テレビ朝日系木曜9時放送の痛快マネーサスペンス『プライベートバンカー』。主人公は、富裕層を相手に資産管理や資産形成の助言を行うプライベートバンカー・庵野甲一(唐沢寿明)。依頼人のためならなんでもやる庵野の次の依頼人は、資産7000億の大富豪である天宮寺アイナグループの社長・天宮寺丈洋(橋爪功)だった。庵野は、天宮寺の資産をあの手この手で守り抜く。時には、天宮寺家の子どもたちを脅したり、救ったりと、庵野の行動が周りに影響を与えていく。
金を軸に展開するスカッとするサスペンス
庵野は、プライベートバンカーとして、丈洋からの依頼をすべて遂行する存在。これまで、丈洋が愛するだんご屋の再建、丈洋の息子・努(安井順平)の不倫問題、丈洋の孫の養子縁組問題など、次々と解決していった。
注目したいのは、必ずしも天宮寺家の人物たちの味方をしているわけではないということ。努の不倫問題解決の時は、不倫相手の一人・幸絵(恒松祐里)を焚き付け、努が経営する会社の株の所有について主張させた。また、養子縁組問題の時は、丈洋の義理の息子・宏樹(玉木宏)に助言をして宏樹自身が持つスキルを自覚させ、天宮寺アイナグループからの自主退職を宣言させた。大きな物語の動きだけを見ていると、庵野は富裕層の味方をしているのではなく、富裕層に利用された一般市民を救っているように見えるのだ。
しかし、それはストーリー上の話。金銭面で見れば、努が、自身が創設したペーパーカンパニーから自社の株を買い取ること、宏樹に自主退職をさせて退職金を支払う方が、天宮寺家の資産を守ることにつながるのだ。悪どいことをしてきた天宮寺一家の人物たちが、庵野の策略にはまり、大金を払わされながらも会社を守ろうとする姿は、不思議とスカッとさせられる。
弱い者を救っているように見えて、結局は富裕層の資産を守ることにもつながる。どちらにも利益をもらたすように問題を収める姿から、庵野の敏腕さが見てとれる。
実力抜群のメインキャストたち
主人公を演じるのは、唐沢寿明だ。白髪混じりのオールバックと太い黒縁のメガネ、ピシッとしたスーツに黒い傘と、見た目だけでミステリアスな庵野は、どんな時も淡々としており、感情を読ませない凄みがある。そんな庵野が、詐欺や裏金などのスキームを説明するときだけ、なんだか高揚しているように見える。何億という金が動く問題を扱いながらも、庵野自身はゲームのように楽しんでいるということ。まさに、悪魔だ。
庵野の助手・御子柴修を演じるのは、上杉柊平。ドラマ『ミス・ターゲット』や『マル秘の密子さん』などでは、寡黙な人物を演じることが多かった上杉だが、『プライベートバンカー』では、庵野と対比になるように、接しやすい穏やかさを滲ませている。第1話で庵野が救っただんご屋さんの社長・飯田久美子(鈴木保奈美)も庵野の助手の一人。マネー知識のない初心者として、さまざまな失敗を繰り返しており、たびたび見せる庵野や御子柴とのやりとりが微笑ましい。
天宮寺一家のメンバーの多種多様なキャラクターが揃っている。丈洋の妻で副社長・美琴を演じる夏木マリを筆頭に、秘書の伊勢崎を吹越満、努の妻をMEGUMI、丈洋の娘を土屋アンナ、丈洋の次男を吉田ウーロン太が演じている。強い威圧感を放つ人物もいれば、どこか抜けた雰囲気の人物もいるなど、キャラクター豊かな大富豪一家のキャスティングとして、適材適所といえるだろう。各話ゲストも豪華で、どのエピソードも抜け目ない。どこをとっても実力抜群の俳優たちが、『プライベートバンカー』の世界を作り出している。
まだ見えていない裏がありそうな登場人物たち。誰か裏切ることになるのだろうかと、今後の展開にソワソワしてしまう。会社や政治などを舞台に、金を軸に描かれるサスペンスの行く末を見届けたい。
テレビ朝日系『プライベートバンカー』毎週木曜よる9:00~
ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202