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大物俳優の登場に「さすがすぎる」「ホッとした」震災表現をシリアスにしすぎない演出の妙

  • 2024.11.1

連続テレビ小説『おむすび』の第5週「あの日のこと」では、1995年に発生した阪神・淡路大震災について描かれる。神戸にいた米田家は、どんな被害を受けたのか。それにより、結(橋本環奈)と歩(仲里依紗)姉妹のあいだに、どんな確執が生まれたのか。明かされた過去は重いものだったが、絶妙なタイミングで登場する祖父・永吉(松平健)の様子に、SNSでは「さすがすぎる」「マツケンが来てくれてホッとした」などの声が挙がっている。

「どうやって来たの?」のツッコミも

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『おむすび』第5週(C)NHK

震災に巻き込まれた米田家は、近くに複数ある避難所のひとつに身を寄せる。歩の親友であり、幼い結とも親交のある真紀(大島美優)も別の避難所にいると思われていた。しかし、明かされたのは、子どもたちが受け止めるには重すぎる真実だった。

なぜ歩はギャルになったのか。そして、結が歩を敬遠している理由とは。そのすべてが震災にあり、かつ真紀を亡くした一件に集約されていることが知れる。想定しえた展開ではあるものの、真紀とは震災の発生直前に「また明日!」と言い合って別れていることから、そう簡単に承服しきれず、塞ぎ込んでしまう歩の気持ちはさもありなん、と言える。

結が配給で手にしたおむすびを「これ、冷たい」「チンして」とあどけなく言うシーンなど、ささいな一瞬からも、震災が残した影響が生々しく浮かび上がってくるようだ。

どうしても重い空気が漂ってしまうが、とある人物の登場が、絶妙にマイルドにしてくれる。結や歩の祖父である永吉が、避難所に駆けつけてくれたのだ。交通網が麻痺し、支援物資も満足に届かない状況で「どうやって来たの?」といった視聴者のツッコミもあるにせよ、同時に「来てくれてホッとした」とプラスに受け止める声も多い。

永吉は現代パートでも、ルーリー(みりちゃむ)たちハギャレン(=博多ギャル連合)集団と一緒にはしゃいで写真を撮るなど、お茶目な一面を見せてくれる。前作『虎に翼』の戦時中のシーンなど、重いシーンは重苦しいままに徹底した印象があった。本作『おむすび』は、シリアスさとコミカルさ、双方で良いバランスを保っているように見える。

歩はギャルじゃなかった?

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『おむすび』第5週(C)NHK

震災をきっかけに変化した、結や歩、そして父親・聖人(北村有起哉)の関係性。歩が心を閉ざし、聖人の言うところの“不良”になってしまった背景が明らかになるにつれ、聖人自身が抱える葛藤も姿をみせる。

父親として、子どもたちに向き合えなかった、という負い目。自分や他者のことばかりで、娘たちの話を満足に聞けなかった、という罪悪感。聖人が酒に酔いながらぶちまけた心の内は、長いあいだ、父親という殻を着てなんとか立っていた彼が、必死に食い止めていたものだったのかもしれない。

歩がいきなり髪を金髪に染め、親に反抗し、周りから不良やギャルと呼称されるような存在になっていった理由は、そうでもしないと立っていられなかったからだろう。人が生きていくには、支えがいる。このために生きている、といえる拠り所が要る。髪を金に染めることが、力を抜けばブレそうになる針を「生」のまま留めておくための、手段のひとつだったのだ。

歩は言っていた。「私、あのころからギャルじゃなかったから」「私ニセモノだから」と。歩から見れば、家族とも距離が空いてしまい、かつ“本物”のギャルとも違う自分の存在を持て余していた、ともいえる。そうやって生まれた孤独は、自分で抱えもつしかない。



NHK 連続テレビ小説『おむすび』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_