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「当たりだ」キャスティングで“9割勝ち”と確信した深夜ドラマ 元アイドルによる“モンスター”怪演で傑作爆誕か

  • 2025.3.19

佐々木希×渋谷凪咲という意外性バツグンのキャスティングで話題の『地獄の果てまで連れていく』。理不尽に裏切られた紗智子(佐々木希)が、モンスター級のサイコパス・麗奈(渋谷凪咲)に復讐を仕掛ける本作は、シンプルながら中毒性の高いストーリー展開が魅力。

SNSでは「渋谷凪咲の狂気が怖すぎる」「真顔からの笑顔が鳥肌」といった声が続出。単なる復讐劇にとどまらない、新たなスリラーの傑作が誕生した。

衝撃のキャスティングが生んだ最強の復讐劇

(C)「地獄の果てまで連れていく」製作委員会

ドラマを観るとき、あなたは最初にどんなポイントに注目するだろう? 筆者が気になるのはキャスティングだ。どんな役者が、どんな役を演じるのか。それだけで作品の成否が決まると言っても過言ではないと思っている。その点でいうと『地獄の果てまで連れていく』は、キャスティングの時点で9割勝っている

主演は佐々木希と渋谷凪咲。復讐をする側とされる側。その組み合わせを見た瞬間「これは当たりだ」と確信した。

佐々木希は、言わずと知れた美しさと繊細な演技力を兼ね備えた女優。直近では連続ドラマ『アイのない恋人たち』で、影のある女性を演じていたが、本作では復讐に燃える紗智子という役どころ。復讐劇の主人公といえば、感情の爆発が肝になるが、佐々木希の演じる紗智子には、それだけではない人間らしさがある。恨みと怒りに身を焦がしながらも、完全な悪にはなりきれない。その微妙なバランスを見事に表現している。

(C)「地獄の果てまで連れていく」製作委員会

そして、問題は渋谷凪咲だ。

彼女を最初に見たとき、多くの人が「バラエティでよく見る朗らかな子が、サイコパス役?」と驚いたのではないだろうか。しかし、その疑問は、第一話の数分で吹き飛んでしまうだろう。渋谷凪咲演じる麗奈は、まぎれもない「モンスター」だった。

麗奈の恐ろしさは、いわゆる快楽殺人者的なわかりやすい狂気ではない。彼女は、人の心を弄び、笑顔で平然と嘘をつき、相手を都合よく利用しながら、何食わぬ顔で生きている。しかも、それを「わざとらしく」ではなく、ごく自然にやってのけるのだ。これこそが、本作の最大の怖さであり、渋谷凪咲の演技のすごさだ。

SNSでは「真顔からの笑顔が怖すぎる」「狂気に満ちた演技に鳥肌」といった声が飛び交っているが、その感想には完全に同意でしかない。そんな麗奈に復讐しようとする紗智子。二人の緊迫感ある対峙が、ドラマをただの復讐劇ではない、もっと濃密なものにしている。

モンスター麗奈 VS 復讐に燃える紗智子

(C)「地獄の果てまで連れていく」製作委員会

復讐劇の構造として、加害者と被害者の立場は明確に分かれることが多い。しかし『地獄の果てまで連れていく』は、なかなか一筋縄ではいかない。

確かに、紗智子は被害者であり、麗奈は加害者だ。しかし麗奈は単なる悪役と定めるには複雑すぎるキャラクターだし、同じく紗智子もただの復讐者ではない。そこにあるのは、単純な善と悪ではなく、もっと入り組んだ人間の感情である。

紗智子は、麗奈に理不尽な裏切りを受け、地獄のような人生を味わってきた。だから、彼女の復讐は当然のように思える。しかし紗智子の行動を追っていくと、彼女自身がその復讐に飲み込まれていく瞬間がある。復讐心が、やがて「麗奈の魔の手から他の人を守る」という方向に変化していく。その過程が、とても人間臭く、リアルなのだ。

一方、麗奈はどうか。彼女は、いわゆる「意図せず悪に手を染めてしまった人間」ではなく「根っからのモンスター」だ。彼女には罪の意識が欠けている。それどころか、自分の行動を正当化し、利用できるものは何でも利用する。言ってしまえば彼女の行動原理はすべて「自分にとってじゃまで不都合なものを排除するため」に過ぎない。子どもが自分の思うとおりに周囲の大人を動かしたがるのと、似た心理に思える。

こうしたキャラクターの描き方は、非常に巧妙だ。悪役を単なる狂人にしてしまうと、視聴者は「フィクション」として割り切ってしまう。しかし、麗奈にはどこか人間味がある。だからこそ「もしかしたら、こういう人間が本当にいるかもしれない」と感じさせる。そのリアリティが、恐怖を倍増させているのだろう。

渋谷凪咲の演技が、それを完璧に支えている。

また彼女は今クール、もう一つの話題作『私の知らない私』にも出演している。そこでは承認欲求をこじらせた女性を演じているが、麗奈とはまったく違うアプローチのキャラクターだ。つまり渋谷凪咲は、ただのアイドル出身のタレントではなく、確実に「女優」としての道を歩み始めていると言っていい。

これは、ただの復讐劇ではない

復讐劇というジャンルは、人気が高い。しかし、それゆえに似たような展開が多くなりがちだ。「復讐のターゲットが実は過去に壮絶な事情を抱えていた」「復讐者がいつしか加害者になってしまう」など、ある程度のパターンが決まっている。

しかし、本作はその定型さえも崩しにかかっている。

麗奈は、過去に悲しい事情を抱えているわけではない。彼女はただ、自分の欲望のために人を利用し、傷つけるモンスターでしかない。だからこそ紗智子の復讐には、どこか正義が宿る。そして、それを「単純な勧善懲悪」にしない佐々木希の繊細な演技が、ドラマをより深みのあるものにしている。SNSでも「佐々木希を応援したくなる」「渋谷凪咲の演技がヤバすぎる」といった声が飛び交っている。

いったい麗奈はどこまでいってしまうのか? 紗智子の復讐は、どんな結末を迎えるのか?

答えはまだ出ない。でも、それでいい。このドラマは、視聴者を惹きつけ、翻弄し続ける。まさに「クセになるドラマ」なのだ。結末を見届けるまで、この地獄の旅から抜け出せそうにない。



TBS系 ドラマストリーム『地獄の果てまで連れていく』毎週火曜よる11時56分 ※一部地域を除く

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_