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表情、声のトーン、声量…“群を抜いて優れている” 2024年、話題沸騰!  海外の高評価も納得の【杉咲花】の確かな演技力

  • 2024.11.18

TBS系列ドラマ『海に眠るダイヤモンド』第3話は、主人公・鉄平(神木隆之介)の幼馴染の一人・朝子がメインの回となった。健気で可愛らしい朝子を演じるのは杉咲花。杉咲は、春ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ/以下 アンメット)の川内ミヤビ役でも脚光を浴び、第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞で主演女優賞を獲得している。ミヤビ役、朝子役を通して、強く感じさせられた杉咲の芝居の巧みさに注目したい。

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(C)SANKEI

2024年前期の最高傑作ドラマ『アンメット』

『アンメット』は、杉咲花が主演を務めた2024年の春ドラマ。第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞では前述した主演女優賞だけでなく、最優秀作品賞や脚本賞、監督賞も獲得し、東京ドラマアウォードでは、連続ドラマ部門で優秀賞も獲得。フランス・カンヌで開催された世界最大コンテンツ見本市「MIPCOM」では奨励賞を受賞し、国内だけでなく国外からも高い評価を受けている。

『アンメット』は、同名漫画を原作としたドラマだが、原作の主人公がミヤビの同僚である三瓶友治(若葉竜也)であるのに対し、ドラマでミヤビへと変更されている。『アンメット』の原作のテーマは、「障害を持ったままどう生きていくか」ということ。それをより深く表現するために施された改変であるが、インタビューによれば原作者の子鹿ゆずるはミヤビを主人公にという提案にワクワクしたから、カンテレでのドラマ化にGOサインを出したという。

サブキャラクターは基本的には、主人公よりもキャラクターが弱く設定されている。原作のサブキャラクターを主人公にするというのは、そんな簡単にこなせる改変ではないのだ。それでもドラマ『アンメット』がミヤビを主人公として成り立っていたのは、演じたのが杉咲花だからだろう。

優秀な脳外科医だったにもかかわらず、1日しか記憶が保てない障害によって看護助手として働いていたミヤビは、自分の内面に存在する葛藤をひた隠して生きている。心配されないように笑顔で穏やかに、波風を立てないように。毎日、自分の日記を読み返して覚え直している手間を、感じさせない普通さを守って生きている。

そんなミヤビの生活は、三瓶友治の登場で一変。優秀な脳外科医だったころのミヤビを知っている三瓶は、ミヤビが医療行為に踏み出し、再び脳外科医としてのやりがいを取り戻せるように働きかける。普通を装っているミヤビが三瓶からの働きかけによって、脳外科医としての欲を取り戻し始めるのだ。それでもなくならない記憶障害との狭間で葛藤した末にこぼす涙には、ミヤビが抱えてきた悔しさが詰まっていた。

『アンメット』で杉咲が演じたミヤビは、喜怒哀楽が激しいわけでも、特徴的なリアクションを見せるわけではない。それでも、表情の些細な変化や声色からミヤビの普段の人物像と内面に抱える葛藤が手に取るように分かるほど、鮮やかに表現されていた。

何を演じても本物にしか見えない表現力

ドラマや映画は、言ってしまえば偽物だ。俳優たちは台本にあるやりとりを事前に認識したうえで、会話や反応を見せている。その分かりきったやりとりをどれだけ本物のように見せられるかが、最も重要と言える。その点で、杉咲の芝居は群を抜いて優れているのだ。

セリフを話す相手によって変化する声のトーンや声量の自然さ、感情がビシビシ伝わってくる表情、役柄ごとに変化する所作。その状況で、その感情を抱えて生きている人物がそのままカメラの前にいるとしか思えない説得力が、杉咲の芝居には宿っているのだ。

その上で注目したいのが、杉咲の涙を流す芝居。映画『市子』や映画『52ヘルツのクジラたち』では、杉咲が表現する悲しみや苦しみ、それによってこぼす涙の表現の多彩さに驚かされた。あまりにも自然な感情表現に、見ている者も思わず涙してしまう。真実にしか見えない芝居の力が、作品を本物に押し上げる一助となっているのだ。

『海に眠るダイヤモンド』の朝子は、食堂の看板娘として働く女性。朝子が抱える鉄平への恋心を感じさせるいじらしい表情やふてくされたような反応、そんな感情を溢れさせるようにポロっとこぼすセリフが、たまらなく愛らしい。SNSでは、そんな朝子に対して、第1話放送時から、「かわいい!」「恋を応援したい」という声が溢れていた。第3話では鉄平への一途な恋心のきっかけと、“食堂の朝子ちゃん”ではない自分を求めるほのかな願いが明かされた。

可愛いだけに止まらず、陰りや葛藤も内面に持つ朝子役は、杉咲の演技力を存分に味わえる役柄と言えるだろう。


ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。X(旧Twitter):@k_ar0202

※参考:公式サイト『アンメット ある脳外科医の日記』ある制作チームの日記