1月12日から放送が開始された『ホットスポット』(日本テレビ系)。『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)、『侵入者たちの晩餐』(日本テレビ系)のスタッフが再集結したドラマであり、市川実日子の民放初主演作ということもあって、放送前から注目を集めていた。第1話からその期待に違わない独特の面白さが大きな反響を呼んでいる。
これぞバカリズムな作劇
主人公・清美(市川実日子)は、湖畔にあるホテルでカウンター業務を担当している。清美は、ホテルで働きながら同僚と愚痴を言い合ったり、常連客を観察したり、たまに幼なじみとパフェを食べたりと日常を過ごすシングルマザーだ。
ひょんなことから同僚の高橋(角田晃広)に宇宙人であることを打ち明けられ、幼なじみを巻き込みながら、宇宙人の生態について教えてもらうことに。宇宙人は、人間の能力を強めることしかできず、能力を使ったあとは副作用があるらしい。
ファミレスで、清美、美波(平岩紙)、葉月(鈴木杏)が高橋を囲んで宇宙人の生態について聞く、現実的なのか、SF的なのか分からない不思議なシーンを見ていると「ああ、バカリズムの脚本だ」と思わずにいられなかった。高橋が宇宙人であることに、特に驚くこともなく、「この人変なこと言っているな」という幼なじみたちが出す気まずい空気、聴力を強められることを証明するために高橋が席を外すが、「何話せばいいかわからない」と言って話し出さない様子など、ドラマチックではない作劇がじわじわと笑いを誘う。
ふとした会話、設定の一つ一つが、つながっていく
このスタッフ陣のドラマの面白さは、何よりも伏線の自然さだろう。『ブラッシュアップライフ』では、優等生だった同級生がパイロットになっているというふとした会話が後半のストーリーで回収されたり、第1話で何気なく映った鳩が最終話に繋がっていたりと、注目していない箇所に、自然に伏線が仕込まれていることが多かった。それらが明かされる流れも決して劇的に演出しないものの、主人公に生まれる感情は繊細に表現されており、主演を務めた安藤サクラの演技力に感嘆したのを覚えている。
『ホットスポット』第1話も、前半で笑いどころの一つとして描かれた「清掃スタッフのこずえ(野呂佳代)が、一人旅を発信するSNSをしていること」「高橋が休憩中に大浴場に入ること」が後半に効いてくる構成になっていた。
テレビを盗んだこずえが、自身の正当性を主張するためにシングルマザーであると嘘をつくが、それに対してこずえが独身であることを知っており、実際にシングルマザーとして生きている清美が何を思うのか。清美のなかに生まれた小さな怒りが、丁寧に描かれていた。
また、冒頭で温泉から富士山を眺める父子の姿、温泉に浸かり、鼻の通りがよくなったような反応を見せる高橋、高橋が宇宙人であるという事実から、温泉に宇宙人の副作用を癒す能力があるのでは?と思わせる描写もあった。一つ一つのシーンに笑いを持たせつつ、流れで見ていくことで、新たな事実が浮かび上がってくるのも、やはりこのスタッフ陣ならではといえるだろう。
SNS上では、「女友達同士の無駄に見える会話のリアルさがすごい」「冒頭シーンは、幼少期の高橋さん?」「長期滞在する宿泊客(小日向文世)と冒頭シーンの野間口さんが同じメガネをかけてる!二人とも宇宙人?」など、バカリズム脚本への賛辞と考察が飛び交っている。
毎話、宇宙人がどんな小さな事件を解決するのか、どの俳優が宇宙人なのかなど、考察しがいのある作品になりそうだ。
日本テレビ系 『ホットスポット』毎週日曜よる10時30分
ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202