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「自分ごとに置き換えて涙が出てくる」イライラ、疲れ、無気力な顔…“ワーママ役”女優、“リアルな表現”に称賛が続出『対岸の家事』

  • 2025.6.4

春ドラマ序盤に話題をさらった『対岸の家事〜これが、私の生きる道!〜』がはやくも最終回を迎える。数多くの子育て世帯の視聴者から共感を集め、あまりにもリアルで切実なストーリーに涙を誘われたという人も多いようだ。

原作を下地にしつつ、丁寧に織り込まれたオリジナル展開が光る

『対岸の家事』は朱野帰子の同名小説を原作とした物語。専業主婦の村上詩穂(多部未華子)が、ひょんなことから出会ったワーママ・長野礼子(江口のりこ)と育休中の官僚・中谷達也(ディーンフジオカ)と知り合い、互いに持つ独特の孤独を埋め合おうとする話だ。専業主婦になったのも、ワーママになることを選んだのも、育休を取ることを決めたのも自分なのに辛くて仕方がない日常に仲間ができ、一筋の光が差したように救われていく。他者との間に一線を引く登場人物たちが、詩穂の言葉に動かされ、誰かの手を取って前を向く過程が描かれている。

物語の後半では、独身キャリアウーマンとしてバリバリ働く女性や、親の介護の必要に迫られた女性、専業主婦を逆恨みする人物なども登場し、さまざまな生き方や価値観をトリアがながらも、最終的には手を取り合うという流れへと導いていった。

何よりもそれぞれの足元に開く「穴」の表現がリアルで切実だ。礼子は周りに謝りながら会社を抜け全力疾走で保育園へお迎えに向かい、家事と育児に追われながら夜に残った仕事をし、寝落ちする日々。中谷は、意思疎通ができない2歳の娘との日常に疲れ、追い詰められている。礼子と中谷の日常からはまるで戦のような雰囲気が漂っており、日々を生き抜く必死さが伝わってくる。

誰よりも共感を集めるワーママ・礼子を演じる江口のりこ

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火曜ドラマ『対岸の家事』第1話より(C)TBS

なかでも視聴者の共感を集めているのが、ワーママの礼子だ。現代は共働き世帯が増え、フルタイム正社員として働きながら子育てをする女性が少なくない時代。日々時間と戦い、家事と育児と仕事をこなし、自分よりも激務の夫に助けを求めても取り合ってもらえない。ましてや家にいない夫には、日常の大変さすら理解してもらえない。礼子のような生活をしている人は多いのだろう。

第1話では、専業主婦をバカにしていた礼子が子どもの発熱で追い込まれたうえに、子どもに部屋の中から鍵を閉められてしまい、「ゲームオーバー」と口にするシーンがある。詩穂にこの窮地を救ってもらうのだが、専業主婦に助けてもらってしまったという負い目でうまく感謝を伝えることもできない。疲れ切っていた礼子は、詩穂の善意が詰まったカレーを不注意で床に落とし、壁にぶちまけてしまう。急いで保育園の準備をして出勤し、子どもの発熱で帰宅、騒ぐ子どもを尻目に家事をこなし、カレーをこぼす。余裕のなさから子どもを叱りつけてしまう。一つ一つの出来事は小さくても、疲れやイライラ、うまくできないと自分を責める気持ちが積み重なり、限界がきてしまう。働きながら子どもを育てた経験のある人なら、誰しも共感してしまうシーンだろう。

江口は、自分を責めながらも周りを羨んでトゲを出してしまう礼子の複雑な感情を巧みに表現している。イライラが募るモノローグの声色はもちろん、無気力な顔つきのなかに怒りと絶望があると分かる繊細な表情の見せ方もとても上手だ。礼子が追い詰められていく過程だけでなく、感情表現までもリアルだからこそ、ここまでの共感を呼んでいるのだろう。

SNSでは、「名言が多すぎる」「自分ごとに置き換えて涙が出てくる」などと、芯を食った内容に絶賛の声が多く集まった。『対岸の家事』は、子育て世代にまっすぐ刺さる傑作に終わったと言えるだろう。


TBS系 火曜ドラマ『対岸の家事』 毎週火曜よる10時

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202