1986年、日本の夏は、トレンディドラマとともにあった
「39年前の夏、どんなドラマに夢中になっていたか覚えてる?」
1986年といえば、音楽では中森明菜、チェッカーズ、少年隊が大ヒットし、映画では『天空の城ラピュタ』が公開。ファミコンブームは続き、バブル経済がじわじわと始まりつつある時代だった。
そんな夏の金曜夜、毎週多くの視聴者がテレビの前に集まっていた。
放送されていたのは、恋と笑いと少しの切なさが詰まった伝説のドラマ——
『男女7人夏物語』。1986年、TBS「金曜ドラマ」枠にて放送スタート。
明石家さんまと大竹しのぶという後に“本物の夫婦”となった2人(のちに離婚)が織りなす、リアルで等身大の恋模様。この作品がなぜ“金曜夜の伝説”となったのか、その理由を振り返ってみよう。
“大人になりきれない大人たち”の恋愛群像劇
『男女7人夏物語』は、都会で働く独身男女7人が出会い、恋愛と友情、そしてちょっとしたすれ違いに揺れながら成長していく姿を描いた群像劇。
さんま演じる主人公・今井良介は、不器用でおしゃべりなツアーコンダクター。一方、大竹しのぶが演じる神崎桃子は、気が強くて自立心が強いフリーライター。
ふとした出会いから始まった2人の関係は、恋人同士でも友達でもない、でも確かに“特別な何か”を感じさせる——そんな微妙な距離感が、多くの視聴者の共感を呼んだ。
7人のキャラクターたちは、決して完璧ではない。それぞれにコンプレックスや悩みを抱えながら、仕事や恋に一生懸命になっている姿は、どこか自分自身を重ねてしまうようなリアルさがあった。
「恋人も、友達も、ただの同僚も、全部が入り混じった関係性」
当時の恋愛ドラマに多かったのは“キラキラした恋”。だが『男女7人夏物語』が描いたのは、もっと泥臭くて、もっと曖昧で、だけど本気の感情だった。
誰が誰を好きなのか、本人ですら分からなくなる瞬間。勢いで始まった恋が、言葉にできない気持ちに変わっていく切なさ。
そして、どこかで傷つくことが分かっていても、やっぱり人を好きになってしまう人間の弱さ——。
このドラマは、そんな“割り切れない恋のリアル”を、明るさとユーモアを交えて描き切った作品だった。
さんまと大竹しのぶの絶妙な掛け合いも注目を集め、実際にのちに結婚…というドラマの枠を超えたエピソードも話題に。
“トレンディドラマの先駆け的存在”とも言える作品
『男女7人夏物語』は、後に続く『東京ラブストーリー』『ロングバケーション』などの“トレンディドラマ”の先駆け的存在とも言われている。
ファッション、仕事、都会的なライフスタイル、そして複雑な人間関係——
1980年代中盤の東京を舞台にしながら、恋愛のあり方や働く大人たちのリアルな生き方を描いた本作は、まさに“時代の空気”そのものだった。
その後、1987年には続編の『男女7人秋物語』も放送され、シリーズとして定着。TBSの金曜ドラマ枠は、当時から人気枠だったが、本シリーズのヒットをきっかけに“都会の大人の恋愛ドラマ”としての印象がさらに強まっていった。
今なお色褪せない、夏の恋の記憶
『男女7人夏物語』が放送されたのは、1986年の夏。
恋愛の形は変わっても、人を好きになるときの気持ち、不器用なまま誰かに惹かれてしまう瞬間は、今も昔も変わらない。
「友達としてずっと一緒にいたいのか、恋人として近づきたいのか——その曖昧さの中で揺れる気持ち」
そんな誰もが経験する“恋と友情のはざま”を、このドラマはとても自然に、でも力強く描いていた。
笑って、泣いて、すれ違って、でも最後に少しだけ前を向く。
『男女7人夏物語』は、そんな一夏のドラマとして、今なお多くの人の心に刻まれている。
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