1. トップ
  2. ただのミステリードラマじゃない…?“驚きの展開へと大転換”を遂げた 藤原竜也主演『全領域異常解決室』

ただのミステリードラマじゃない…?“驚きの展開へと大転換”を遂げた 藤原竜也主演『全領域異常解決室』

  • 2024.11.27
undefined
(C)SANKEI

フジテレビ系で水曜夜10時から放送されているドラマ『全領域異常解決室』は、神隠しやキツネツキといった人知を超えた超常現象を捜査する調査機関・全領域異常解決室(通称・全決)を舞台にしたオカルトテイストの刑事ドラマだ。

警視庁音楽隊カラーガード出身で、踊ることが大好きな雨野小夢(広瀬アリス)は、ある日、全決への出向を命じられ、室長代理の興玉雅(藤原竜也)とバディを組み、神隠し事件について捜査することに。

ネットでは神隠し事件が起きるたびに、ヒルコと名乗る存在が犯行声明を出しており、人々はヒルコの存在を信じて神格化していた。小夢と興玉は、神隠し事件を捏造したのは人間だと突き止め、事件は幕を閉じたかに見えた。しかし小夢は捜査をする中で、不気味な影を目撃し、やがてその正体がヒルコではないかと思うようになる。

物語は一話完結の事件モノで、名門校での集団失神事件、高層マンションの庭園に空から人体の一部も含めた物体が次々と落ちてくる事件といった不可思議な事件が起きるのだが、それらの事件は人間の起こしたものだったと判明する流れが続く。だが一方で、事件現場に怪しい少女(福本莉子)が現れ、彼女がヒルコではないかと匂わされる。

人間による犯罪を描くミステリー&サスペンスと人知を超えた超常現象を描くオカルト&ファンタジーの間で揺れながらドラマは進んでいくのだが、第6話で物語は大きく舵を切る。

前話(第5話)に登場した予知能力を持つ小学生の娘の正体が市寸島比売命(イチキシマヒメノミコト)という神だと語った興玉は「この世界にはたくさんの神が人間とともに暮らしている」と語り、神が起こす不可思議な事件解決に導くのが「全決」の役割で、謎の神・ヒルコと戦争状態にあると、小夢に告げる。

そして、興玉は興玉神(オキタマノカミ)、局長の宇喜之民生(小日向文世)は宇迦之御魂神(ウカノミカマノカミ)、全室から依頼があれば、なんでも運んでくるデリバリースタッフの芹田正彦(迫田孝也)は猿田毘古神(サルタビコノカミ)、そしてこれまでヒルコだと思っていた謎の少女は豊玉神社の巫女・豊玉妃花で、その正体は豊玉毘売命(トヨタマビメノミコト)という、神の魂が人間に宿った存在だったことが明らかとなる。

ミステリーから異能力バトルへと大転換させた黒岩勉の大胆な脚本

興玉たち神々は、それぞれ特殊能力を持っていて、その力を駆使してヒルコと戦っていた。日本神話をベースにしたオカルトテイストのミステリードラマと思っていたら、神々の戦いを描いた異能力バトルへと話が大転換したのだから、驚きである。

本作のような「ミステリーから異能力バトルへ」と大転換した作品は全くなかったわけではない。

例えば西尾維新の小説「戯言シリーズ」(講談社)や松井優征の漫画『魔人探偵脳噛ネウロ』(集英社)がそうだったし、テレビドラマでは2010年に放送された『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBS系)が、超能力を偽装した犯罪を描いたミステリードラマと思わせておいて、第一話の終盤で本物の超能力者が登場するという超展開を描いて話題になった。
そのため『全領域異常解決室』の転換も想像はしていたが、これまで登場した人物のほとんどが日本神話の神だったというという展開は、現代を舞台にしたテレビドラマでやるには荒唐無稽で、その大胆さに痺れた。

本作の脚本を担当している黒岩勉は、『マイファミリー』(TBS系)や『ラストマン-全盲の捜査官-』(同)といった日曜劇場(TBS系日曜夜9時〜)の常連で、リアルタイムで起こっている犯罪を実況中継していくように見せる連続ドラマを得意としており、心理描写に重点を置いたサスペンス&ミステリーを得意とする脚本家だ。

だからこそ本作もミステリードラマだろうと思い込んでいたのだが、一方で黒岩は『ONE PIECE』のアニメ映画や『キングダム』や『ゴールデンカムイ』といった人気漫画の実写映画化の脚本にも多数関わっている。

その意味で、漫画やアニメに対する理解が深い脚本家だと言えるだろう。

『全領域異常解決室』のミステリーから神々の異能バトルへという大転換は、実写映像作品が突然、漫画やアニメに変わったかのような世界観の変化で、下手な脚本家が書いたら困惑するのだが、とても自然な型で移行しており、人間ドラマとしてのリアリティも保っているのだから、恐るべき筆力である。

そして第7話では、雨野小夢もまた天宇受売命(アメノウズメノミコト)という神だったことが判明する。
物語は4ヶ月前にさかのぼり、実は小夢こそが全決の室長だったことが描かれる。しかし小夢は、ヒルコとの戦いで神としての記憶を消されてしまい、その後、人間として暮らしていた。

興玉たちは、彼女の記憶を取り戻すため、全決に呼び寄せるのだが、そこで物語は第1話に繋がる。つまり第7話は時系列においては、第1話の前日譚(第0話)となるのだが、ここで前日譚を持ってくる構成も実に巧みで、うまい見せ方だと感じた。物語はこれから終盤に向かうのだが、ヒルコの正体はいまだ謎で「神ではなく、実は人間ではないか?」と小夢は疑っている。

ドラマでは異例の「神々の異能力バトル」を描こうとしている本作を黒岩勉が、どこに着地させるのか、今後の展開が楽しみである。


フジテレビ系 『全領域異常解決室』 10月9日スタート 毎週水曜よる10時

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。

※記事内の情報は執筆時点の情報です