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「何が起きているのか?」サスペンスなのに殺意不明 香川照之主演・“新日曜ドラマ”が仕掛ける、見えない違和感の正体

  • 2025.4.6
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(撮影/松川李香)

監督集団『5月』が仕掛ける新しい挑戦

このドラマは、サイコサスペンスというジャンルに新たな視点をもたらす作品だ。従来のサスペンスでは、事件が起こり、謎が解かれ、最終的に解決へと向かうのが一般的な流れである。しかし、本作は 「スカッとしない」 というアプローチを意図的に選んでいる。

主演の香川照之も、その特徴をこう語る。

「レクター博士(『羊たちの沈黙』)のような要素もあるし、『ユージュアル・サスペクツ』(1995)を思わせるカットもあります。でも、決定的な解決がないんです」

視聴者によって解釈が分かれるストーリー設計は、今までのサスペンス作品とは一線を画すものだ。「これはなんだったんだ?」とモヤモヤを残す構成 は、まさに5月の監督たちが意図的に仕掛けた新しい挑戦だ。

違和感を作る演出――映像と音の工夫

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(撮影/松川李香)

『災』には、視聴者が 「この作品は何を描いているのか?」と考えさせられる仕掛けが随所に施されている。香川は、作品の受け取られ方についてこう語る。

「なんじゃこりゃ?って思う人もいるし、『これがいい』って思う人もいる。逆に『さっぱりわからない』って感じる人もいれば、『これは僕自身だ』と共感する人もいる。どの解釈も正解なんです」

つまり、本作は観る人によって異なる意味を持つ作品となっている。単に物語の筋を追うのではなく、視聴者自身が意味を見出し、自分なりの結論を導き出すというインタラクティブな視聴体験を提供しているのだ。

『災』の独自性は、ストーリーだけではなく、映像や音の使い方にも表れている。従来のサスペンスなら、殺人シーンや犯人の動機が明確に示される。しかし本作では殺意の正体がわざと曖昧に描かれている。

香川は、撮影時に「このシーンでは何が起きているのか?」と考えながら演じたという。

「普通のサスペンスなら、誰かが刺されたら次のシーンで『ギャー!』ってなる。でも、今回はそうじゃない。『何が起きたのか分からない』まま進んでいくんです」

観客は 「これは事件なのか? 事故なのか? それとも何も起きていないのか?」 という違和感を抱えながら物語を追うことになる。この曖昧さこそが、本作が目指したサスペンスの新しい形だ。

また香川によると、本作では 音楽が「見えない違和感」を生む重要な要素になっているという。

「バイオリンの不協和音や、ピアノの低音がうまく使われています。それが段階的に積み重なって、ある瞬間に『ここかもしれない』って思わせる仕掛けになっているんです」

このような音による不安感の演出 は、従来の日本のドラマにはあまり見られない手法だ。細かく作り込まれた音楽が、視聴者の無意識に働きかけ、物語の緊張感を高めている。

日本の映像作品の未来――「日本でしかできないこと」を考える

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香川は本作を通じて 「日本の映像作品の未来」 についても考えを巡らせたという。

「世界を意識するよりも、日本でしかできないことに立ち返るべきなのかもしれない」

近年、日本の映画やドラマは 「世界に通用する作品」 を目指す傾向が強くなっている。しかし香川は 「日本だからこそできる表現」 を見つめ直すことが、より独自性のある作品を生むのではないかと語る。

「日本特有の空気感、文化、感覚を大切にすることで、おもしろい作品が増えるんじゃないかと思います」

香川照之が挑戦した『災』は、日本の映像作品に新たな可能性を提示する作品となるだろう。この「未解決の違和感」を、あなたはどう感じるだろうか?



ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_