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ハマる視聴者、続出!『ライオンの隠れ家』巧みなストーリー展開で秋ドラマ屈指の話題作に

  • 2024.11.21

2024年10月期のテレビドラマで最も考察要素の強い作品は、『ライオンの隠れ家』だ。失踪した姉と謎の子どもの突然の来訪、遠い地域で起きた行方不明事件が複雑に絡み合い、主人公の兄弟に降りかかる。事件の真相とともに家族とは何かを問いかける内容も評判を呼び、毎週「続きが気になる」という声が聞かれる作品だ。

※本記事は第6話までのネタバレを含みます。

「ライオン」を名乗る少年の突然の来訪

主人公は役所に勤める小森洸人(柳楽優弥)。洸人は自閉スペクトラム症の弟・美路人(坂東龍汰)と2人暮らし。異母姉弟の姉がいたが、失踪して行方知れずとなっている。

平凡だが平和に暮らす小森兄弟の前に、ある日「ライオン」と名乗る少年が現れる。「ここで生活する」と言い出すライオンの登場に、同じルーティーンを重んじる美路人はパニックになるが、徐々に心を開いていく。ライオンがどこから来たのか不明だが、身体には痛々しい虐待の痕と思しきアザがあり、洸人は両親から逃げてきた可能性を考慮してすぐには警察に連絡しないでいた。手がかりになりそうなものは、ライオンが持っていたスマートフォンに、謎の人物「X」から届くメッセージのみ。一体、だれが何の目的でライオンを小森家に置いていったのか、洸人には皆目見当がつかなかった。

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金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』第6話より(C)TBS

一方、とある地方で橘祥吾(向井理)が行方のわからなくなった妻・愛生と息子の身を案じていた。その事件のニュースを見ていた洸人は、「愛生」という名前に驚く。その名前は、失踪した姉と同じ名前だったのだ。もしかして、ライオンは姉の子どもではないかと洸人は思い始め、橘祥吾に会いに行く。一方で、週刊誌の記者・楓(桜井ユキ)は、この事件に裏があると感じて独自に取材を進めていた。死んだと思われていた愛生が生きていることを突き止めた楓は、事件の裏を追いかけていく。そして、愛生と連絡がとれ、ライオンと一緒に会いに行く決意を固める洸人だったが、警察に阻まれ、そこにはなぜか洸人の同僚、美央(齋藤飛鳥)もいた。わけがわからず洸人は混乱し、真相はますます混迷を極めていく。

感動の再会かと思われたが、愛生は警察に連行され、なぜか息子を殺害したと供述。事件の謎はますます深まっていく。なぜ、愛生は橘祥吾のもとを離れたのか、ライオンの身体のアザはだれにつけられたのか、そして「X」を名乗る人物の目的は何かなど、複数の謎が交錯するように進んでいく本作。6話では多くの謎が明かされたが、緊迫する展開が続いており、小森兄弟とライオンの行く末がどうなるのか、視聴者は固唾を飲んで見守っている。

柳楽優弥が見せる意外な優しい一面

そんな謎解き要素に引き込まれる一方で、本作は家族の絆を問う物語として深い人間ドラマを描いてもいる。両親を早くに失くした小森家の兄と弟の絆は、見る者を温かい気持ちにさせる。自閉スペクトラム症の弟・美路人は、デザイン会社で働いており絵の才能を評価されている。彼は毎週決まった時間に正確に同じことを繰り返すことを好むので、合わせるのが大変だと感じながらも、洸人は弟との生活を楽しく過ごしていた。

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金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』第6話より(C)TBS

そんな2人にとってライオンの突然の来訪は生活を乱すものだった。特にこれまでの生活ルーティーンを壊された美路人にとっては、邪魔な存在でしかなかったはず。しかし、そんな2人の間に絆が芽生えていく過程が感動的に描かれているのだ。素性のわからない子どもと生活するという、ある種の疑似家族を形成していき、小森兄弟は意外にも自分の生活を豊かにさせていくのだ。

そんな感動の物語を彩る役者陣が素晴らしい。洸人を演じる柳楽優弥は、これまでの彼の荒々しい魅力とは打って変わって心優しくお人よしな青年を演じている。これは意表を突いたキャスティングに思えるが、柳楽は本来、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した『誰も知らない』で注目された時にも、小さな弟と妹たちを世話する兄を演じていた。誰かの面倒を見るお兄ちゃんという役どころは、実は彼の持ち味でもあるのだ。

弟の美路人を演じるのは、坂東龍汰。自閉スペクトラム症の青年という難易度の高い役どころに挑んでいるが、様々な関連映像で研究したそうで、迫真の演技を披露している。自閉スペクトラム症の監修は発達障害のための子どもたちの教室を運営するさくらんぼ教室が行っており、幼少期の美路人は同教室に通う子どもによって演じられている。

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金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』第6話より(C)TBS

ライオンの母である愛生を演じるのは尾野真千子だ。尾野真千子と言えば、2010年に放送され、今も名作と名高いドラマ『Mother』でネグレクトや虐待する若い母親を演じたことのある役者だ。今回の役どころは、そんな彼女のキャリアを反映したものといえ、愛生がライオンを虐待していたのかもとつい想像してしまう。本当に彼女が子どもを虐待していのかどうか、その謎も本作の大きなポイントとなっている。

ジャーナリストの楓を演じているのは、NHKの朝ドラ『虎に翼』で良家の令嬢・涼子役を演じた桜井ユキ。涼子とはイメージが全く異なる、恐れを知らない度胸ある記者を演じており、演技力の幅広さを見せつけている。また、主人公たちを監視するような謎の行動を見せる美央を演じる齋藤飛鳥も大きな存在感を発揮している。また、橘祥吾を演じる向井理や、主人公の同僚役の岡崎体育、昔馴染みの食堂の主役・でんでんなど脇を固める個性派俳優の活躍も見逃せない。

本作のタイトルにある「ライオン」という動物は作中で、群れ(プライド)を作って生きる存在と言われる。人間もまた1人では生きられず、家族という群れを作るものだ。このドラマは、人間にとって安心できる「プライド」の大切さを描いたものとも言えるだろう。小森家は小さな子どもにとっての安心できる「プライド」となれるのか。今後の展開も要注目だ。


TBS系 金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』 毎週金曜よる10時

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi