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天才の名演で大ヒット『日曜劇場』の傑作 キャスティングだけではないヒットの“秘密”

  • 2024.10.20

2023年に放送され、TVドラマとは思えないクオリティの高さに圧倒された視聴者が続出した、TBS日曜劇場枠のドラマ『VIVANT』。放送前に、キャストの発表はあっても、役柄やストーリー、タイトルの意味などは明かされず、謎に包まれているところも興味を誘った。

※ネタバレを含みますので、ご注意ください。

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(C)SANKEI

CGを使わない迫力の映像と複雑な役を演じる堺雅人の名演

第1話から、広大な砂漠をさまよう、堺雅人演じる主人公・乃木憂助が、もう1つの人格と話しながらスーツ姿で歩き回る様子に、度肝を抜かれた。撮影にCGは使用されておらず、実際にモンゴルでロケを行ったと知り、通常の日本のドラマでは考えられない予算が投じられたことを実感。乃木をはじめとする登場人物たちは、ラクダに乗って移動したり、モンゴル軍の戦車を使用したシーンがあったりと、本当にとんでもないビッグスケールの場面が続々と描かれていった。

乃木は当初、バルカ共和国(実際にはない架空の国)の太陽エネルギープラント事業を担当する商社マンとして現地に出張しているという設定だったが、徐々に彼の正体が明かされ、ストーリーが大きく展開していく。前出の別人格をはじめ、児童養護施設で丹後隼人として育った過去や、凄腕の工作員の顔も持つ、乃木という難役を、堺は見事に体現。ハイクオリティの本作を、さらに一段も二段もレベルアップさせた堺の功績に、視聴者は惹き付けられた。

タイトルの意味が表す謎の組織とは

『VIVANT』は、『半沢直樹』などで知られるヒットメーカー、福澤克雄が原作と演出を手掛けたオリジナルドラマ。福田は、ラジオで「別班」の話を聞いて本作を構想したという。別班とは、自衛隊の非公然の秘密情報部隊のことだそうで、隊員は身分を偽装しながら海外で情報集活動を行ってきたとされている。別班をモンゴル語で発音すると、VIVANTになるという。

ドラマを観進めるうちに、「別班とは何なのか? 誰が別班なのか?」ということが気になり、捜査を行う警視庁公安部外事の警視・野崎守(阿部寛)と共に、真相を知りたくてたまらなくなる。乃木と知り合い、親しくなる医師の柚木薫(二階堂ふみ)は、善人に見えるが実は怪しいのではないだろうか、別班なのではないかなどと、放送当時、SNSでは大いにザワついた。

激しいアクションシーンに挑んだ堺雅人と松坂桃李

また、主要キャストの1人として発表されていた松坂桃李が、なかなか登場せず、彼の役どころを想像しながらヤキモキする視聴者も続出。「敵か味方か、味方か敵か―冒険が始まる」という、本作のキャッチコピーが示すように、誰が善人で誰が悪人なのかも分からず、そもそも乃木自身も善か悪かハッキリせず、とにかく翻弄させられた。

ハードなアクションシーンも多く、カースタントやガンアクションなど、本格スパイアクション映画を観ているかのような気分にもなった。今回、観返したところ、地上波の夜9時に放送されていたとは思えない拷問シーンもあり、攻めた番組だったなと改めて感じた。特に主演の堺、そして松坂は、さまざまなアクションに挑み、体を張って表現しているのが印象的だった。

予算を惜しまない豪華なキャスティング

キャストが豪華なのも本作の見どころの1つで、堺、阿部、二階堂、松坂、さらに役所広司という、主要キャラクターを演じる全員が主演級俳優。これだけのキャストが顔を揃えているのに、もう1人のメインキャストとして、二宮和也がサプライズ登場し、視聴者は大騒ぎに。二宮が加わった後、ストーリーの心理戦的側面がより盛り上がり、ますます先の読めない展開が繰り広げられた。

主要な登場人物の1人に、バルカ警察の現場指揮官であるチンギスがいる。彼は阿部が演じる野崎と協力し合う重要キャラクターだが、演じているバルサラハガバ・バタボルドは、モンゴル映画界のスターだ。彼も含め、豪華キャストを多数集めていることからも、高い予算が投じられたことが分かる。

通常のTVドラマよりも多いカット数で撮影

冒頭に、「TVドラマとは思えないクオリティの高さ」と書いたが、これは『VIVANT』の制作費が潤沢だったため、通常の日本のドラマと違い、カット(場面)数を多く撮れることで、映画並みのハイクオリティの映像になっていることも意味している。カット数が多いほど、映像のテンポの速度が上がり、見応えのある映像となる。反対に、カット数が少ないとテンポがスローになるので、緩慢で退屈な印象を与えることも。カット数が多かった本作は、視聴者の興奮を高め、TVドラマとは思えない迫力を感じさせたのだろう。

何度も観ることで新たな発見がある傑作ドラマ

乃木の幼少期の秘密、彼が商社マンとして潜入している理由、別班の謎、そして役所や二宮が演じる日本人キャラクターたちがバルカで行っている事業の真相など、目まぐるしく綴られる先の読めないストーリーに引き込まれ、豪華キャストの名演に釘付けになり、結末が知りたくて、夢中にならずにいられない傑作ドラマ『VIVANT』。一度観た人も、再び観たり、何度も観ることで、新たな発見があると思うし、もっと深みを感じることができるのではないだろうか。

筆者が改めて思う本作の魅力は、堺の演技の幅の広さと、彼に食らいついていくキャラクターを熱演した松坂の雄姿だ。ちなみに松坂は、出演が発表された際、「風の噂で、錚々たる俳優の方々がこの一大プロジェクトに参加されることを聞き、『なんとか僕も出演したいです!』と自ら志願しました。アクションを起こさずにはいられない衝動に駆られました」とコメントしている。多くの作品で主役を張る松坂でさえ参加したかったくらい、『VIVANT』は話題のドラマだったことを最後に記しておきたい。



TBS『VIVANT』

ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)

海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。

X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP