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なぜ『三人夫婦』のドラマ制作に至ったのか “普通じゃない”を描いたプロデューサー・箱森菜々花が語るウラ側【最終回目前】

  • 2025.6.16

恋愛にも結婚にも“多様性”という言葉が定着しつつあるいま、テレビドラマの世界でもその潮流は着実に広がっている。そんななか異彩を放ったのが、3人で夫婦になるという型破りな設定のラブコメ『三人夫婦』だ。一歩間違えれば突飛にも見えかねないこの設定を、「ほっこりして笑える」作品として丁寧に描き切ったのが、プロデューサー・箱森菜々花(AOI Pro.)。インタビューでは、企画誕生の背景から、制作現場での挑戦、そしてキャストへの思いまでを伺った。

なぜ“三人で夫婦”を描こうと思ったのか?

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(C)「三人夫婦」製作委員会

「最近のドラマって、“不倫”や“復讐”のような強いテーマが多いですよね。でも、あえて“ほっこり笑えるラブストーリー”をやることって、いまだからこそ新鮮なんじゃないかと思ったんです」そう語る箱森さんが描きたかったのは、ギスギスしない人間関係のなかで育まれる、やさしい愛情の物語だった。現代社会では「恋愛=刺激」や「愛=苦しみ」といった極端な描写が求められる風潮もある。そんななかで『三人夫婦』が目指したのは「観終わったあと、心があったかくなるようなドラマ」だった。

「明るくて笑えるけど、実はすごく攻めている。そういう二重構造を意識しました。視聴者のなかにある“こうあるべき”といった常識や固定観念を、そっとほぐせたらと思ったんです」

「一対一」に限らないパートナーシップを描くことで、視聴者に「こんな生き方もあるかもしれない」と思ってもらえるような余白を持たせたかったという。

「人って、恋愛や結婚について、それぞれに理想や枠組みがあるじゃないですか。でも実際は、誰かと一緒に生きる営みには、もっといろいろな形があるはず。実際には“三人で結婚”なんてありえない! って声もあると思います。でも、“本当に大事に思える人が複数いたら?”とか、“形にとらわれず関係性を選べたら?”って、ちょっと想像してもらえるだけで、人生の選択肢って広がる気がするんです」

一見突飛に思える設定も、人物の感情や行動を丁寧に描くことで、リアリティを持たせていった。それが『三人夫婦』が“絵空事”にならなかった理由だ。

絶妙なバランスを実現させた、3人のメインキャスト

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(C)「三人夫婦」製作委員会

メインの主要キャストである三津田拓三(浅香航大)、矢野口美愛(朝倉あき)、里村新平(鈴木大河)をどう選んだのか。そのキャスティングにも、作品全体を支える大きな意図があった。

「まず美愛は、“同性が共感できる30代女性”である要素が必須でした。恋愛にも仕事にも少し疲れているけれど、どこかあったかくて、見ていて応援したくなるような存在。リアリティのある空気を持った役者さんを探していました」演じた朝倉あきさんについて、箱森さんは「初めてお会いしたときに、この方は女性に嫌われないタイプだと感じた」と振り返る。柔らかさと真面目さ、少し天然な一面が絶妙に混ざり合い、美愛にぴったりだったという。

「視聴者から彼女に対する批判がまったくなかったのも印象的でした。2人の男性に好かれる設定だから不安もあったのですが、彼女の空気感がすべてを納得させてくれたと思います」堅物な拓三役には、これまでクールな印象が強い浅香航大さんが抜擢された。「真面目さのなかにも可愛らしさがある。三人夫婦の関係性において、“追い出さずに受け入れてしまう”優しさが必要で、浅香さんはそのニュアンスを自然に表現してくれました」

そして、“わんこ系男子”の新平を演じたのは鈴木大河さん。「彼はとても真面目で、舞台『キングダム』での印象も素晴らしかった。グループのなかでは控えめで面倒見の良いタイプな彼が、自分自身とは少し違う役柄に挑戦することによって、ギャップのある魅力が生まれました。結果的に自由に伸び伸びと演じてくれて、本当に感謝しています」

また、三人の関係性が“無理なく見える”ことも大きなポイントだった。「この三人なら、“ちょっと変わってるけど、ありえるかも!”と思ってもらえる、絶妙なバランスがあったんです。わちゃわちゃしていても成立する空気感を大切にしました」

撮影が進むなかで三人の掛け合いはどんどん自然になっていき、脚本以上にキャラクターの魅力が広がっていったという。「熊坂出監督も“台本はあくまできっかけ”と捉えていて、現場でのやりとりを大切にしていました。言葉の響き合いや微妙なニュアンスが、三人の関係性をより豊かにしてくれたと思います」

視聴者に届けたいのは、“生き方の選択肢”

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(C)「三人夫婦」製作委員会

“普通じゃない”愛の形を、軽やかに描いた『三人夫婦』。箱森さんがこの作品を通じて伝えたかったのは、「いまの自分のままで、大丈夫だよ」というメッセージだった。“結婚しなきゃ”とか、“恋愛してない私は変”とか、そういうプレッシャーって、知らず知らずのうちに自分を縛っていると思うんです。そういう呪いを、少しでも解いてあげられたら。『三人夫婦』が、そのきっかけになってくれたら嬉しいですね」

恋愛にも人生にも“正解”はない。だからこそ、ドラマが描くフィクションが、現実の私たちに新しい風を吹き込んでくれる。『三人夫婦』は、そんな“やさしい異端”として、きっと多くの人の心に残るだろう。


TBSドラマストリーム『三人夫婦』毎週火曜 深夜0:58~ ※一部地域をのぞく
【TVer】1話と最新話 無料配信中
https://tver.jp/series/sr60s0sczr

【最終回予告】
https://www.youtube.com/watch?v=NUSTRO5f314&list=PLCUNF--_h4Oz8cE55Yp9GmCDYuviAktQm&index=1

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧:Twitter):@yuu_uu_