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『虎に翼』に『地面師たち』まで…今、数多くの作品に「芸人俳優」が求められるワケとは

  • 2024.9.5

SNSを中心とした口コミから火が着き、Netflixのグローバルトップ10リストに5週連続ランクインを果たしているドラマ『地面師たち』。ハリソン山中(豊川悦司)の「最もフィジカルで最もプリミティブで最もフェティッシュなやり方でいかせていただきます」、後藤(ピエール瀧)の「もうええでしょ」といった思わず真似したくなる名ゼリフも話題となっている理由の一つだが、ドラマには綾野剛、山本耕史、池田エライザといった豪華キャストに混じって意外な芸人が出演している。それがマテンロウのアントニーだ。

アントニーが演じるオロチは、竹下(北村一輝)のパシリで、辻本(綾野剛)、最後にはハリソンの下につき地面師になることを夢見るものの……といった役柄。大雑把でヘマをやらかすことも多く少々頼りない部分もあるが、大柄でコワモテ、それにどこか憎めないキャラクター性も持ち合わせている。アントニー自身はこれが初の演技というわけではないが、話題作への出演という意味ではこれが俳優としての代表作になるだろう。

芸人がドラマや映画といった映像作品に出演するようになると、徐々に芸人俳優と呼ばれるようになっていく。ドラマ『サ道』(テレビ東京)のネプチューン・原田泰造、『半沢直樹』(TBS系)を筆頭にして『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ)、映画『怪物』など、その演技力が高く評価されている東京03・角田晃広は、芸人俳優の代表格である。

・塚地武雅(『虎に翼』『新宿野戦病院』)

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(C)SANKEI

原田や角田に並んで、芸人であり、俳優としても活躍するのがドランクドラゴンの塚地武雅だ。数々の賞を獲得した映画『間宮兄弟』や『裸の大将 21世紀版』(フジテレビ系)など、その出演作品数は枚挙にいとまがない。現在放送中の2024年7月期、夏ドラマでは朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)と『新宿野戦病院』(フジテレビ系)の2作品に出演中だ。

塚地が朝ドラに出演するのは『まれ』(2015年)、『おちょやん』(2020年)に続き、『虎に翼』で3作目。演じるのはヒロイン・寅子(伊藤沙莉)が働いていた法律事務所の代表・雲野六郎。人情に厚く、貧しい人や弱い人の弁護をタダ同然で引き受ける困った、よく言えば正義の人だ。寅子が新潟地裁から東京地裁に帰ってきた「ふたたびの東京編」で雲野は再登場。寅子が担当する原爆裁判で、原告代理人を務めている。東京地裁の廊下で寅子と再会した雲野だが、轟(戸塚純貴)とよね(土居志央梨)と会っていることや直明(三山凌輝)の結婚のことなど、裁判官と弁護士という立場的にもあまり喋らない方がいいことをぺちゃくちゃと。雲野法律事務所で働く岩居(趙珉和)は気が気ではない。9月2日放送の第111話では、約4年の間、原爆裁判の準備手続に携わり、いよいよ口頭弁論が始まろうとする最中で雲野が急逝。「わたしはおにぎりが大好きなんだ」という塚地が『裸の大将』(フジテレビ系)で演じた山下清を彷彿とさせるセリフがラストとなった。雲野の遺志は、岩居や轟、よねへと継承されている。

一方の『新宿野戦病院』は『虎に翼』とキャスト被りが多いことでも話題の作品。塚地だけでなく、仲野太賀、岡部たかし、平岩紙、余貴美子といった面々に加えて、趙珉和までもが登場。SNSにアップされた、両作品で共演する塚地と趙の“転生”ショットは、全く別人の役柄に大きな反響が寄せられた。

『新宿野戦病院』で塚地が演じるのは、看護師長の堀井しのぶ。見た目は男性だが、性自認は女性。院長の高峰(柄本明)に採用され、聖まごころ病院で看護師として働いている。英語混じりのヨウコ(小池栄子)の通訳も担当する優秀かつチャーミングなキャラクターだ。第7話は彼女のいわゆる主役回で、認知症を患う母を持つ一人息子としての自分と看護師としてのもう一人の自分――広く捉えれば塚地は今期で3人の役柄を行き来しているとも言えるだろう。俳優キャリア20年以上となる塚地だからこその成せる芝居だ。

