1. トップ
  2. 「嘘でしょ!先生、指示出さずに帰った!?」現場を振り回す「ものぐさ医師」に看護師たち阿鼻叫喚

「嘘でしょ!先生、指示出さずに帰った!?」現場を振り回す「ものぐさ医師」に看護師たち阿鼻叫喚

  • 2025.6.28
undefined
出典:Photo AC ※画像はイメージです

皆さま、こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

突然ですが、こんな経験はありませんか?「誰かがやっていないせいで、帰れない」!それが、仕方のない理由ではなく、職場のルールのせいだったり、チームの一員のせいだったりすると、なおさらモヤモヤするのではないでしょうか。

今回は、ある「記録しない医師」との関わりから見えた、現場のリアルと葛藤についてご紹介します。

「まだ指示出てないの…?」電子カルテが空っぽだった夕方

これは、私が以前勤めていた精神科専門病院での出来事です。

その病院には、診察後に記録を残さず、指示も出さないまま帰ってしまう医師がいました。勤務態度にムラがあり、「記録漏れが多い」と以前から噂されていた40代後半の男性医師、A先生です。

その日の午後に入院してきた70代女性の患者Bさんも、A先生が診察しました。

入院の手続きは終わり、付き添いのご家族も帰宅し本人を病室まで案内。夕方の申し送りもひと段落し、日勤看護師たちは帰りの準備を始めていました。

ところが、カルテを見ていた同僚の看護師が、

「えっ、ちょっと待って…Bさん、指示入ってない」

と、小さく声を上げたのです。

私たちはすぐに電子カルテを開いて確認しましたが、どこを見ても指示の記載がありません。

薬のオーダーも、点滴も、食事指示も…。何も入ってないじゃん」と同僚の看護師が顔をしかめます。

「え、嘘でしょ?A先生、帰ったって言ってなかった?」「A先生に電話かけたけど繋がらないから帰ってると思う」

看護師は、医師の指示なしには動けません。抗精神病薬をどうするのか、点滴は必要なのか、食事の有無や内容は…?それを判断するのは医師だけです。

つまりこの状況では、私たちは患者さんの前にいながら、何もできないのです。

「申し送りもできないじゃん…」「え、これ、どうするの」

ナースステーションには沈黙と、重たい空気が漂い始めました。

当直医も「急変対応中で、ちょっと待ってて…」

A先生には連絡が取れなかったため、仕方なく当直医に連絡を入れました。

「先生、お忙しいところ申し訳ありませんが、本日午後に緊急入院してきた患者さんなんですけど…入院時の指示の記載が」

状況を報告しようと話している最中に、

今、急変対応中で…終わったら行くけど、ちょっと待ってて」と返答がありました。

電話越しの声は申し訳なさそうで、それ以上求めることはできませんでした。

当直医は1人で、複数の命に同時に向き合っており、たかが「記録が入っていない」程度の依頼が、後回しにになるのも無理はありません。とはいえ、入院したばかりの患者さんに指示が何も出ていない状況は「たかが」では済まされないのです。

私たちは患者さんのすぐそばにいながら、何もできない状態でした。

病室では、Bさんが不安そうにベッドの上で身を縮めていました。

ここ…家じゃないのよね。なんで?まだ、夕食も食べてなくて。薬は飲まなくていいの?今日はもう寝ちゃっていいの?

その言葉に私は「ちょっとお待ちくださいね。今確認してます」と笑顔を向けていましたが、心の中では焦りと苛立ちが混ざり合います。

看護というより、ただ時間をやり過ごすしかできない無力感がそこにはありました。

何もできないまま1時間が経ち…

そして約1時間後、当直医がナースステーションに現れて、「お待たせしました。入院患者の指示が出てないって聞いたんだけど」と、カルテを開きながらその当直医は迅速に最低限の指示を入力し、患者さんのもとにも同行してくれました。

「先生、まだご飯も食べてなくて。私はこのままどうしたらいいですか」と不安そうなBさんを前に、

心配いらないですよ。今日はここでゆっくり休んでくださいね」と優しく声をかけてくれました。

その後は夜勤看護師が夕食を配膳し、内服後Bさんは入眠しました。

当直医が対応するまで何もできないこと、そして「本来やるべきだった指示」は、今ごろ帰宅している診察医であるA先生が果たすべき役割のはずでした。

ただでさえ人手が限られた夜勤の現場で、誰かのやり残したが、連鎖的に誰かの仕事を圧迫していきます。

それは、誰か1人が悪いのではなく、「誰も責任を問えない構造」が問題だと実感しました。

実は「いつものこと」だった…”言えない空気”の正体

実は、A先生が「記録を残さずに帰る」のは、今回が初めてではありませんでした。むしろ、いつものこと。ナースステーションでも、「またA先生か」と、もはや驚く人すらいない状況です。

だからといって、それが許されていいわけではありません。

毎回、誰かが見えないところでフォローして、現場を回しています。その「誰か」は、夜勤の看護師や当直医、翌朝早出できたスタッフだったりします。

そうやって、どこにも記録されない「誰かの善意」に支えられながら、現場は成り立っていることが多いです。しかしそれは、当然のことでも、美しいチームワークでもなく、ただの負の押しつけ合いに近いのかもしれません。

そんなの直接言えばいいじゃん」そう思う人もいるでしょう。

しかし、現場ではそう簡単に言えないのが本音です。医師と看護師の間にはいまだに残る「暗黙の上下関係」があります。

とくに、ベテランの医師や、もともと気難しいと噂されている医師に対しては、若手の看護師が物申すのは、かなり勇気がいることです。

「指示が入っていません」その一言ですら、タイミングを間違えればピリついた空気が流れます。言い方、伝え方、相手の機嫌や立場…すべてに神経を使いながら、それでも何とか伝えなければならないのです。

本当の「チーム」と「連携」って何?責任を共有できているのか

「チーム医療」や「多職種連携」という言葉は医療の現場でよく聞きます。でも誰かが責任を果たさないまま、他の誰かが黙ってカバーをしているだけでは、本当のチームとは言えません。

記録を残すことは、ただの作業ではなく「患者さんの命を守ること」に加えて「現場のスタッフの心を守ること」にもつながる行動です。

記録をしない医師にとっては、少しの手間の削減かもしれません。しかしその影響で看護師が退勤できない、医療処置が遅れる、患者さんが不安な夜を過ごすと言うように、負の連鎖が起きている実情があります。

働き方改革が求められる今、医師、看護師、他職種すべてが「当たり前をきちんとやる」ことの大切さを、もう一度見直す必要があるのかもしれません。

ほんの少しの心がけがみんなの負担を減らすことにつながり、それが当たり前になれば、現場はもっと明るく働きやすくなるはずです。

あなたの職場でも、似たような光景はありませんか?

「言えない空気」が当たり前になってしまった場所に、少しでも風が通るようにと願いを込めて、今回の体験を共有しました。



ライター:こてゆき
精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事精神科で身に付けたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。