと移られました。今となっては、檄を飛ばされながら紙を押さえた日々も、貴重な経験です。

尊厳を支える介護の真髄 - 厳しさの向こうにある深い愛情

1メートルを超える用紙に作品を書き上げる時間は、スタッフにとっては「戦い」だったとのことですが、同時に、厳しい指導を受けながらも、完成した作品を誇らしげに掲げる姿を見ることで、スタッフの皆さんは介護の真の意味を感じ取っていたのでしょう。

こちらのデイサービスの場が、利用者さんにとって自分らしさを表現できる貴重な場所となっていたことも印象的です。介護現場では、利用者さんの身体的なケアだけでなく、その人らしい生活や生きがいを支えることが重要なのですね。

Aさんにとって「檄を飛ばされながら紙を押さえた日々」は、介護士としての貴重な経験となったようです。利用者さんの人生に寄り添い、その人らしさを支える介護の深さを教えてくれるエピソードでした。


《取材協力》
現役介護士・Aさん
2010年に介護業界に入り、デイサービスやグループホームの管理者や施設長を経験。現在は、居宅介護支援事業所でケアマネジャーとして勤務中。これまでに、多くのスタッフや利用者さんと関わってきた。