・秋山竜次(『光る君へ』)

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(C)SANKEI

大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)では、藤原の“F4”こと藤原斉信を演じるはんにゃ.の金田哲やまひろ(吉高由里子)の従者でお馴染みの乙丸を演じるカラテカの矢部太郎などが出演しているが、中でも異彩を放っているのがロバートの秋山竜次だ。

俳優としては『俺の家の話』(TBS系)、『不適切にもほどがある!』(TBS系)、『コントの日』(NHK総合)などへの出演経験のある秋山が演じるのは、道長(柄本佑)の先輩にあたる天皇の側近で、政務や宮中の様子を綴った日記『小右記』でも知られる藤原実資。正義と筋道を重んじると同時に、プライドが高い頑固者だ。平安時代にオウムを飼っていることもどこか風変わりであり、一条天皇(塩野瑛久)への不満を抱く実資の「非難すべし!」という愚痴をオウムが「スベシ」と返すユニークな一幕もあった。

SNSでは“ロバート実資”の愛称で親しまれており、回を増すごとにコント色が強まってきている印象だ。第32回「誰がために書く」では、従二位に昇進させるべく、公任(町田啓太)に辞表作戦を指南。実資に感謝を示す公任のところに斉信がやってきて、「ただのごね得ではないか。帝のお心もたわいないものにおわすな」と小馬鹿にするも、実資は「従二位、従二位、正二位」と位階の違いを斉信に分からせ、それに公任も続いていく。位の差にぐうの音も出ない斉信、実資と一緒になって位を唱える公任の構図はもはやコント乗りだ。NHKアーカイブスでのインタビューで、「豪華なセットなので、いつもきょろきょろしながら「画面に映っていない奥の小部屋でもいいからコントを撮らせてほしい」と思っています」と答えているが、その願望は半分叶っているとも言えるのではないだろうか。

・藤井隆(『西園寺さんは家事をしない』)

芸人だけでなく、歌手に、MCにとマルチに活躍する藤井隆は、現在ドラマ『西園寺さんは家事をしない』(TBS系)に出演中。西園寺(松本若菜)、楠見(松村北斗)が働く「レスQ」の社長・天野を演じている。社員から愛されるムードメーカーな一面は、藤井本来のイメージそのままといった印象だ。藤井は今年10月公開の映画『チャチャ』にもキャストとして名を連ねているが、筆者が試写で観たある映画作品(キャストとしては未発表)にも登場しており、ある種『西園寺さん』とは真逆といったその藤井のキャラクター性を封じた役柄だった。

ゆりやんレトリィバァは、Netflixシリーズ『極悪女王』でダンプ松本役に

ほかにも朝ドラ『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)を筆頭に、今年10月公開の映画『まる』など、俳優としての道を着実に歩んでいるおいでやす小田、『グレイトギフト』(テレビ朝日系)、『GO HOME~警視庁身元不明人相談室~』(日本テレビ系)など俳優業にも意欲を見せている見取り図・盛山晋太郎、『地面師たち』に続きヒットが期待されているNetflixシリーズ『極悪女王』でダンプ松本役として主演を務めるゆりやんレトリィバァ、さらに先日大河ドラマ『べらぼう』(NHK総合)への出演が発表された鉄拳まで。

一見すると芸人の映像作品への起用は単なる話題作りに思えてしまう時もあるかもしれない。けれど、塚地や秋山のコントを例にして、お笑いのフィールドで培われた演技力は朝ドラ、大河という老若男女が視聴するドラマの中で、一つのアクセントを生み、作品全体にさらなる深み、色を与えている。藤井のようにそれが視聴者の中で当たり前のように馴染んでいった時、それは芸人俳優としてのポジションを勝ち得たということが言えるのではないだろうか。そこにはきっと芸人俳優として背負う矜持がある。


ライター:渡辺彰浩
1988年生まれ。福島県出身。リアルサウンド編集部を経て独立。荒木飛呂彦、藤井健太郎、乃木坂46など多岐にわたるインタビューを担当。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』、ドラマ『岸辺露伴は動かない』展、『LIVE AZUMA』ではオフィシャルライターを務める。